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第4章「先生としてって言ったけど」
5.プレゼント
しおりを挟む琉生が連れて行ってくれた本屋さんは、めちゃくちゃ大きかった。今までもいくつか大型の書店に行ったことはあったけど、ダントツで広くて、びっくり。
参考書も、見たことないくらいたくさんあって、数学の参考書ってこんなにあるんだとびっくり。琉生のだけじゃなくて、ちょっと面白い解説がしてある数学の本を私も購入した。
その後、琉生が小説もたくさんあるよ、というので、別の階に。
きゃー、と叫びたい位。本の山。
すっごい楽しくて、あれやこれやと開いていたら、あっという間に時間が経ってた。
自分も本を開きながら、なんとなく近くに居てくれた琉生にふっと気づいて、琉生を振り返ると。
「買いたい本、決まった?」と笑顔。
「……ごめんなさぃ、なんか夢中になって」
琉生の存在を半分忘れてたかも……とは言えず、そう謝ると。
「オレも本見てたし。琴葉、すごい楽しそうだったから、全然いい」
クスクス笑いながら、そんな風に言う。
「やっぱりネットで本を買うより、本屋さんの方がわくわくする」
「うん。分かる」
「分かる?」
「うん。手にとって、開くのって違うよね」
「そうそう! 電子書籍、便利だけど、やっぱり、紙が好きだなあ」
「うん」
クスクス笑って、琉生が頷いて、「また来ようね」と笑う。
「ちなみに、もうお昼だからさ、混んじゃうから食べにいこ?」
「えっそんな時間?」
「うん。本屋に来て二時間くらい経ったかな」
「あの……ごめんね」
「全然いいよ。オレも買いたい本、選んだし。琴葉は、決めた?」
「うん、決めた」
「じゃあ買いに行こ」
「うん」
上下巻も込みで五冊持って、もう私はとっても幸せ気分。ほんとはもっと買いたかったけど、参考書も買ったから重くて、適度なとこにしておいた。レジも、ものすごい台数なんだけどそれでも混んでいて、二人で並んだ。
「ねね、琴葉」
「ん?」
「その中で一番好きな本、どれ?」
「これ」
「即答だね」
ふ、と笑った琉生が、私の手からその本を取った。
「これ、オレが買ってもいい?」
「え??」
「プレゼントする。ついてきてくれたお礼」
「え、いいよ。もう、結局私の方が楽しんでたような気がするし」
いいよいいよと首を振っていると、琉生はクスクス笑って、いいから、と笑う。
「なんなら、琴葉の好きな本、オレが買ってあげたっていう思い出が欲しいだけだから」
「――――」
……何それ。
…………なんでそんな、可愛いんだろう。
なんか胸が痛いなぁ……。
「じゃあ……琉生が持ってる中で好きな、本は?」
「オレはね……これ」
琉生も三冊持ってた中の、背表紙のひとつを指さした。
「じゃあそれ、私が買う」
「え」
「お礼とか……色々」
「――――」
琉生は少しの間、面白そうに私を見ていたけど。
ふ、と笑いながら、その本を取って、私の手にそっと渡した。
「じゃあ、プレゼントしあおう」
嬉しそうにそう言われて、なんだかすごく照れるというか、くすぐったい気持ち。
なんだろ。これ。
胸、またちょっと痛い。
レジの列が進んで、琉生が先に空いたレジに向かう。その背中を見送りながら。
ふう、と息をついた。
なんか。
……琉生、時たま、すごく可愛くて困る。
最初の日に会った時は、私泣いてたし酔ってたし、弱ってたし。
年はあんまり気にしなかったけど、すごく年下とも思わなかった。頼ってしまった感があったし。
「王子様」だったしなぁ。
「お客様、どうぞ」
私も呼ばれて、レジに向かう。
「これだけ、カバーつけてください」
琉生の本だけ、なんとなく。後は、参考書と一緒に紙袋に入れて貰った。
ずっしり重いけど。読むの、楽しみ。
会計の出口のところで待っていた琉生と、合流すると、なんか楽しそう、と笑われる。
「本を買った時って、嬉しくて早く読みたくならない?」
「なるね。でも今日は、帰ってから読んでね。もう少し、オレに付き合って」
クスクス笑いながら、琉生が言う。
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