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第2章「振られた翌日の、悪夢みたいな」

46.ぽんぽん

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 何だか色々考えて、少し黙っていると、琉生が苦笑い。
 
「ていうか、琴葉は薄情じゃないよ。それに関して琴葉は一切悪くない。……あんなことが無かったら、ずっと一緒に居たでしょ?」
 
 その言葉に、ふと、あの時までの自分の気持ちを思い出した。
 そうだ。一緒に生きてくって、思ってたんだ。これからずっと。
 
「悔しいけど、楽しそうに笑ってたよ。幸せそうで良かったって思うくらいには」
「――」
 
 なんだか。じわ、と涙が浮かぶ。
 
 ……あれ。何で。
 俯いて、少し、考える。
 
 なんだか無理やりにでも、もう良い、もう関係ないって思おうとしてたけど。
 ずっと、居るつもりだったこと、思い出したら。
 ああ、私、あの瞬間までは……春樹と生きてくつもりだったのに、と、思ってしまって。
 
 滲んだ涙で、瞬きが増える。気づいた琉生が、隣で少し困ってるのも分かって、早く涙止まってと思っていると。
 
「んー……もちろん、まだ泣いてもいいと思うんだけどさ」
 
 苦笑いを含む、琉生の声がした。
 
「やっぱり、泣いてほしくはない、かなあ……」
 
 琉生の手が、不意に背中に触れて。
 なんだかやたら優しく、ポンポンとされる。
 
「……なに、それ……子供、じゃないよ、私……」
 
 思わず、少し、笑ってしまうと。
 
「……そだね」
 
 琉生も少し笑って言いながら、でも、ポンポン。
 恥ずかしいから、「大丈夫」と言って、やめてもらったんだけど……。
 
 なんだか。不思議だけど。
 新しい涙は、出てこなくなった。
 
 ……琉生って。
 私の涙を、いつも、たやすく止めてくれる。そんな風に頭の隅の方で、思う。
 
 その後は、少しだけ学校のことなんかも話して、とりあえず私から聞きたいことはもう無いとなってから、店を出ることになった。
 
「じゃあ先輩、また来るね」
「おー。頑張れよ、数学教師。しっかりな!」
「はーい。ごちそうさま」
 
 琉生とマスターの会話を聞きながら、私もマスターに挨拶をして、店を出た。
 
「明日学校で会ったら、琴葉とは呼ばないから」
 ふ、と笑顔で私を見下ろす。
 
「うん。私も」
 頷いて、なんとなく笑い返す。
 
「でもさ、学校以外では、呼んでもいい?」
「――」
 
 ここまで普通に呼び合ってて、ダメっていうのも……でもいいってはっきり言うのもなんか躊躇われる。そう思っていたら、すぐに琉生が笑った。
 
「考えといてくれる?」
 
 先延ばししてくれた琉生に、なんとか、頷く。
 
 色々話して、一応、出会いとか全部、聞けた気はする。
 それでも、なんだか、不思議でならない。
 
 告白、されたとか。
 ……思い出すと、思わず首をかしげてしまいそうになる。
 
 なんだか、全然まだ、受け入れられていないみたい。
 ……っていうか、当たり前だよね。
 
 昨日まで婚約してたのに、別の人と一晩限りだと思って過ごして、そしたらその人が学校に現れて……私の指導する後輩、しかもずっと昔に教育実習で会ってて……しかもバイト先が、春樹と私が通ってたあの店で……とか。もうもりだくさんすぎて、……なんだか、すとんと心の中に落ちてこない。

 しかも結構年下の、王子様みたいな人。
 私より可愛い子なんて、絶対周りにいっぱい居るだろうって、思ってしまうから、余計だなぁ。
 
「駅まで送るね」

 そう言われて、駅の方に向かってゆっくり歩き始めながら、「琉生の家は?」と聞いた。
 駅まで送るってことは、電車には乗らないってことな気がして、ここらへんなのかなと思ったから、そう聞いたら。
 
「近くだよ。家、来る? 来ても良いよ?」
 くす、と笑われてしまった。
 
「違うよ、そんなつもりじゃなくて」
「分かってるよ」
 ますます可笑しそうに笑う。
 
 ……ダメだ、顔が熱い。
 ――琉生の冗談に、変に言い訳したみたいな。
 
 ……恥ずかしすぎるんだけど。
 思った瞬間。
 
「琴葉がそんなつもりで聞いてないのは分かってるけど、オレは、本気で、来てもいいよって言ってるけどね」
 
 顔を覗き込んできて。 
 めちゃくちゃ素敵に笑うこの人は。
 
 もうもう、絶対、人タラシだよ……。
 
 わーん、千里ー……。
 ちょっと酔ってるのか、頭に親友の顔が浮かんでくる。
 
 
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