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第2章「振られた翌日の、悪夢みたいな」
34.ネタばらし?
しおりを挟む駅の方に歩くにつれ、人が増えてくる。琉生とは、本当にたわいもない学校の話などしながら、昨日の店に着いた。
まだお店がオープンしたばかりみたい。いつもは結構いっぱいのこの店も、まだ人がまばら。琉生について店に入って、カウンターのマスターに、挨拶をした。昨日はすみません、と言ったら、全然、と微笑まれて。それから、「こちらこそ、琉生がなんだかすみません」と苦笑された。
どこまで知ってて言ってるんだろう、どういう意味だろう。
私が昨日、琉生としてしまったこと、もう知ってるのかな……そう思うと、なんだか恥ずかしくなってしまう。
今までずっと春樹と来て、初めて一人で来たと思ったら、琉生と会ったその日にそんなことになった、と……マスターはそう思うんじゃないだろうか。
そう思うと、いつもはそんなことしないんです、昨日初めてだったんです、とか言ってしまいたくなるんだけど、そんなこと言ったらますますドツボにはまるのは分かっていて、実際声には出なかった。色々葛藤していると、琉生が私の背中に触れて、軽く押した。
「奥に座るね、先輩」
「はい、どうぞ」
店を奥に進んだカウンター席の端。テーブル席には背を向けて座るので、今周りのカウンターには人が居ないし、マスターからも少し離れているから、琉生と二人きり、みたいな空間。
たまにここ、春樹とも座ったっけ。カップル席みたいな感じだもんね、と、そんなことがよぎった。
「……何飲む?」
敬語じゃなく、そう聞かれて、咄嗟に隣の琉生を見上げたら。
ふ、と優しく、笑う琉生。
ドキ。――嫌でも、昨日のことを思い出してしまう。
この優しい瞳と笑顔に、吸い込まれて。
甘えるなんて、突拍子もない結論。急に出たんだよね。
……やっぱり、強烈だ。
「マスターのおすすめにする?」
「――」
そう聞かれて一瞬、えっと思ったけど。そのまま、うん、と答える。
春樹と一緒にこの店に来ると、なんとなくいつも、一杯めはそうすることが多かった。
今の琉生の質問は、たまたま、そう聞いただけかな。とすぐ流して、
琉生が、マスターに注文してくれるのを黙って聞いていた。
程なく、私も琉生も同じ飲み物が出てきて、お疲れ様、とグラスを合わせた。
少し甘くて、爽やかな、味のお酒。レモンかな。
「おいしいね」
そう言うと、琉生が、ジンフィズだよ、と教えてくれる。名前は聞くけど、自分では頼んだことが無いお酒かも。
そうなんだ、と頷いていると、一口お酒を飲んだ琉生が、不意に立ち上がった。
「先輩、ちょっと裏入っていい?」
「ん?」
「オレ、ネタばらしするから」
「あー。……いーよ」
よく分からない会話をして、琉生が椅子を戻す。
「飲みながら少し待ってて」
よく分からないけれど一応頷くと、琉生はカウンターの中へ、マスターに何か言いながらその後ろを通って、裏のスタッフルームみたいなドアに入って行ってしまった。
「…………?」
何だろ……?
ネタばらしの意味が全然分からなくて、少し首をかしげてしまいながら、お酒を口に含む。
おいしい……。
おいしいって感じると、なんだか顔が綻ぶというか、体から力が抜けるというか。……ちょっと、楽。
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