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第2章「振られた翌日の、悪夢みたいな」
36.不思議な話
しおりを挟む「琴葉たち、ここがオープンした頃から、ここに来てたでしょ?」
「うん、そう」
オープンしましたって看板に書いてあるところに通りかかって、入ったのがきっかけだった。そしたら、良いお店だったから、春樹と通うようになった。
「オレは、先輩が店を出したって聞いて少しして遊びに来た時に、琴葉を見かけたんだよ。先輩に聞いたら、オープンの頃から何回か来てくれてるって、聞いてさ」
「――」
「もともと、ここでバイトしないって先輩に誘われてたんだけど……することに決めたんだよね」
「……え?」
「ん?」
琉生が、ふ、と笑って私を見つめる。
「……私が来てたから、って言ってる?」
「そう。言ってる」
「……??」
何でそんな? 良く分からなくて黙っていると、琉生がふと、笑った。
「琴葉たちが来るのなんて、たまにだし。別にそのためだけにバイトしたんじゃないよ? どうせ何かバイトはしようとは思ってたのと、カクテル作るのとかも楽しかったから続けたんだけど。でもきっかけは、琴葉を見かけたから、だった」
「――」
「……ごめん。気持ち悪い?」
苦笑いの琉生に。
ちょっと首を傾げて考える。
「……気持ち悪くは、ないけど……よく、分からない」
そう言ったら、琉生は、はは、と笑って、頷いた。
「まあ、そうだよね。ちゃんと説明するね。……お酒、飲んで?」
「うん」
言われるまま、お酒を口にしながら、琉生の顔を見つめる。
「オレさ、そのもっとずっと前に琴葉に会ってて……忘れられなかったんだよね。琴葉のことを、ずっと、覚えてたの」
「――」
「でも、接点もないし、どうしてるかも知る由もないし、諦めてて。淡い初恋、みたいな感じだった。……ほんとにたまたま、ここで見かけて……でも、もともと諦めてたし、最初から彼氏が居るんだなって普通に納得もしてて。なんて言うか……幸せそうにしてるのを、たまに見れるだけで良かった訳」
もう、ただただ瞬きを繰り返してしまう。
「婚約したのも、知ってた。お酒を運ぶ時に、実家に挨拶とか色々ここで話してたの、聞こえて」
「――」
「ちゃんと祝福してたよ。琴葉が幸せそうでよかったって」
何だか不思議な話を聞いてるみたいで。
ただただ、目の前の、整った顔をじっと見つめてしまう。
――いつ、会ったっけ。
忘れられないって……。そんな風に言われるほど絡んだってこと?
「その話って……」
「ん?」
「ほんとに、昔会ったのって、私の話? 人違いとかじゃなくて?」
「――」
琉生は、ぷ、と笑い出した。すごく可笑しそう。
「それだけ覚えてないってことだよね」
だって、こんな王子様みたいな人に会ったら、忘れないと思うし。
さっきみたいに真っ黒な人になってたとしても……そんな忘れられないと言われるくらいに絡んだら、覚えてる気がするし。
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