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第3章「一人で実家帰りと思ったら」

6.ありがと

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 昼休み。
 癒しの場所にたどり着いた。……千里の居る、保健室。
 
「あ、来た」
 顔を見た瞬間、千里が笑う。
 
「ごめんね。朝、清水先生誘おうとしてたらさ、登校してすぐ気持ち悪くなっちゃった子が居るとかで呼ばれて」
「あ、いいの。呼ばれちゃったの聞いたし」
「飲みにいこう位までしか話せてないんだけど。まあとりあえず、お昼たべよ」
「うん」
 いつものテーブルにお弁当を置いて、手を洗う。
 
「飲み、行きましょうって、言ってたよ」
「あ、そうなの? 行くことになった?」
「うん……千里と話すの面白そうって言ってた」
「へえ? あら。私もそう思ってるから。楽しみ~」
 
 そんなに千里も楽しみとなると、なぜか私はそんなに楽しみではないような。いや、楽しみではあるんだけど、なんかドキドキする気持ちなのだけど……。
  手をハンカチで拭きながら、向かい合って、座る。
 
「どうだった? 今日の午前は」
「んー。すごく楽な後輩かも」
「清水先生は優秀?」
「うん。授業もやってもらったんだけど。緊張とかしないのかなあ。全然問題ないの。分かりやすいし。昨日こうした方がいいかもって言ったことも出来ちゃって、生徒の顔を見ながら、授業の速さ調整してたり。教えることないかも」
「楽ならよかったんじゃない?」
「まあそうなんだけど……清水先生を見てると、しっかりしなきゃってすごく思っちゃう」
 
 そう言うと、千里は苦笑いを浮かべながら。
 
「しっかりしてるから、それ以上しなくていいよ」
  クスクス笑ってそんな風に言う。
 
「あ、そうだ。そういえば、実家の方、どうなった?」
「あー……どうなった……んーと、とりあえずお姉ちゃんに電話したら、結婚前にそういう人だって分かって良かったねって言われた」
「なるほど」
「皆、私の顔見たいのが一番だから、そっちは別にいいよって」
  そう言うと、千里はクスクス笑って頷いた。
 
「じゃあ良かったね、普通に顔見せに帰るだけで済みそう?」
「うん。何人か連れて帰ってきてもいいよとか言ってたけど、そんな急遽実家に連れてける友達も限られるし……」
「連れて帰るってどういうこと?」
 「なんか、友達連れて帰ったら、私が楽しくこっちで過ごしてるのが分かるし、おばあちゃんとかも安心するかも、みたいな感じで言ってた」
「へー……そんな広いの、琴葉んち」
「うん。田舎だからねー。広さだけは」
「そうなんだね」
 
 ふーん、と千里は楽しそうに頷く。
 
「誰か誘ったの?」
「ううん。結構、結婚してる子も多いし、彼氏が居て週末デートの子も多いし……泊りになっちゃうから、誘えないかな」
「そっか……」
「なんかそう考えると、泊りで旅行とかしてた若い頃が懐かしいなあ」
 
 そんな風にしみじみ言うと、「まだ若いって」と千里が笑う。
 
「ねえねえ、私、行こうか?」
「え? 旅行?」
「違う違う。……って、旅行も良いけど」
「うん?」
「琴葉んち。行こうか?」
「え?」
 向かいに座ってる千里を見つめると。
 
「田舎に癒されるのもいいかなあって。結局春休み、旅行も行けなかったしさ」
「そっか。お仕事、忙しかったんだよね、健司さん」
「そーなの」
 「んー……でも、うち、何もないよ??」
「いいよ別に。琴葉の家族と飲もう~」
「本気? 旅費、かかるよー? あとうちの家族、結構皆うるさいよ~?」
「平気平気」
「でも、駅から遠いよー??」
「あらいいじゃん、それ。ますます田舎っぽい。後で健司に電話して確認しとくから」
「でも、無理しないでね、健司さんとゆっくりできるの週末だけなんでしょ?」
「そうだねー、結構夜遅いから。でもまあ、きっと大丈夫」
 
 思いもしなかった千里の提案に、首を傾げながらも、笑顔になる。
 
「なんか、ありがと、千里」
「まだ確定じゃないけど」
  ふふ、と笑う千里。
 そう言ってくれるだけで、ありがとうなんだよなぁ、と、嬉しい。
 
 
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