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第3章「一人で実家帰りと思ったら」
12.恋愛相談的な。
しおりを挟むこのお店に入ってから、二時間くらい経っただろうか。
昔に出会ってたこと、その時私が色々語ったこと、琉生がそれを覚えてて、バーで見かけて、バイトを始めたこと。最初は幸せそうで良かったと思ってたら、一昨日泣いてるところに出会って、そしたら、放っておけなかったこと、とか。
琉生が、なんだかさらさらと。……私よりずっと分かりやすく千里に話しているのを、お酒を飲みながら聞いていた。……というか、お酒飲んでないと聞いてられなかったというか……。
もちろん知ってることだったけど、なんだか改めて聞いてても、不思議。
だってなんか私が千里にした相談の捕捉を……相手の当人にしてもらうことなんて、人生であるの? しかも自分の目の前で。 もうなんか、私、この状況が良く分からない。でも何だか知らないけど、千里と琉生は、すごくいい感じでうんうん頷きながら話してるし。
だめだ、話に全く入れない。……でも、入りたいかと言われると、それも微妙なんだけど。
「んー。大体分かったかな。あのね、結論聞くんだけどね、清水先生」
「はい?」
「琴葉のこと、ほんとに好きなの? ちょっと懐かしいとか、じゃなくて」
千里―……。もうー。なんかそろそろ、別の話をしたくなってきた。または、私が帰るから、二人で好きなように……と思っていたら、琉生は、ふ、と笑って、その視線を私に流した。
「そこは琴葉に伝えますね。……あぁ、でも」
「……でも?」
「昨日、秋坂先生が言ってた、王子様ってやつに、なりたいですけどね、オレ」
「……ふうん」
千里はしばらく琉生を見つめていたけど。
「祥子さん、生二つ、くださいー」
すっかり祥子さんと呼んで、おかわりを頼んでる。
「まあもうなんとなく分かった。あとは、琴葉がどうするか、これからの清水先生次第ってことだね。琴葉、まだ前のダメージもあるだろうし……」
「はい」
「適度にね? この子、まじめだし、慣れてないから」
「……はい」
クスクス笑って、琉生が返事をしている。ええと。……もう何も言葉に出てこない。
「ね、清水先生って、彼女は?」
「今は居ないです。去年別れてからは一人です」
「そっか居たんだね、彼女」
ふうん、と千里が頷く。
「大学の時は何人か付き合ってましたよ」
「そっか。その頃はまだ、琴葉のことは、良い先生的な感じだったんですもんね。……良かった。じゃあちゃんと恋愛経験もあるんだ」
「なんですか、それ」
苦笑いの琉生に、千里はううん、と笑った。
「色々経験してきた上で、って方が良い気がするから」
ふふ、と千里が笑ってる。
もうなんか……。
一夜を過ごしちゃった、なぜか私を好きだと言ってる人と、親友。
こんな二人の会話の中にまんまと居る人って、そんなに、居ないはず。
それもこれも。もう会わないと思って、色々千里に話しちゃったからいけないのかもだけど。あまりに奇妙な感じで、現実感がふわふわしてる会話を聞いていた私を、千里はまっすぐ見つめた。
「大体聞きたいことは聞いたかも……」
「ぁ、そう、なんだ……」
そっか。
あ、これでこの話、終わりかな……? 良かった。
と、その時、テーブルに置いてある千里のスマホが震え出した。
「あ、健司だ。もしもし?」
少し小さな声で電話に出た千里。何度か頷いてる。
そういえば。
……春樹と私とも三人で、よく飲みに行ってたっけ。健司さんも、何回も一緒に飲んだ。
てことは、千里と私って、春樹の時から、お互いにこういう話してたんだな。
でもあの時と大分違うのは、私と春樹は付き合ってたけど、琉生とは、ものすごく微妙な関係だってことだ。
多分、千里にとっては、あんまり変わんないんだろうな……。
琉生も、千里には、全然隠そうとしてない感じだし。
ほんと私。もう大人だし、先生という職業についてて人を教える立場なのに。
何で恋愛とか、こんな分かんないんだろ。もしかしたら、生徒達の方が、恋愛上手な子、居そうな気がする。
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