「王子と恋する物語」-婚約解消されて一夜限りと甘えた彼と、再会しました-✨奨励賞受賞✨

悠里

文字の大きさ
上 下
80 / 105
第3章「一人で実家帰りと思ったら」

15.数学の教師

しおりを挟む
 

 新幹線が走り出して少しして落ち着いてから、駅で買ってきたお弁当を広げた。
 
「すごく美味しいー」
「ねー、なんか子供じゃないけど、電車でお弁当とか、わくわくするよねー」
「ほんと」
  千里がすごく楽しそうなのでつられて笑ってると、ふと、琉生の視線に気づく。
 
「こうしてると、二人が先生とは思わないですね」
 ふ、と笑われて、千里と顔を見合わせる。
 
「どういう意味?」
  と聞いた千里に、「弁当食べて満面の笑みだからだよ」と言って、健司さんが笑った。
 え、そんなだった? とまた、千里と顔を見合わせて、笑ってしまう。
 
 楽しいな。ほんと。一人じゃなくて、良かった。
 健司さんがふと琉生を見て、そういえば、と話し始めた。
 
「琉生くんも数学の先生なんだよね、琴葉ちゃんと一緒で」
「はい」
「何で数学? オレは苦手だったから、正直先生にまでなりたい気持ちが全然分かんない。すごいよね」
  健司さんが苦笑しながら言うと、琉生は健司さんを見ながらちょっと考える。
 
「何で……まあ、得意だったから、ていうのもありますけど、教師になろうと思ったきっかけが、数学の先生だったから、ですね」
「へえ。そうなんだ。」
「はい」
「教えるのって大変じゃない? 歴史とかならさ、教科書に書いてあることとかを説明すればできそうな気がするけど、数学って、理解してもらわないといけないしさ」
「確かに分かってもらうのが大変なのもあると思うんですけど……分かってもらえた時、楽しいのかも?」

  クスクス笑いながら私に視線を流して言う琉生に、すごく同意。
 
「健司さんと一緒で、私も昔、数学あんまり得意じゃなくて」
「え? 琴葉ちゃん苦手だったのに、先生になったの? ますます何でって感じ」
  健司さんに笑われて、そうなんですけど、と苦笑。
 
「でも、私みたいな分からない子にどうやって分かりやすく教えるかって……使命みたいなもの、勝手に感じて……」
  言ってる内にちょっと恥ずかしくなって、笑いながら最後の方をぼやかしてたら、琉生が「そうだったんですか?」と、びっくりした顔。

 「よく先生になれましたね」
  なんて言って、可笑しそうに笑う。

 「ほんとによくなったなーって思うんだけど……」
  苦笑してしまう私に、琉生は、でも、と呟いて、微笑んだ。

 「それであんなに補習するって言って教えてあげようとしてるのかと思ったら、なんだか余計に……」

  そこで少し止まってから。
 
「……めちゃくちゃ、尊敬ですね」
 
 ふ、と笑って見つめられると、なんだか返事も出てこない。
 尊敬とか。こんなまっすぐ言われることって、そんな無い。

「……口説いてる?」
 千里が横で、クスクス笑う。え、と琉生が千里を見て、苦笑い。
 
「いえ。今は、口説いてませんよ。本気で思って言ってます」
 
 そう言った琉生に、「今はって」と、千里と健司さんがハモってツッコミを入れて、二人で顔を見合わせて笑ってる。
 
 何だか何も言えないまま、琉生を見ると、にこ、と笑う。

 ……どうしてそんなに、可愛く笑っちゃうんだろうか。
 カッコよかったり、大人っぽかったり……すごく男っぽかったのも知ってしまってるし。なのに可愛いとか。なんだかほんとに私には手に負えない気が。困っていると、千里があ、そうだ、と話し出した。

「とりあえずさ、琴葉の実家に着いたら、私は仲良しの同僚で、清水先生は後輩で、健司は私の旦那っていうそれで行こうね」
  千里は私を見て、笑いながらそう言った。
 
「うん」
 頷くと、琉生も、「はい」と笑ってる。
 
「そしたら、オレ、やっぱり、中川先生って呼んだ方がいいですね」
「あー……そうかも。入って一週間の後輩が琴葉のこと、呼び捨ててたら、すごくおかしいかも」
「ですね」
 千里と琉生は、顔を見合わせて、うんうん仲良く頷いている。
 
 ……何だかな。この二人ほんとに、気が合うんだなぁ。
 健司さんも、面白そうにその様子を眺めてる。
 

しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

後宮の棘

香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。 ☆完結しました☆ スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。 第13回ファンタジー大賞特別賞受賞! ありがとうございました!!

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

働かなくていいなんて最高!貴族夫人の自由気ままな生活

ゆる
恋愛
前世では、仕事に追われる日々を送り、恋愛とは無縁のまま亡くなった私。 「今度こそ、のんびり優雅に暮らしたい!」 そう願って転生した先は、なんと貴族令嬢! そして迎えた結婚式――そこで前世の記憶が蘇る。 「ちょっと待って、前世で恋人もできなかった私が結婚!?!??」 しかも相手は名門貴族の旦那様。 「君は何もしなくていい。すべて自由に過ごせばいい」と言われ、夢の“働かなくていい貴族夫人ライフ”を満喫するつもりだったのに――。 ◆メイドの待遇改善を提案したら、旦那様が即採用! ◆夫の仕事を手伝ったら、持ち前の簿記と珠算スキルで屋敷の経理が超効率化! ◆商人たちに簿記を教えていたら、商業界で話題になりギルドの顧問に!? 「あれ? なんで私、働いてるの!?!??」 そんな中、旦那様から突然の告白―― 「実は、君を妻にしたのは政略結婚のためではない。ずっと、君を想い続けていた」 えっ、旦那様、まさかの溺愛系でした!? 「自由を与えることでそばにいてもらう」つもりだった旦那様と、 「働かない貴族夫人」になりたかったはずの私。 お互いの本当の気持ちに気づいたとき、 気づけば 最強夫婦 になっていました――! のんびり暮らすつもりが、商業界のキーパーソンになってしまった貴族夫人の、成長と溺愛の物語!

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない

ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。 既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。 未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。 後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。 欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。 * 作り話です * そんなに長くしない予定です

【完結】巫女見習いの私、悪魔に溺愛されたら何故か聖女になってしまいました。

五城楼スケ(デコスケ)
ファンタジー
※本編、番外編共に完結しました。 孤児院で育ったサラは、巫女見習いとして司祭不在の神殿と孤児院を一人で切り盛りしていた。 そんな孤児院の経営は厳しく、このままでは冬を越せないと考えたサラは王都にある神殿本部へ孤児院の援助を頼みに行く。 しかし神殿本部の司教に無碍無く援助を断られ、困り果てていたサラの前に、黒い髪の美しい悪魔が現れて──? 巫女見習いでありながら悪魔に協力する事になったサラが、それをきっかけに聖女になって幸せになる勘違い系恋愛ファンタジーです。

離婚した彼女は死ぬことにした

まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。 ----------------- 事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。 ----------------- とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。 まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。 書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。 作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

処理中です...