「王子と恋する物語」-婚約解消されて一夜限りと甘えた彼と、再会しました-✨奨励賞受賞✨

悠里

文字の大きさ
上 下
48 / 107
第2章「振られた翌日の、悪夢みたいな」

36.不思議な話

しおりを挟む


「琴葉たち、ここがオープンした頃から、ここに来てたでしょ?」
「うん、そう」
 
 オープンしましたって看板に書いてあるところに通りかかって、入ったのがきっかけだった。そしたら、良いお店だったから、春樹と通うようになった。
 
「オレは、先輩が店を出したって聞いて少しして遊びに来た時に、琴葉を見かけたんだよ。先輩に聞いたら、オープンの頃から何回か来てくれてるって、聞いてさ」
「――」
 
「もともと、ここでバイトしないって先輩に誘われてたんだけど……することに決めたんだよね」
「……え?」
「ん?」
 
 琉生が、ふ、と笑って私を見つめる。
 
「……私が来てたから、って言ってる?」
「そう。言ってる」
「……??」
 
 何でそんな? 良く分からなくて黙っていると、琉生がふと、笑った。
 
「琴葉たちが来るのなんて、たまにだし。別にそのためだけにバイトしたんじゃないよ? どうせ何かバイトはしようとは思ってたのと、カクテル作るのとかも楽しかったから続けたんだけど。でもきっかけは、琴葉を見かけたから、だった」
「――」
 
「……ごめん。気持ち悪い?」
 
 苦笑いの琉生に。
 ちょっと首を傾げて考える。
 
「……気持ち悪くは、ないけど……よく、分からない」
 
 そう言ったら、琉生は、はは、と笑って、頷いた。
 
「まあ、そうだよね。ちゃんと説明するね。……お酒、飲んで?」
「うん」
 
 言われるまま、お酒を口にしながら、琉生の顔を見つめる。
 
「オレさ、そのもっとずっと前に琴葉に会ってて……忘れられなかったんだよね。琴葉のことを、ずっと、覚えてたの」
「――」
 
「でも、接点もないし、どうしてるかも知る由もないし、諦めてて。淡い初恋、みたいな感じだった。……ほんとにたまたま、ここで見かけて……でも、もともと諦めてたし、最初から彼氏が居るんだなって普通に納得もしてて。なんて言うか……幸せそうにしてるのを、たまに見れるだけで良かった訳」
 
 もう、ただただ瞬きを繰り返してしまう。
 
「婚約したのも、知ってた。お酒を運ぶ時に、実家に挨拶とか色々ここで話してたの、聞こえて」
「――」
「ちゃんと祝福してたよ。琴葉が幸せそうでよかったって」
 
 何だか不思議な話を聞いてるみたいで。
 ただただ、目の前の、整った顔をじっと見つめてしまう。
 
 ――いつ、会ったっけ。
 忘れられないって……。そんな風に言われるほど絡んだってこと?
 
「その話って……」
「ん?」
「ほんとに、昔会ったのって、私の話? 人違いとかじゃなくて?」
「――」
 
 琉生は、ぷ、と笑い出した。すごく可笑しそう。
 
「それだけ覚えてないってことだよね」
 
 だって、こんな王子様みたいな人に会ったら、忘れないと思うし。
 さっきみたいに真っ黒な人になってたとしても……そんな忘れられないと言われるくらいに絡んだら、覚えてる気がするし。
 


しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

彼の秘密はどうでもいい

真朱
恋愛
アンジェは、グレンフォードの過去を知っている。アンジェにとっては取るに足らないどうでもいいようなことなのだが、今や学園トップクラスのモテ男へと成長したグレンフォードにとっては、何としても隠し通したい黒歴史らしい。黒歴史もろともアンジェを始末したいほどに。…よろしい。受けてたちましょう。     ◆なんちゃって異世界です。史実には一切基づいておりませんので、ご理解のほどお願いいたします。  ◆あらすじはこんなカンジですが、お気楽コメディです。  ◆ざまあのお話ではありません。ご理解の上での閲覧をお願いします。スカッとしなくてもクレームはご容赦ください。

ツンデレ王子とヤンデレ執事 (旧 安息を求めた婚約破棄(連載版))

あみにあ
恋愛
公爵家の長女として生まれたシャーロット。 学ぶことが好きで、気が付けば皆の手本となる令嬢へ成長した。 だけど突然妹であるシンシアに嫌われ、そしてなぜか自分を嫌っている第一王子マーティンとの婚約が決まってしまった。 窮屈で居心地の悪い世界で、これが自分のあるべき姿だと言い聞かせるレールにそった人生を歩んでいく。 そんなときある夜会で騎士と出会った。 その騎士との出会いに、新たな想いが芽生え始めるが、彼女に選択できる自由はない。 そして思い悩んだ末、シャーロットが導きだした答えとは……。 表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_) ※以前、短編にて投稿しておりました「安息を求めた婚約破棄」の連載版となります。短編を読んでいない方にもわかるようになっておりますので、ご安心下さい。 結末は短編と違いがございますので、最後まで楽しんで頂ければ幸いです。 ※毎日更新、全3部構成 全81話。(2020年3月7日21時完結)  ★おまけ投稿中★ ※小説家になろう様でも掲載しております。

わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない

鈴宮(すずみや)
恋愛
 孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。  しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。  その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?

完全無欠な学園の貴公子は、夢追い令嬢を絡め取る

小桜
恋愛
伯爵令嬢フランシーナ・アントンは、真面目だけが取り柄の才女。 将来の夢である、城勤めの事務官を目指して勉強漬けの日々を送っていた。 その甲斐あって試験の順位は毎回一位を死守しているのだが、二位にも毎回、同じ男の名前が並ぶ。 侯爵令息エドゥアルド・ロブレスーー学園の代表、文武両道、容姿端麗。 学園の貴公子と呼ばれ、なにごとにも完璧な男だ。 地味なフランシーナと、完全無欠なエドゥアルド。 接点といえば試験の後の会話だけ。 まさか自分が、そんな彼と取引をしてしまうなんて。 夢に向かって突き進む鈍感令嬢フランシーナと、不器用なツンデレ優等生エドゥアルドのお話。

身代わりの私は退場します

ピコっぴ
恋愛
本物のお嬢様が帰って来た   身代わりの、偽者の私は退場します ⋯⋯さようなら、婚約者殿

【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい

春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。 そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか? 婚約者が不貞をしたのは私のせいで、 婚約破棄を命じられたのも私のせいですって? うふふ。面白いことを仰いますわね。 ※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。 ※カクヨムにも投稿しています。

シンデレラは王子様と離婚することになりました。

及川 桜
恋愛
シンデレラは王子様と結婚して幸せになり・・・ なりませんでした!! 【現代版 シンデレラストーリー】 貧乏OLは、ひょんなことから会社の社長と出会い結婚することになりました。 はたから見れば、王子様に見初められたシンデレラストーリー。 しかしながら、その実態は? 離婚前提の結婚生活。 果たして、シンデレラは無事に王子様と離婚できるのでしょうか。

元彼にハメ婚させられちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
元彼にハメ婚させられちゃいました

処理中です...