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第3章「一人で実家帰りと思ったら」
20.幼馴染たち
しおりを挟むお店の前に車を止めてくれたので私が車を降りると、琉生と聡さんも降りてくれた。
「一、二時間位見てれば良いかなー? 詩織に連絡してね」
「はい。すみません」
「帰りもオレも迎えに来ますね」
「ありがと、ごめんね?」
「良いですよ。いってらっしゃい」
二人に見送られて、お店のドアを開けた。
中に入って、迎えてくれた店員さんに、「先に四人、中に居るので」と言ったところで、「琴葉ー!」と、迎えに来た佐那に抱き付かれた。
「わぁ、佐那! 久しぶり!」
「琴葉、ちょっと飲んでるね。顔赤いー、可愛いー」
「うん、家で皆で飲んでたから。佐那はまだ酔ってない?」
「まだ、私仕事帰りでさっき来たとこでさ。克己から、琴葉が帰ってきてるみたいって聞いて、電話しようよって私が言ったの」
「そうなんだ。ありがとね」
こっちこっち、と誘われて、皆が居るテーブルに座る。
「久しぶりだねー」
「ごめんね、琴葉、もしかして無理して出てきた?」
苦笑して言う葵に、ううん、と首を振る。
「なんかすごく快く送り出されてきた」
言うと、じゃあいいか、と毅と克己が笑う。
「何飲む?」
「ちょっと顔熱いから、ウーロン茶とかにしておこうかな」
そう言ったら、「ウーロンハイひとつお願いしまーす」と克己。
クスクス笑う皆に、私も苦笑い。
「……相変わらずだね、克己」
ちょっと意地悪というか、ちょっと悪戯好きな小学生だったのを思い出してしまう。
「相変わらずってどこから来てんの」
「小学生の頃……」
「いつだよ」
と笑い、克己が「まだ飲み足りなそうだなーと思っただけ。意地悪してんじゃないし」と言った。ウーロンハイが運ばれてきて、じゃあカンパーイ、と皆とグラスを合わせる。
元気だったーとか、そんな話を一通りしたところで、葵が、「あのね」と少し間を置いた。
「……実はね、報告したいことがあって、今日、克己と佐那を呼んでたんだけど……琴葉も居て、ちょうどよかった」
葵がニコニコ笑ってそう言う。
「何なに? 報告って」
と言って、ふと気付く。克己と佐那を呼んだ。……毅が入ってない。てことは。
あ、と気づいて、思わず笑顔になってしまうと。
「ふふ。毅と結婚することになったー」
「昨日プロポーズした」
葵と毅が嬉しそうに言う。
久しぶりに会った幼馴染。毅が葵を好きだったのは、知ってたけど。
うわー、付き合うとか飛び越えて、結婚だって!とテンションが上がってしまう。
「葵、ついに落ちたかー」
克己がそんなことを言って、楽しそうに頷いてる。
「二人って、付き合ってたの?」
そう聞いたら、二人はクスクス笑った。
「ううん。プロポーズが、付き合ってと一緒?みたいな」
葵が笑ってるのを見て、「えー、すごいね」とびっくり。
佐那も克己も、びっくりしてる。
「皆も、会うの久しぶりなの?」
「うーん、年末に会ったけど、あん時は、そんな雰囲気何もなかったもんな?」
「うんそうだよ、全然前のまま」
私の質問に、克己と佐那が笑って答える。
「すごいねー、毅の粘り勝ちだね」
クスクス笑ってそう言うと、「粘り勝ち言うな」と毅に笑われる。
「でもそっかぁ。琴葉も指輪貰ったとか言ってたもんね。なんかまだ結婚なんかいいやと思ってたけど、ちょっと焦るね」
佐那がんー、と唸りながらそう言うと。
「でもまだ二十六だからなぁ……早くないか?」
克己もちょっと考えながら、そう言う。
「ねね、琴葉はいつ本格的に婚約するの? まだ実家に挨拶とかしてないんでしょ?」
佐那が、そんな風に言いながら、私に話を振ってくる。
「あ、の……えーと……」
どうしよう、おめでたい報告の時に、言って良いのかな。
えーーと……。
「あ、もしかして、今日って、その彼と来てるの?」
「さっき友達って言ってたけど……え、だったらまずくない?」
葵と佐那がちょっと焦り始めてしまったので、仕方なく。
「一緒に来たのは、ほんと婚約者じゃないの……ていうかね、婚約ね、なくなったの」
言ったら、四人とも、一気に、え、と固まってしまった。
「ごめんね、おめでたい報告聞いた後で……あ、でも、色々あって、もう落ち込んでないから」
「えーと……何でか聞いても平気か?」
克己が、遠慮がちに言う。珍しい。いつも言いたいことを言う気がするのに。と、苦笑い。
「うーん……まあ……同僚にね、すごく女の子っぽい子が居て……その子が気になるんだって」
「――」
あぁ、皆黙っちゃった。
「あのね、まあ、私と全然違うタイプで……可愛いと思ったんじゃないかなあと……仕方ないよね、だからもう、諦めたし。仕事も忙しいし、色んなことあって、落ち込んでる暇もないから、ほんと大丈夫だからね?」
「まあ、落ち込んでそうには見えないけど」
じっと佐那に見つめられる。「うん。大丈夫」と笑うと、佐那は肩を竦めた。
「じゃあ、私と、琴葉と、克己がフリーなんだね」
「そうだね」
苦笑しながら頷くと。克己が、笑いながら私を見た。
「琴葉が行き遅れたら、オレが貰ってやるよ」
「……何それ。絶対やだ」
「何でだよ?」
「何でそんな上からなのー?」
そう言うと、皆笑いながら。
「ていうか、何で私には言わないのよ」
佐那が克己に冗談っぽく怒ってる。
「え。佐那とオレ、絶対あわねーし。オレ、佐那にはよく怒られるイメージしかないぞ」
「……確かに」
そんなやり取りに、ふふ、と、笑ってしまいながら。
「そんなこと言ったら、私だって、克己には、可愛くねーなって言われた記憶しかないけど」
「ああ。まあ。……言ってたけどな」
克己がそこまで言って黙る。ん? と克己を見てると、葵が「琴葉」と呼びかけてきた。
「琴葉にはもっとイイ人が居るよ。そんな結婚前から浮気するような奴、別れて良かったよ」
そう言った葵に、皆もうんうん頷いている。
「うん。……知ってる人には、皆にそう言われてる気がする」
私も、小さく頷きながら、そうだよね、と笑って見せた。
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