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第3章「一人で実家帰りと思ったら」
24.あの時から。
しおりを挟む星も月も綺麗。月が川面に映って揺れていて、綺麗。なんだか、他に誰も居ないと錯覚するくらい、静か。
「……こんなところまでついてきてくれて、ありがとう」
景色が綺麗すぎて、なんだか、自然と言葉が零れた。
どうして来てくれるんだろう、とか。申し訳ないなとか、じゃなくて。何だか素直に、ありがとうと言えた気がして、そのまま、私を見つめる琉生と視線を合わせた。
「来てくれて、皆、喜んでたと思う。子供たちは、超イケメンさんって言ってたし」
ちっちゃくても分かるんだなあと、ふふ、と笑ってしまうと、琉生もクスクス笑った。
「婚約者を連れて帰るって、もうずいぶん前から言ってたから……皆もずっとそのつもりだったと思うんだけど。皆が来てくれたおかげで、その話も出ないで、ほんとに楽しく過ごせてると思う」
「なら、来て良かった。ていうか、オレも楽しいし。来させてくれてありがとうって思ってるよ」
「…………」
「……ん?」
とっさに何も答えられずに琉生をただ見ていると、呆けてる私に、にっこり笑ってくれる。
「なんか琉生って……」
「うん?」
なんて言ったらいいのか分からなくて、しばらく黙って考えてしまう。
「琉生って??」
先を促されるその声も、なんだか笑いを含んでて、甘すぎて、心臓に良くない。
そんな風に、思ってしまう。
「……来させてくれてありがとう、とか言われたら……」
「うん」
「なんだかすごく嬉しくなっちゃうよね……普通に言えるのすごいなって思う……」
そう言ったら、琉生はクスクス笑った。
「別に嬉しがらせようと思って言ってる訳じゃないけど」
琉生がちょっと照れた顔で笑って、また空を見上げる。
「オレの言ったことで、琴葉が嬉しいなら、それは嬉しいけど……」
「なんか……多分、琉生はいつもそんな感じで話すから、周りの人が琉生を好きになるのかもね」
琉生は、今度は、きょとんとした不思議そうな顔で、また私を見つめた。
「? 何?」
「琴葉の中で、オレって、そういう評価?」
「私の中でっていうか、皆がそう思ってる気がするけどなぁ。すぐ、仲良くなれるでしょ、人と」
「んー……。でも、ほら、オレ、高校の途中まではあんまり人と関わらないようにしてたから」
あ。そっか。……あの時から、なのかな……?
そんなことを考えていたら、それが琉生にも伝わったみたいで、苦笑いの琉生。
「そうだよ。琴葉に会ってから、目立つの嫌だとかもやめて、人と関わるようにしたから」
「――」
「んー……まだ、それからそこまで経ってないんだよね。高校途中からと大学の間は一応頑張ってたけど」
クスクス笑って、琉生が私を見つめる。そんな琉生に、なんだか不思議な気持ちになる。
「……うーん。……私、そんなに影響与えるようなこと、言った?」
「ん?」
「だってまだ先生でもなくて、大学生の私だし。……あの頃自分のことで結構、いっぱいいっぱいだったし」
「んー……まあ、そう、だね」
クスクス笑う琉生を、不思議な気分で見つめていると。
「でも、あの時のオレには、びったりハマったんだよ。もしかしたら、他の人が、違う状況の時に、同じこといっても違ったかもしれないけど……なんか、自分がいっぱいいっぱいの人が、オレを心配して一生懸命話してくれたのが、嬉しかったのかもしれないし……」
そう言われて、苦笑いが浮かぶ。
「あの……それはかなり恥ずかしいんだけど。確かにいっぱいいっぱいでぶつぶつ言ってたけど」
それを他の人に聞かれただけでもかなり恥ずかしいのに、ずーっとそれ覚えてたとか、それはほんと恥ずかしい。
私のセリフに琉生はクスクス笑いながら。
「あの時のオレには、あの時の琴葉の感じとセリフが、すっごくぴったりハマったんだよ」
琉生はそう言い切ると、私を見て、微笑んだ。
「琴葉のこと、綺麗な人だっていうのも思ったし。なんか、憧れみたいなのもあったかも」
「――」
突然の言葉に、え、と琉生と見つめ合ってしまって、ぱちくり瞬き。
……その後、かあっと、顔が熱くなる。……言われ慣れない、こんなセリフ。
「……って言っちゃうと、途端にヨコシマな気持ちみたいになっちゃうけど……それがメインじゃないからね?」
私が反応しすぎたからか、ちょっと焦ったように琉生が続けて言うけれど。
「分かってるよー……」
でも、なんだか恥ずかしすぎるから不意打ちはやめてほしい、と思いながらそう言うと。琉生が私を見て、クスッと笑った。え? と琉生に視線を向けると。
「……真っ赤」
そっと伸びてきた手が、一瞬、頬に触れた。
「琴葉、可愛いね」
優しく笑われて、ますます恥ずかしくなる。
「……可愛いとか、言われ慣れてないから無理。言わないで? ほんと、うろたえるから」
そう言うと、琉生は、「そうなの?」とちょっと驚く。
「すごく可愛いのにね? 言われない?」
不思議そうに言われて、ついつい、正直に、うん、と頷いてしまった。
「あ。千里は言ってくれるけど」
「……ほんとに仲良しですね」
琉生はおかしそうにクスクス笑ってそんな風に言う。
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