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第2章「振られた翌日の、悪夢みたいな」

44.夢かな?と。

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「急に、ごめんね?」
 
 私が固まっていると、琉生は、少し笑ってそう言った。
 
「……戸惑うと思うんだけど」
「――」
「会った時は、オレ、生徒だったし…琴葉が来るのがきっかけでバイトして――――今日、学校で会うの分かってて、昨日あんなふうに誘ったとか。オレは、琴葉の後輩で教わる立場だし、琴葉が相当戸惑うだろうなって分かってるんだけど」
「――ん」
 
「でも、ずっと忘れられなかった人に会えて。幸せそうに笑ってるの見て満足してると思ってたのに……泣いてるの見たら、急に我慢できなくなって」
 
 琉生がしゃべる言葉は。するすると、まっすぐ、心の中に入ってくるみたいで。
 なんだか何も言えずに、ただ、受け止めていると。
 琉生は、私が返事をしないのを、違う意味でとったみたいで、苦笑いを浮かべた。
 
「ごめんね。……ほんとは学校で会うし、やめた方が良いのも分かってたけど。泣いたまま帰すとか出来なくて。あぁ、もう、オレ、琴葉が好きなんだって思って……ごめん。告白するのが後になって」
 
 じっと見つめられる。
 
「でも、今日会ったら、ちゃんとするつもりだった。……もちろん、好きなだけ考えてくれていいし……すぐに返事とかじゃなくて、いいんだけど」
「――」
 
「ていうか、すぐに返事って言ったら絶対断られちゃうと思うからさ」
「――」
 
「ゆっくり、普通に過ごして……でも、いつかオレのこと、そういう対象で見てくれたら嬉しい」
 
 どうして、こんなにまっすぐなんだろう。
 ……若いから、かなぁ。
 
 その気持ちを否定することも、逃げることも、出来ない。
 ちゃんと、答えないと。と、思う。
 
「私、あの……昨日、あんなこと、して、なんなんだけど……」
「うん」
「……まだ、婚約解消した、ばかりで」
「うん」
 
「――昨日のは、ほんとに……自分でもどうかしてたなって思ってる、んだよ」
「うん。そうなんだろうけど……でも」
「?」
 
 でも?
 
「琴葉が、オレと一晩過ごしても良いって思ってくれたことがさ。すごい嬉しかったんだよ」
 
 ふ、と笑われて見つめられる。
 
「オレ、男としては、まあアリかなって、思ってくれたってことでしょ?」
「――」
 
 ……アリかなって……王子様だと思ったくらいだから。
 それは確かにそうなんだけど、だからって、今、それに大きく頷くのもどうなのって気がする。
 
「昨日がだいぶ特殊な状況で、だから琴葉が一度限りだと思って乗ってくれたってことも分かってるよ」
「……」
 
「だから昨日のことは、関係なく……今からでいいから、本気で、オレと付き合うこと、考えてくれない?」
 「――」

 この王子様は。
 キラキラの瞳で、なんだか夢かな? と思うようなことを繰り返し言ってて。なんか現実感が、なさすぎて。
 
 でも、確かに、言ってくれてるみたいとは、思うのだけど。

 それでも色々戸惑いすぎて、なかなか言葉が出てきてくれない。


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