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第3章「一人で実家帰りと思ったら」
17.千里から見た琉生
しおりを挟むお父さん、お母さん、お母さん方のおじいちゃん、おばあちゃん、お姉ちゃん夫婦と子供男女一人ずつ、妹夫婦と女の子二人。
十二人と、私たち四人。計十六人。
夕飯の支度は、私と千里も混ざって、結構大忙し。
琉生と健司さんは、男の人達と、先におつまみなんか食べながら、飲み始めてる。望んだ訳じゃなくて、手伝おうとしてくれていたのだけれど、連れていかれた感じ。……可笑しい。
「私、十六人分の食事とか、初めて作ってるかもー。揚げ物山盛りすぎる……」
千里が、なんか楽しい、と笑ってる。
千里は揚げ物を、私は千切りキャベツやミニトマトを、大皿に分けていく。そうしながら、千里がふと私を見た。
「琴葉は、ここに暮らしてたの?」
「うん。んーと……中三迄ね。お父さんの仕事の都合で、私が高校から大学一年までは家族で東京に居たの。その時はおじいちゃんとおばあちゃんだけがここに住んでて。それでお父さんが戻る時に、皆も戻ることになったんだけど、私はもう、一人暮らしで大学四年まで居て、それでそのまま先生になった感じ。お姉ちゃんはもう大学卒業してたし、妹は高校生だったから、私以外は皆、お父さんと一緒にここに戻ったんだ」
「なるほどー。タイミングによるよね。大学一年じゃ、変えられないもんね」
「うん。そうなんだよね」
「お父さんが戻るのが一年早かったら、琴葉と、会ってなかったのかもね」
そう言われて、そうかも、と答えると、そういうのが縁なんだよね、と千里が笑う。
「うん。そうだね。千里に会えて、良かったよ」
ふふ、と笑いながらそう言うと、千里も頷いて笑う。
「琴葉、千里さん、ポテトサラダ作ってくれるー? ジャガイモゆでたから」
お母さんに呼ばれて、二人ではーい、と返事をする。
「なんか合宿みたい」
千里がクスクス笑いながら、台所から少し出て、奥の部屋を覗いて戻ってきた。
「健司も清水先生も、なんか飲まされてるけど……めちゃくちゃ楽しそう。子供たちがお膝に乗ってたよ」
「え? 誰の?」
「健司と清水先生の」
「え、そうなの?」
見たくて、私も奥の部屋を覗けるところへ。
さっき男の人達で皆で三つ出した大きなテーブルの奥の方で、琉生と健司さんが、子供たちにまとわりつかれながら、お父さんやおじいちゃん、姉妹の旦那さんたちと、楽しそうに話してる。
「良かった、清水先生が来てくれて。あそこに健司だけじゃ、ちょっとは疲れたかも」
こそこそ、と千里が言って、私を見て笑う。
「そうかもね。いくら健司さんでも、ね」
「ちびちゃんたちも分散されてるしね」
ふふ、と二人でクスクス笑ってしまった。
「にしても、清水先生って、あれよね」
「ん?」
ジャガイモをマッシャーでつぶしながら、千里を見つめると。
「最初のさ、全体朝礼で挨拶した時もさ、職員室の雰囲気が、ふわっとなった感じ、覚えてる?」
「うん、覚えてる。知ってる先生たちが、ちょっと優しく笑ったからでしょ?」
「そうそう。……なんか……あれだよね。人にすごく好かれるタイプ」
「んー……ね、私もそう思ってた」
うんうん、頷いていると、千里が私を見つめ返す。
「あれはモテそうだなー……とは思うね」
「うん。思うよ」
「それはどう思う?」
周りの皆がそれぞれ忙しそうなのを見ながら、こそ、と千里が言う。
「良いも何も……モテそうだよねぇと思う、かな」
「そのまんまだね。彼女も居たって言ってたのとか、琴葉は気になる?」
「え、でも、居たでしょ、絶対」
「まあそうなんだけど」
「清水先生が、今まで誰とも付き合ってなかったら、すごく不思議だよ……」
「まあそうだね。私もさ、清水先生が、誰とも付き合ってなくて、琴葉をずっと思ってたとか言ったら、ちょっと反対したかもなんだ~」
「え、そうなの??」
千里を見ると、クスクス笑いながら、うん、と頷く。
「だってさ、何にも恋愛してきてなくて、高校時代の憧れだけで見られてたら、絶対そんなのうまくいかないと思うんだよね~。あ、マッシャー交代する」
「あ、うん」
千里にマッシャーを渡すと、ジャガイモをつぶしながら、ふふ、と笑う。
「琴葉のことは覚えてはいたけど、ちゃんとそれなりに他の人と色々付き合ったり別れたりしてきたうえで、琴葉が泣いてるのを見たら……っていうのは、良いと思ったの。それならどんな人かもっと知りたいなーと思ってさ。つい、誘っちゃったんだけどさ……」
そうなんだ。なるほど……。
と、ふむふむ頷いていると、お母さんに、「ハムと人参ときゅうりと、マヨネーズ、ここに置くねー」と呼ばれた。
「人参はゆでてあるからね」
「はーい」
それを持って、千里のもとに戻ると。
「こんな大量のポテト、初めて見た。それ混ぜたらもっと大量になるね」
クスクス笑って、千里がジャガイモを見下ろしている。
「ここに居る間に、色々話したり、見たりしてみるといいと思うよ。学校に居るのとは、違うだろうしさ」
「……うん。まあ……でも」
「でも?」
「……四つも下で、しかもあんな感じの人、っていうのが……なんかなあ……」
「なんかなに?」
「つりあわない……と思っちゃうから、なかなか……それにまだ、好きとか、そういうのもある訳じゃないしさ。誰が見ても素敵なんだろうなーとは、思うよ? 思うからこそ、かなあ……」
「まあ、分かるけど。でもほら! 六十歳と六十四歳なら変わんないし!」
また極端なこと言ってる、と思いながらも、クスクス笑ってしまう。
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