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第3章「一人で実家帰りと思ったら」

19.電話

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 夕方から始まった宴会は、二十時を過ぎてもまだ盛り上がったまま続いている。
 ごはんは食べ終わったから、次はデザートとおやつやおつまみ、とか言って、皆好きなものをつまんでる感じ。
  とりあえず、食事に使った食器などを、女の人達皆で片付けて、ふ、と息をついた時だった。家の電話が鳴った。
 お母さんが出て、少し話してから、私を呼んだ。
 「誰?」
 聞きながら子機を受け取ると、「克ちゃんだよ」と笑う。
 
「かっちゃん……克己かつみ??」
  めちゃくちゃ懐かしい名前が急に出てきて、「もしもし」と電話に出ると。
 
『琴葉?』
「克己?」
『何で帰ってきてんのに連絡しないんだよー?』
「あ、ごめん……一泊だったし、友達と来てて。何で、私が帰ってきてるの知ってるの?」
 
 そう言った私のセリフに、台所にお酒を取りに来てたお父さんが気付いたみたいで、「さっき琴葉を待ってる時、駅で会ったよ」と笑って答えた。ああ、なるほど……と笑ってしまう。
 
『そう、おじさんに聞いてさ。今、皆で飲んでるから、ちょっと来れないか聞いてみようってことになってさ』
「あー……」
 
 会いたいは会いたいけど……。
 千里と健司さんや琉生を置いて、私が出るのはおかしいよね。そう思ってると。受話器から聞こえる声が変わった。
 
『もしもし、琴葉ー? 佐那さなだよー』
「佐那も居るんだ」
たけしと、あおいも居るよー。駅前の飲み屋に居るからさ。少しでいいから出ておいでよ』
「そうなんだ……駅前の飲み屋かぁ。んー、会いたいけど……」
『顔見せるだけでも、出て来れない?』
「でも、友達が一緒だから、また今度にする。また帰ってくるから」
 
 そう言った時だった。
 
「良いよ、琴葉、行ってきたら?」
  千里がそんなことを言った。え? と振り返ると、健司さんも。
 「ちょっとだけ顔見てきたら? あんまり帰れてないんでしょ?」
 なんて言う。
 
「え、でも」
「だって今二十時でしょ。一、二時間、顔見せて帰ってくれば全然いいよ」
「でも、駅前まで戻らないとだし」
  私は無理な方向で話を進めようとしているのに、お姉ちゃんが続けて言う。
 
「うちのパパ、お酒飲めないから飲んでないよ。送ってあげたら? 駅まで十五分位じゃん」
  えーでも……?と思って困ってると、お姉ちゃんの旦那さんの、さとしさんが立ち上がった。
 
「いいよ、送るよ。琉生くん、一緒に送る? 帰り一人じゃつまんないし」
「あ、いいですよ。乗っていきます」
 
 あれよあれよと、なぜか私を積極的に送り出そうとしているこちらの皆の声が、電話の向こうにも聞こえているみたいで。
 
「琴葉来るみたいー」
  佐那が向こうの皆に言ってるし。
 
「良いの?」
  千里とかに視線を向けると、「いいよ、全然。のんびり待ってる」と千里が笑う。
 
「じゃあ、佐那、ちょっとだけ顔、見に行くね」
『オッケー、待ってる!』
 
 店の名前を聞いて、聡さんに伝えると、了解、と笑う。

「じゃあ、少しだけ、行ってきます。ごめんね」
 そう言うと、皆に笑顔で行ってらっしゃーと見送られた。
 家を出て、聡さんの車。琉生は助手席、私は後部座席に乗った。
「聡さん、すみません。ありがとう」
「いいよ、全然。近いし」
 「清水先生も、ごめんね」
「全然」
  琉生も私を振り返って、クスッと笑う。
 
「幼馴染ですか?」
「うん。幼稚園から中学まで一緒の子たち。連絡先はつながってるけど、普段は全然連絡取ってないんだけどね。帰ってくると、たまに会う感じ……。今回は連絡してなかったんだけど。明日帰っちゃうし」
「離れてても、会えるのとか良いですね」
「うん。断ろうと思ったけど…… やっぱり会えるのは嬉しいな」
「ですよね」
  ふ、と笑って、琉生は前を向いた。
 
「聡さんは全然飲んでなかったんですか?」
「そう、オレ、下戸だから」
「飲んでるのかと思ってました。テンション高いから」
 
 琉生のそんな言葉に、聡さんが笑う。
 
「飲んだ振りうまいからねー。あと、酔ってる人達にテンション合わせるのも」
 
 そんな会話にクスクス笑ってしまう。
 
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