98 / 105
第4章「先生としてって言ったけど」
5.プレゼント
しおりを挟む琉生が連れて行ってくれた本屋さんは、めちゃくちゃ大きかった。今までもいくつか大型の書店に行ったことはあったけど、ダントツで広くて、びっくり。
参考書も、見たことないくらいたくさんあって、数学の参考書ってこんなにあるんだとびっくり。琉生のだけじゃなくて、ちょっと面白い解説がしてある数学の本を私も購入した。
その後、琉生が小説もたくさんあるよ、というので、別の階に。
きゃー、と叫びたい位。本の山。
すっごい楽しくて、あれやこれやと開いていたら、あっという間に時間が経ってた。
自分も本を開きながら、なんとなく近くに居てくれた琉生にふっと気づいて、琉生を振り返ると。
「買いたい本、決まった?」と笑顔。
「……ごめんなさぃ、なんか夢中になって」
琉生の存在を少しの間忘れてたかも……とは言えず、そう謝ると。
「オレも本見てたし。琴葉、すごい楽しそうだったから、全然いい」
クスクス笑いながら、そんな風に言う。
「やっぱりネットで本を買うより、本屋さんの方がわくわくしちゃって」
「うん。分かる」
「分かる?」
「うん。手にとって、開くのって違うよね」
「そうそう! 電子書籍、便利だけど、やっぱり、紙が好きだなあ」
「うん」
クスクス笑って、琉生が頷いて、「また来ようね」と笑う。
「ちなみに、もうお昼だからさ、混んじゃうから食べにいこ?」
「えっそんな時間?」
「うん。本屋に来て二時間くらい経ったかな」
「あの……ごめんね」
「全然いいよ。オレも買いたい本、選んだし。琴葉は、決めた?」
「うん、決めた」
「じゃあ買いに行こ」
「うん」
上下巻も込みで五冊持って、もう私はとっても幸せ気分。ほんとはもっと買いたかったけど、参考書も買ったから重くて、適度なとこにしておいた。レジも、ものすごい台数なんだけどそれでも混んでいて、二人で並んだ。
「ねね、琴葉」
「ん?」
「その中で一番好きな本、どれ?」
「これ」
「即答だね」
ふ、と笑った琉生が、私の手からその本を取った。
「これ、オレが買ってもいい?」
「え??」
「プレゼントする。ついてきてくれたお礼」
「え、いいよ。もう、結局私の方が楽しんでたような気がするし」
いいよいいよと首を振っていると、琉生はクスクス笑って、いいから、と笑う。
「なんなら、琴葉の好きな本、オレが買ってあげたっていう思い出が欲しいだけだから」
「――――」
……何それ。
…………なんでそんな、可愛いこと言うんだろう。
なんか胸が痛いなぁ……。
「じゃあ……琉生が持ってる中で好きな、本は?」
「オレはね……これ」
琉生も三冊持ってた中の、背表紙のひとつを指さした。
「じゃあそれ、私が買う」
「え」
「お礼とか……色々」
「――――」
琉生は少しの間、面白そうに私を見ていたけど。
ふ、と笑いながら、その本を取って、私の手にそっと渡した。
「じゃあ、プレゼントしあおう」
嬉しそうにそう言われて、なんだかすごく照れるというか、くすぐったい気持ち。
なんだろ。これ。
胸、またちょっと痛い。
レジの列が進んで、琉生が先に空いたレジに向かう。その背中を見送りながら。
ふう、と息をついた。
なんか。
……琉生、時たま、すごく可愛くて困る。
最初の日に会った時は、私泣いてたし酔ってたし、弱ってたし。
年はあんまり気にしなかったけど、すごく年下とも思わなかった。頼ってしまった感があったし。
「王子様」だったしなぁ。
「お客様、どうぞ」
私も呼ばれて、レジに向かう。
「これだけ、カバーつけてください」
琉生の本だけ、なんとなく。後は、参考書と一緒に紙袋に入れて貰った。
ずっしり重いけど。読むの、楽しみ。
会計の出口のところで待っていた琉生と、合流すると、なんか楽しそう、と笑われる。
「本を買った時って、嬉しくて早く読みたくならない?」
「なる。……あ、でも今日は、帰ってから読んでね。もう少し、オレに付き合って」
クスクス笑いながら、琉生が言うので、もちろん、と頷いた。
12
お気に入りに追加
579
あなたにおすすめの小説
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
寡黙な彼は欲望を我慢している
山吹花月
恋愛
近頃態度がそっけない彼。
夜の触れ合いも淡白になった。
彼の態度の変化に浮気を疑うが、原因は真逆だったことを打ち明けられる。
「お前が可愛すぎて、抑えられないんだ」
すれ違い破局危機からの仲直りいちゃ甘らぶえっち。
◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
【完結】【R18】男色疑惑のある公爵様の契約妻となりましたが、気がついたら愛されているんですけれど!?
夏琳トウ(明石唯加)
恋愛
「俺と結婚してくれたら、衣食住完全補償。なんだったら、キミの実家に支援させてもらうよ」
「え、じゃあ結婚します!」
メラーズ王国に住まう子爵令嬢マーガレットは悩んでいた。
というのも、元々借金まみれだった家の財政状況がさらに悪化し、ついには没落か夜逃げかという二択を迫られていたのだ。
そんな中、父に「頼むからいい男を捕まえてこい!」と送り出された舞踏会にて、マーガレットは王国の二大公爵家の一つオルブルヒ家の当主クローヴィスと出逢う。
彼はマーガレットの話を聞くと、何を思ったのか「俺と契約結婚しない?」と言ってくる。
しかし、マーガレットはためらう。何故ならば……彼には男色家だといううわさがあったのだ。つまり、形だけの結婚になるのは目に見えている。
そう思ったものの、彼が提示してきた条件にマーガレットは飛びついた。
そして、マーガレットはクローヴィスの(契約)妻となった。
男色家疑惑のある自由気ままな公爵様×貧乏性で現金な子爵令嬢。
二人がなんやかんやありながらも両想いになる勘違い話。
◆hotランキング 10位ありがとうございます……!
――
◆掲載先→アルファポリス、ムーンライトノベルズ、エブリスタ
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる