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第3章「一人で実家帰りと思ったら」
11.急接近で
しおりを挟む「ほんとだ、美味し―」
「うん、美味しいね」
千里の声に、私も頷く。から揚げもお刺身も、サラダも、全部美味しい。
「なんか有名な和食の料理屋さんに居たみたいで。でもあわなかったらしいです、店の雰囲気が」
「今のこの雰囲気が好きなら、有名な和食屋さんはあわないのも分かるね」
琉生の説明に、千里が頷いてる。
「ほんと。ドレッシングも美味しいね。手作りかなぁ」
なかなか無いかも、この味。
味わいながら食べてると、千里が私を見て笑う。
「ん?」
「ううん。琴葉、あんまり飲まない方がいいよ」
「?」
「お酒三日目でしょ? 体調崩すよ」
「あ、うん。そうだね」
確かに。しかも、一日目、結構飲んだしな。
頷いてると、琉生が私を見た。
「お水もらっときますか?」
「ううん、まだ、大丈夫」
笑って返すと、琉生が、私と千里を見つめる。
「中川先生と秋坂先生は、ずっと仲がいいんですか?」
琉生がそう言うと、千里は、そうですね、と笑った。
「同期で入ったので、一緒にやることも多かったっていうのもあるけど……」
「ふふ」
「二年位、誰より近いもんね。気が合うんだと思います」
千里に言われて、うん、と頷く。
ほんと。学校の先生って忙しくて、土日の部活とかもあるし、なかなか他の友達には会えないっていうのもあるけど。
性格、全然違うけど、千里のことが大好きなんだよね、私。
「私の結婚式、琴葉にスピーチ頼んだんですけど、もう大号泣してくれて」
「そうなんですね」
クスクス笑う琉生。
「だから私、琴葉の結婚式では、絶対スピーチするって言ってたんですけどね」
千里がそこで、ふーとため息。
「春樹がかなりおバカだったせいで、ちょっと先延ばしになりましたけど」
千里のセリフに、琉生は少し微笑んで、頷いてる。
「まあでも、良かったのかも。結婚後の浮気、じゃなくて。その方が、なかなか別れられなくて、つらかったかも」
千里が、考えながらそう言うので、私も、少し考えて、頷く。
「……うん。そだね、そう思うことにする」
「ね」
二人で、うんうん頷いていると、琉生も自分の顎に手を当てて少し考えながら。
「……池田先生って」
出てきたその名前に、千里と二人で琉生を見て、次の言葉を待っていると。
「中川先生とは全然タイプ違いますよね。……オレ、全然、分かんないんですけどね」
「分かんないって?」
千里が聞くと。
「中川先生を好きだった人が、あそこに行くのかぁ、と思って……」
「分かるー! だよねぇ、清水先生」
何だか一気に嬉しそうに笑って、千里が、ビールのジョッキを持った。
「乾杯しよう、乾杯」
「はは」
何やら、二人で、二度目の乾杯をしている。
そんな二人を見ながら、初めて、琉生の口からはっきり池田先生の名前が出たことに、色々思うところは、ある。
池田先生が、春樹の相手だって、まだちゃんとは言ってなかったけど……昨日も会ったし。帰る時も正門前でも見かけちゃったし。まあ……ほんとに完全に全部バレてるんだな、と思うと、苦笑いしか浮かばないけど。
何でだか、盛り上がってる千里と、笑ってる琉生を見てると。
ふ、と千里が私の方を向いた。
「清水先生と琴葉って、何て呼び合ってるの? 昨日飲みに行った時とかは」
「えと……最初、会った時に名前だったから、名前にしちゃってたんだけど……まずいかな」
ドキドキしながらそう言うと、別に、と千里が笑う。
「私が居ても別に名前で呼んでていいよ。まあ、私は、清水先生て呼ぶけど」
「――」
「じゃあ、琴葉、でいいです?」
琉生が、千里にクスクス笑いながら、私を見つめる。
「……いいような……ダメなような?」
春樹の時も、千里の前ではそうだったけど、彼氏だったしな。なんか違う気がするんだけど。
「いいよ。別に私の前で違う呼び方をしなくても。呼び方なんて、そんな重要じゃないし」
「じゃあ、琴葉って呼びます。秋坂先生の前では」
どうせ、色々知られてるし、と琉生が笑ってる。
「琴葉もいいよ、下の名前で。いつも通りで……って、でもまだ、二人って、会って三日目なんだよね」
そう言って、千里は、なんか、不思議だね、と笑う。
「不思議ですか?」
琉生が聞くと、うん、と千里は頷いた。
「だって、そこまで、琴葉は清水先生を知らなかったわけでしょ? 琴葉的にはさ、急接近すぎて、わけわかんないんでしょ?」
千里が笑いながら私を見つめる。
ああ、なんだかその「わけわかんない」という一言で、今の私の気持ちを全部表してくれた気がするなあ、と千里の言葉に感心する。
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