「王子と恋する物語」-婚約解消されて一夜限りと甘えた彼と、再会しました-✨奨励賞受賞✨

悠里

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第3章「一人で実家帰りと思ったら」

2.あって良かった

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 結局なんとなくの話を千里に伝えたところで、もう朝の短い時間に話すのは諦めて職員室に向かうことにした。
 前方、職員室の前で、琉生と、琉生と同期の山本 真結やまもと まゆ先生が話していた。琉生と一緒で大卒で来てるから若いんだけど、池田先生みたいに、服装とかも派手じゃないし、ちゃんとしてる印象。
 
 琉生の姿を見るたびに、なんだか、どきっとするのをどうにかしないと。なんて思っていたら。 

「おはようございます」
 千里が少し離れた所から声をかけて、二人はこちらを振り返った。

 「おはようございます」

  琉生と山本先生が、そう言って笑う。山本先生が千里を見て、ちょっと困り顔。

 「ええと、中川先生と……」
「秋坂です。保険医です、よろしく」
「よろしくお願いします! 中川先生は清水先生の指導の方なので覚えてたんですけど……すみません、まだ覚えられなくて」
「昨日の今日だから当然。気にしないでください」
 千里がクスクス笑ってる。

 近くで改めて見ると、山本先生は肩より長い位の髪を一つに結んでて、メイクもアクセサリーも服装も適度。可愛い感じの子。まだ緊張してるっぽくて、私と千里と話すのも、なんだかちょっと焦ってる感じがする。
 初々しくて可愛いなあ。と思っていたら、千里が、ふふ、と笑った。
 
「緊張したら、深呼吸ですよ。最初は皆、緊張するものだから大丈夫」
「あ、はい!」

  山本先生はこくこく頷いている。そんな山本先生から、千里は、視線を琉生に移した。
 
「でもなんだか、清水先生は緊張とは無縁な感じですね」
 そう言われた琉生は、え、と言う顔をした後、クスッと笑った。

 「外に見えないみたいなんですけど、内心はすごくドキドキしてますよ」
「してるんですか?」
「してますね。緊張もしてますよ」
「見えないですね?」
「よく言われます」 

 まっすぐ見つめ合って、二人は笑い合っている。
 何でこの二人が話してると、私、微妙なドキドキを味わうんだろう。よくわかんないけど……。
 
「おはようございます」
 そう言って近づいてきたのは、小山先生。
 
「何か大事なお話中ですか??」

 和む笑顔でそう言った先生に「たまたまここで会って挨拶してただけですよ」と、千里が笑って返してる。

 「あ。職員室の朝礼って、二十五分に席に居れば大丈夫ですか? それとも少し早めに座ってた方がいいでしょうか?」

  という山本先生の質問に千里が「予鈴がなってから席に行けば大丈夫ですよ」と答えてるのを何となく聞きながら、私は隣に居た小山先生を見上げた。
 
「小山先生、昨日ごちそうさまでした」
  ちょっとだけ小声で、言う。別に周りに聞こえてもいいんだけど、なんとなく。
 
「あ、いえいえ。おいしかったですか?」
 
 と、こちらもなんとなくの小声で返って来る。
 
「はい。あ、でも本のお礼とか、気にしないでくださいね。私も借りてるし」

  そんな会話をしていたら、山本先生と琉生と話し終えてた千里がこっちに視線を向けて、目が合うと笑いながら。
 
「この二人は、ほんと本が好きで、しょっちゅう借り合ってるんですよ」
  と、山本先生と琉生に、軽く説明してくれてる。
 
「いいですね、僕も読書は好きです。高校から読むようになったんですけど」

  琉生が、小山先生に向かってそう言った。
 
 ……あ。僕、だって。そっか。先輩の先生に、オレ、とは、言わないもんね。
 琉生が、僕って言うの、初めて聞いたかも? ちょっと可愛いな。
  あれ? そういえば、昨日千里には、オレって言ってたような気がする。使い分けてる? 千里には何でオレなんだろ。
 
「ああ、そうなんだ。今度清水先生の好きな本も教えてくださいね」
「はい。あ、あと、昨日のチョコ、僕も頂いちゃいました。ごちそうさまでした」
「そうなんだね。清水先生、チョコとか甘いもの好き?」
「好きですよ。おいしかったです」
「それは良かった」

  そんな会話を何気なく聞いていたら、ふっと、小山先生が私を見た。
 
「あ、そうだ、昨日渡し忘れちゃったんだけど」
「はい?」
 
「本の中に入ってたんですけど――」

  言われた瞬間。突然、あ!と思い出した。
 
「ぁ! ごめんなさい、小山先生、ちょっと……」

 思わず小山先生の腕を引いて、皆と逆の方を向いてもらった。
 
「どうしました??」 

 小山先生は面白そうな顔をして、私を見てる。千里たち三人が不思議そうなので、ちょっとごめんね、と千里に笑って見せると、すぐ千里が何か別の話を後ろでしてくれてることに、なんとなく感謝しつつ。
 
「その話、あの、後で聞きに行きます」
「? ……分かりました。じゃあ後でね」
 
 クスクス笑ってる小山先生に、私はすみませんと頷いた。

  ……思い出した。きっと、しおりの話だ。

  今朝見てた本の後、また別の本を読み返してしおりを挟んだまま、小山先生に春休み前に貸しちゃったんだ。 どうりで、無い訳だ。良かった。あって。

 その時、予鈴が鳴った。会話を切り上げて、職員室に入って、とりあえず自分の席に腰かけた。



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