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第2章「振られた翌日の、悪夢みたいな」
49.スタンプ
しおりを挟むお姉ちゃんとの電話を切って、ちょうどアパートについた。鍵を開けた時、手に持ったままのスマホが、震えた。
鍵を玄関の棚に置きながら、スマホを見ると、琉生から。初めて届いたメッセージは。
『今日は付き合ってくれてありがとう。無事家についた?』
という言葉だった。
「今、ついたところ」
そう入れたら、すぐに既読がついて、『良かった、おかえり』と入ってくる。なんだか、優しい言葉に、知らず微笑んでしまった。
「ありがとう」と入れて、テーブルに置いた。
シャワーを浴びようと離れた瞬間、また震えたのでまた手に取ると。
『寝る準備が出来たら、電話貰える?』
「でも時間、かかるよ?」
『してくれるなら、ずっと待ってる』
何だろう、この可愛い感じ。何なの、ずっと待ってるって。きゅん、としそう。……ていうかしちゃう。
この人って、ほんとに、ヤバいのでは。
うう。なんか胸が痛い……。
「今からお風呂とかだからほんとに時間かかるから」
そう入れると、少ししてから。
『じゃあ、おやすみだけ入れてくれる?』
……うん、いいよ。いくらでも入れちゃうね。と、返したい。
おやすみなさいの可愛いスタンプ、ほんとにいっぱい入れたくなっちゃうんだけど。
ちょっと待って、私、落ち着いて。と思い直す。
何だか、メッセージが可愛くて、勘違いしてしまいそうだけど。相手は、明日から指導しなきゃいけない後輩の教師で……。
そんな、可愛いからって、そんな感じでノリノリで返していい相手じゃない、はず。
「うん。そしたら、おやすみだけは入れるから」
何とか気合を入れて、普通にそう返した。
頑張った、のに。
『ありがと。……ていうか、琴葉とスマホで連絡取れるとか、嬉しくて死にそうなんだけど』
「――」
なんなのかな、本当に。
このメッセージをあの人に入れられて、可愛いと思わない人なんてこの世に居るんだろうか……。ドキドキしちゃうから。やめてほしい。
『お風呂行ってらっしゃい』
そんな言葉とともに、いってらっしゃいと書かれた可愛い犬のスタンプが送られてきた。
こんなの送るんだ、と、ふふと微笑んでしまう。
……そういえば。
昔のすごく遠い出会いを別としたら、昨日の夜に会ったばかりの人なんだと思うと、すごく不思議。あんな風に一夜を過ごして、触れ方も、抱き締めてくれる腕とかも知ってて、キスも、たくさんしちゃったのに。
……送るスタンプすら、知らない。
でも、どんな人かは……なんとなく分かったような気がする。会ってすぐの人とは思えない位。
ふ、と笑んで、私も、行ってきます、の、クマのスタンプを送っておいた。
同僚でも、スタンプくらい送るよね? これくらいは、いいよね?
なんとなく、自分に言い訳をしてしまいながら。
画面に並んだ二つの可愛いスタンプに、ふ、と微笑んでしまった。
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