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第2章「振られた翌日の、悪夢みたいな」
37.謎すぎて。
しおりを挟む琉生は、ふ、と笑みながら、後ろのマスターを振り返った。
「先輩、お酒、作らせてもらって良い?」
「どーぞ」
琉生はありがと、と言うと、グラスを出してきて手慣れた動作でお酒を作っていく。琉生がカウンターの向こう側でお酒を作っているのが、何だか不思議で、ぼー、と見つめてしまう。
「オレ、何回も、琴葉にお酒作ったよ?」
くす、と笑って、私を見つめる琉生。
そう言われてみれば頼んだ気はする。
ていうか。「黒い人」だもん……。
覚えてないと言うか。認識が出来てないというか。
「はい。どうぞ」
カクテルが目の前に置かれる。
「……ありがとう」
綺麗な色のお酒。上が黄色で下が青。
一口飲むと、甘くておいしい。パイナップルだ、と口が綻ぶ。
「それ好き?」
琉生の、笑いを含んだ声がして、私は琉生を見上げて頷いた。
「あの……清水先せ」
「あ、琉生でいいよ。オレに先生とか、ここじゃおかしいし」
確かに。しかもさっきも、琉生って呼んじゃったし、ここでだけならと、少し考えてから頷いた。
「琉生、は昨日会った時……私があそこの先生だって知ってたの?」
「うん。知ってた」
「会うの知ってて――昨日……」
……そこまで言って、口ごもる。
別に責めたい訳じゃない。何て言ったらいいんだろう、と迷いながら、思わず琉生を見つめたら。
「昨日はオレ、先輩にスーツ姿を見せに来てたんだよね。ここのバイトは、一昨日で最後だったから」
「――」
なるほど……それで、昨日、スーツだったんだ。
何だか今更納得して、うん、と頷く。
「そしたら初めて琴葉が一人で来てて。なんか、様子が変だなって気になって」
「――」
全然、居たこと、気づかなかった。
……っていうか昨日の私。周りなんか、見えてなかったし。
春樹のことが、ショックすぎて。
そもそも、琉生のこと目にしたとしても、知らない人として、スルーしただろうし。気づくも何も、なかったもんね……。
「今までは、琴葉が幸せそうだったから、それでいいと思ってたし。笑った顔、たまにでも見られればいいやと、思ってた」
「――」
……なんだか、よく分からないけど。
――すごい、なんか……なんだろう?
琉生は、どんな意味で、そんなことを、言うんだろう。
幸せだったらいいとか、笑った顔が見られればいいなんて、そんなことを言ってもらえるほど、琉生と特別に過ごしたことなんて無いと思う。そこまでの時間過ごしてたら覚えてる筈だもん。
もう謎すぎて、じっと見つめてしまう。
「ずっと隣に居たあの人が居なくなるなら。オレ、我慢しなくてもいいのかなと思って……学校で会うのも分かってたけど……一人で家に帰したくなかったんだよ」
じっと、見つめられる。
どき、と、心臓が、揺れる。
……初対面で、甘えたいと思った人。
多分あんなことは、人生でもう無いだろうなと、思うことを、した人。
どんな意味で琉生が言ってるとしたって。
ドキドキ、するのはしょうがない気がする……。
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