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第2章「振られた翌日の、悪夢みたいな」
42.可愛く見えて。
しおりを挟む「私、何て、答えた?」
「何て答えたと思う? 覚えてる?」
「覚えてないけど……言いそうな答えは、思い浮かぶかも……」
そう言うと、琉生は、ふ、と楽しそうに笑う。
「言ってみて?」
うう。……ちょっと恥ずかしいけど。
「とりあえず一生懸命生きてから探してみて?とか……」
「はは。あたり」
嬉しそうに笑って、琉生が、私をじっと見つめる。どき。と、胸が。音を立てる。
「生きてる意味なんて、とりあえずめちゃくちゃ一生懸命生きてから探すんだよって言われてさ。なんかその後も、生きてるってだけで、奇跡なんだよ、すごいんだよって、熱弁されて……」
「あー……何か、ごめんね……」
「何で謝るの。すごい面白くて。……なんかすごい……よかったんだよね」
昔を思い出してるっぽい琉生は。
唇に笑みを浮かべたまま、懐かしそうに目を細める。
「――」
なんか。
……不思議。
あの時、会った、あの子と。今こんなところで、一緒にお酒飲んでるとか。
しかも見た目、全然違うし。
………………しかも、昨日。あんなこと……しちゃったとか。
――っっっ。
……思い出すんじゃなかった。
顔に勝手に熱が集まる。
「琴葉?」
「――」
琉生の手が、私の頬に、触れる。
「赤い――何で?」
クスクス笑われて、優しく見つめられる。
……昨日の自分を思い出したからなんて、言えるわけがない。
あと。触られてると、とてもじゃないけど、顔の熱、引かない。
「なん、でも、ない……」
少し顔を引いて琉生の手から離れて、自分の両手で自分の顔を挟んで俯く。
「ちょっと、酔ったのかも……」
「そうなの? お水貰う?」
「あ、大丈夫……」
そう言うと、マスターの方を見た琉生は、そう?と視線を戻してくる。
「話、続けて平気?」
「うん」
「とにかくその時、めちゃくちゃ熱弁されたおかげで。そこから、精一杯やってみようかなと思ったんだよね、オレ」
「そう、なの?」
「目立たないように、適当にやってたこと全部。ちゃんとやってみた」
「そうなんだ……」
それは素直に、何だか嬉しい。
恥ずかしい熱弁をしたみたいだけど。それを聞いて、色々一生懸命やった子が居てくれるって。しかもあの時まだ私、ただの教育実習生で、先生でもなかったのに。そんな風に聞いてくれるって、嬉しい。
「あれ、覚えてるかな」
「……何?」
「琴葉の実習最後の日に、あげたプレゼント」
「覚えてる。ていうか……しおり、使ってるよ」
そう言うと、琉生は、ぱっと私を見た。
「ほんと?」
めちゃくちゃ嬉しそうに、にっこり笑った。
うわ。……可愛い。
……何なの、もう。
もうちょっと。自分がどんな顔してるか考えてから、その笑顔、むけてくれないかな。
本当に強烈なんですけど……。
ドキッとしたのを誤魔化すためにも、グラスを手にしてストローで中をかき混ぜる。
「すごく綺麗だったし。ステンレスだから、壊れないし」
「良かった」
琉生が笑う気配。琉生もグラスを手にするので、少しだけ隣に視線を向けると、すごく嬉しそうに微笑んでる。
実習最後の日。職員室に来てくれて、くれたんだっけ。
ありがとうって、言ってくれた。……それは、覚えてる。
クラスの子や、顔を出してた吹奏楽部の子達には、手紙や色紙や、ちょっとしたものをくれる子も居たけど、それ以外の子でくれたのは、あの場所で会った、その子だけで、なんだかすごく嬉しかった記憶のまま、今も使ってた。
……ただ、あの子と琉生が、全く結びつかなかったけど。
「見たいなぁ……しおり」
「あ、見たい?」
「うん。なんとなく、覚えてるけど……どんなのだっけ、と思って。見てみたい」
「ん。いいよ。明日学校持って行くね」
「うん」
琉生は本当に嬉しそうで。
なんだかほんとに。可愛く見えてしまって困る。
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