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第3章「一人で実家帰りと思ったら」

27.見守り*千里side

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【side*千里】*見守り隊

 私が、初めて琴葉と話したたのは、涼宮学園に採用が決まって、学校に手続きに行った時だった。
 これからの学校でのことを色々聞いた帰り、琴葉と春樹と話した。
  二人が付き合ってると聞いて、ちょっと、うんざり。カップルで同じ学校に受けにきたって、なんかふざけてるのかなーと思ったから。
 教師という仕事を何だと思ってるんだろう、と。
  恋愛脳みたいな女子、好きじゃなかった。だから琴葉のこと、最初は少し引いて見ていた。 
 でも少しして分かった。そうじゃなかった。
 学校が一緒になったのは、母校で働きたいという希望を二人が持っていたから。
 学校に居る時の琴葉は、春樹のこと、目もくれず、生徒と向き合っていた。むしろ春樹の方がたまに、そのことを愚痴ってたくらい。
  私は、教師として一生懸命な琴葉を応援したいというか。一緒に、頑張っていきたいと思った。それで同僚としてじゃなくて、友達として付き合うようになった。
 
 春樹とは三人で飲みに行くようにもなったし、琴葉とはそれ以上に一緒に過ごした。
 いい先生。そう思う。
 ……春樹は、いい先生すぎる琴葉がちょっと不満だったのかなぁ。まあそこは聞いてないけど。
 
 それで、あんな、外見可愛い甘え上手な子に、なびいちゃったのかな。
 馬鹿だなぁ、ほんと。
 琴葉と結婚したら、絶対幸せになれただろうに。と私は思ってる。

 琴葉から、別れたっていう話を聞き始めた時は、やれやれ、と思った。どれくらいの間、落ち込んで過ごすんだろうと思った。でも何だか様子がおかしい。

  よくよく聞いたらなんと、琴葉が、一夜限りの関係を持ったという。
  私の知る限り、一夜の関係を持たないだろう人ランキングで、ダントツナンバーワンの琴葉が!
  ……王子様とか言っちゃってるし。
  ヤバい人にひっかかっちゃったのかな、と思ったけど、なんだかそのおかげでちょっと吹っ切れてるみたいだし、まあ二度と会わないにしても、春樹が男のすべてじゃないってことを知って良かったのかも。
 
 そんな風に思っていたら、現れた清水先生。
 琴葉のうろたえっぷりときたら。思い出すと、ほんとに可愛いなと思ってしまうけど。
 まあ確かに。超イケメン。
 遊び慣れてそうだなぁと最初は思った。琴葉には厳しいかな? と。
 
 そしたらなんか。イケメンな 割に、すごい一途な感じで琴葉を見つめる。
  琴葉のことが好きでしょうがない、みたいに見える。
 
 琴葉は、四つも年下だし、というようなことを言ってるけど。
 落ち着いてるし、清水先生ならありじゃないだろうか。
 
 学校だけじゃ、関わりも少ないし、飲みに行ってもたかが知れてる。
 琴葉の実家に、清水先生を誘ったのは、そう言う理由。
 
 清水先生の、ほんとのところが見えるかなと思ったから。

 四人がけで新幹線。私たちも居るから、別に清水先生は口説いたりしている訳じゃない。
 普通の会話をしてる。
 でも、一言でいうなら。琴葉と清水先生は、「いい感じ」だった。 
  二人の空気が優しいっていうのかな。なんかまだ照れもあるし、初々しいっていうか、可愛い……!
  この二人が、もうそういう夜を過ごしてて、琴葉が、すごく良かった、とか言っちゃってるというのが、信じられないけど。
 逆になんか、ちょっと萌えるというか。
  琴葉は、言葉の端々に、あんなモテそうな若い子、みたいなことを言う。多分、直接ではないけど、もともと生徒だったっていうのも、ブレーキをかける要因なのかもしれない。
  なんというか、琴葉は一番そういうのに縛られそうなタイプ。
 私は、別にいいと思うけど。だって、今二人とも成人だし。高校生と恋する訳じゃない。もう大学も卒業して、なったばかりとはいえ社会人。
 ……別にいいんじゃない? 止める人もいないと思うんだけどなあ。
 
 まあでも、清水先生がモテそうっていうのと、その年代の若い子たちにも絶対狙われてるだろうなあっていうのは分かる。その若い子たちには、勝てる気がしないって、琴葉が言っちゃう気持ちも、まあ、分からなくはない。
  でも琴葉にも言ったけど、それ位の年齢差なら、気にならなくなるだろうし。ていうか、琴葉、わりと童顔というか若く見えるから、目の前で並んでたって、清水先生とものすごくいい感じ。年の差なんか感じない。
  お似合いなんだけどなぁ。
 
 まあでも、まだ分からない。清水先生が、昔の好意の名残で、泣いてる琴葉に手を出して、今はまだ興味ありまくりで、ってこともあるかもしれないし。
 もう結婚とかも考える私たち世代、興味だけの若い子に時間使うのももったいないと思う気持ちは私にも分かるので、清水先生が本気じゃないなら、無し。

  ……でも。いい感じ。

 琴葉が、なんかいつもより可愛い。照れてるからかな。どう接していいか困ってるからかもしれないけど。
 そんなことを、新幹線のなかでは思ってた。

 琴葉の実家についてからは、こんなの初めてというほどに大皿料理を作った。今時こんな風に、親族で集まるところもあるんだなーという感じ。ここに、本当なら春樹と二人で来たはずの琴葉。
 多分、清水先生のことが無かったら、きっと、もっと落ち込んで、しょんぼりな空元気で帰ってきたんだろうなあと思うと、清水先生に感謝。 
 料理してる間も健司や子供たちや色んな人と、清水先生はすごく楽しそうに話してる。健司はもともと人付き合いは得意すぎるほどだし、初めての親族の中に一人で入れられても割と平気な人なんだけど。清水先生も、すっかり場に溶け込んでる。
  そういうところ、結構ポイント高し。
 別に人見知りだからってそれはそれでいいけど、まあでも、琴葉と付き合うなら、あんな感じの、人当たり良くて、優しい感じの人が良いかなあって、親友の立場からは、思うかな。

 琴葉ばかりが気をつかうような関係は、琴葉はきっと、気付かないで頑張って疲れてしまうような気がするから。
 
 周囲に気遣いが出来る人っていうとこも、ありだな。
 と、あれこれ分析。ふと、私ったら何視点なの? と思わなくもないけれど。
 まあ、だってそのためもあって、誘ったんだもんね。
 
 とにかく、割と高評価のままで、時間が過ぎて行く。

 そしたら、琴葉の幼馴染から電話がかかってきて、渋る琴葉を、たまにしか帰れないんだし行っておいでと送り出した。清水先生も、一緒に車に乗って、送りに行った。
  ちょうど片付けも終わって、ちびちゃんたちがアイスを食べだしたり、皆がとってもまったりして過ごしていたところだった。私も健司と隣に座って、周りの人達とも話しながら、のんびりしていたら、清水先生たちが琴葉を送って、帰ってきた。
  皆が口々に「おかえりー」と言う。笑顔で返しながら、清水先生は、ちびちゃんたちに誘われて、その近くに座った。そういうの苦手な人ならそこじゃなくて、一応知り合いのこっちに座るんだろうけど。平気なんだろうなーと。
 
 あの顔で、コミュ力高くて、人気者か。
 まあ、競争率はめちゃくちゃ高そう。……年が琴葉にはネックなのかもしれないけど、まあ確かに、同世代の若い子と戦う気力が、私たち世代にあるかというと……まあ私は、年では退かないけど。
 琴葉はなぁ。でも、年だけで退いてしまうには、もったいないかな、と思う感じの人ではある気がする。

「ねえねえ、るいくん」
「ん?」
 「るいくんは、こっちゃん、好き?」

  あかりちゃんが言ったその質問が、タイミング的に、皆が静かだった瞬間だったので、不意に部屋に響いた。
 多分、皆が聞こえたのだと思う。
 お、という顔で、皆が清水先生に、視線を向けた。
 
「――はは」
 
 その視線に、清水先生は、少し笑った。
 それから、あかりちゃんを見つめた。
 
「こっちゃん、には言わないでくれる?」
「うん! いいよ。ひみちゅ、ね?」
 
 しー、と指を口元にあててるあかりちゃんに、清水先生は笑った。

「大好き、かな」
「どこが?」
 「一生懸命で、いつも優しいとこ。自分が大変な時でも、人のことを考えるとことか。たくさんあるよ」
 
「でも、かれちじゃないの?? どうして……?」
「……かれちにしてほしいから、これから頑張りたいな、と思ってるところ」
 
 その言葉。
 ――おお、こんなとこで言った。と思ったけど。
 
 琴葉の親族たちが、一気に色めき立った。 根掘り葉掘り、色々聞こうと皆盛り上がってる。
 
 清水先生はもちろん、余計な、琴葉との関係は言わなかったけれど。
 まあ何というか。
 琴葉が居ない間に、琴葉の親族にすっかり認められてて、頑張れと励まされたりしている。
 ――清水先生が言った、琴葉に対する評価が気に入ったみたい。
 
 ……これ、誰か琴葉に言ったりするのかな。でも、「ひみちゅ」って、言ってたしな。
 目の前で盛り上がる、不思議な光景に、私と健司は顔を見合わせて、笑ってしまった。
 
 清水先生は、敵に回さない方がよさそう。
 ほんと、人たらしな気がする。




【千里side終わり】
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