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第2章「振られた翌日の、悪夢みたいな」
48.お姉ちゃん
しおりを挟む電車を降りてから、お姉ちゃんに電話を掛けた。
『あ、もしもし、琴葉?』
「うん、お姉ちゃん、元気? 今大丈夫?」
『大丈夫だよ。こっちは元気。琴葉は?』
「うん、元気でやってる」
『そっか、良かった。週末のことだよね?』
「うん、顔見せには行こうと思ってるんだけど」
『そっか。また仕事で無理なのかと思っちゃった。良かった』
あはは、と笑うお姉ちゃんに、うん、と頷きながら。
それでも、良かったのかな。そっちの方が良かったかもしれないけど。
でもしばらく皆の顔見れてないし。いつまで隠せるはずもないし。
「あのね、お姉ちゃん」
『ん?』
言い辛かったけど、婚約解消のことをそのまま話してみる。
おばあちゃんとか楽しみにしてるし、言い辛いんだけど、という、そういう気持ちも全部。途中から、うん、だけで聞いてたお姉ちゃんは、私が一通り話し終えると、しばらく、んーと考えていたけど。
『まあいいんじゃない? 琴葉が来れたら』
「……大丈夫かな?」
『うん。会ったこともない琴葉の彼氏に会いたいってよりは、皆、琴葉に会いたいわけだし。琴葉がその人と幸せなら、一緒に会いたかったけど……ていうか、クズだね。そいつ』
「……クズ、なの??」
『クズだよ。週末、婚約者の実家に帰ろうって時に、土壇場で逃げたってことよね? 最低すぎる』
はっきりそう言われてみれば、たしかに……。、実家に行ったら逃げ場がなくなると思ったんだろうとか変に納得してあげようとしてた部分もあったから、お姉ちゃんが思い切りはっきりそう言ってくれると、なんだか……ちょっと、すっきりした、かも。
『そんな奴と、琴葉が結婚しなくって良かったよ』
「……お姉ちゃん」
『結婚前で良かったね』
まずい。……なんか、泣いてしまいそう。
『そいつと結婚してたら、間違いなく浮気されてたと思うよ。結婚前からそんな、ふらふらしてるようじゃだめだって。良かったよ、結婚前に分かって』
「……なるほど」
確かに。さすが。お姉ちゃん。
そこまで聞いたら、クス、と笑ってしまった。
『でもさ、琴葉』
「ん?」
『それ、昨日の話なんでしょ?』
「うん。そうだよ?」
『普通に話してられるのが不思議。普段なら、今も私に話す時、絶対泣いてそうなのに、琴葉』
「――」
そう言われて、瞬きを数回。
そう、だよね。普通なら、多分、お姉ちゃんに話す時点で号泣だったかも。泣かないで済んでいる理由として頭に浮かぶのは、ついさっきまで一緒だった、彼だけど。……さすがにちょっと、琉生のことは姉ちゃんにも言いにくい。……いつか遠い過去になったら話そうかな。
『まあでも、元気そうだから良かった。もしあれなら、友達とか連れてきたら? 琴葉も寂しくないし、皆も、琴葉がそっちで誰かと楽しくしてるって分かれば、安心するだろうし』
「そっか。急だから誘ってみないと分かんないけど……女の子でもいいかな? 結婚相手じゃなくなっちゃうけど」
『結婚相手じゃない男連れてきたらびっくりだけど』
「あ、そうだね」
お姉ちゃんはクスクス笑うと。
『皆には言っとくよ。結婚やめたみたいって。相手のことを聞いたけど、やめてよかったと思うよって。解消されたとか心配させるような余計なことは言わないから、大丈夫だよ』
「ん。……ありがと」
お姉ちゃんは昔からずっと、頼りになった。困ったら、お姉ちゃん、て思ってた。大人になってからはあまり頼ることもなくなったんだけど。
久しぶりに頼ったら、やっぱりお姉ちゃんは、昔のまま、お姉ちゃんだ。
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