46 / 105
第2章「振られた翌日の、悪夢みたいな」
34.ネタばらし?
しおりを挟む駅の方に歩くにつれ、人が増えてくる。琉生とは、本当にたわいもない学校の話などしながら、昨日の店に着いた。
まだお店がオープンしたばかりみたい。いつもは結構いっぱいのこの店も、まだ人がまばら。琉生について店に入って、カウンターのマスターに、挨拶をした。昨日はすみません、と言ったら、全然、と微笑まれて。それから、「こちらこそ、琉生がなんだかすみません」と苦笑された。
どこまで知ってて言ってるんだろう、どういう意味だろう。
私が昨日、琉生としてしまったこと、もう知ってるのかな……そう思うと、なんだか恥ずかしくなってしまう。
今までずっと春樹と来て、初めて一人で来たと思ったら、琉生と会ったその日にそんなことになった、と……マスターはそう思うんじゃないだろうか。
そう思うと、いつもはそんなことしないんです、昨日初めてだったんです、とか言ってしまいたくなるんだけど、そんなこと言ったらますますドツボにはまるのは分かっていて、実際声には出なかった。色々葛藤していると、琉生が私の背中に触れて、軽く押した。
「奥に座るね、先輩」
「はい、どうぞ」
店を奥に進んだカウンター席の端。テーブル席には背を向けて座るので、今周りのカウンターには人が居ないし、マスターからも少し離れているから、琉生と二人きり、みたいな空間。
たまにここ、春樹とも座ったっけ。カップル席みたいな感じだもんね、と、そんなことがよぎった。
「……何飲む?」
敬語じゃなく、そう聞かれて、咄嗟に隣の琉生を見上げたら。
ふ、と優しく、笑う琉生。
ドキ。――嫌でも、昨日のことを思い出してしまう。
この優しい瞳と笑顔に、吸い込まれて。
甘えるなんて、突拍子もない結論。急に出たんだよね。
……やっぱり、強烈だ。
「マスターのおすすめにする?」
「――」
そう聞かれて一瞬、えっと思ったけど。そのまま、うん、と答える。
春樹と一緒にこの店に来ると、なんとなくいつも、一杯めはそうすることが多かった。
今の琉生の質問は、たまたま、そう聞いただけかな。とすぐ流して、
琉生が、マスターに注文してくれるのを黙って聞いていた。
程なく、私も琉生も同じ飲み物が出てきて、お疲れ様、とグラスを合わせた。
少し甘くて、爽やかな、味のお酒。レモンかな。
「おいしいね」
そう言うと、琉生が、ジンフィズだよ、と教えてくれる。名前は聞くけど、自分では頼んだことが無いお酒かも。
そうなんだ、と頷いていると、一口お酒を飲んだ琉生が、不意に立ち上がった。
「先輩、ちょっと裏入っていい?」
「ん?」
「オレ、ネタばらしするから」
「あー。……いーよ」
よく分からない会話をして、琉生が椅子を戻す。
「飲みながら少し待ってて」
よく分からないけれど一応頷くと、琉生はカウンターの中へ、マスターに何か言いながらその後ろを通って、裏のスタッフルームみたいなドアに入って行ってしまった。
「…………?」
何だろ……?
ネタばらしの意味が全然分からなくて、少し首をかしげてしまいながら、お酒を口に含む。
おいしい……。
おいしいって感じると、なんだか顔が綻ぶというか、体から力が抜けるというか。……ちょっと、楽。
1
お気に入りに追加
579
あなたにおすすめの小説
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
寡黙な彼は欲望を我慢している
山吹花月
恋愛
近頃態度がそっけない彼。
夜の触れ合いも淡白になった。
彼の態度の変化に浮気を疑うが、原因は真逆だったことを打ち明けられる。
「お前が可愛すぎて、抑えられないんだ」
すれ違い破局危機からの仲直りいちゃ甘らぶえっち。
◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
【完結】【R18】男色疑惑のある公爵様の契約妻となりましたが、気がついたら愛されているんですけれど!?
夏琳トウ(明石唯加)
恋愛
「俺と結婚してくれたら、衣食住完全補償。なんだったら、キミの実家に支援させてもらうよ」
「え、じゃあ結婚します!」
メラーズ王国に住まう子爵令嬢マーガレットは悩んでいた。
というのも、元々借金まみれだった家の財政状況がさらに悪化し、ついには没落か夜逃げかという二択を迫られていたのだ。
そんな中、父に「頼むからいい男を捕まえてこい!」と送り出された舞踏会にて、マーガレットは王国の二大公爵家の一つオルブルヒ家の当主クローヴィスと出逢う。
彼はマーガレットの話を聞くと、何を思ったのか「俺と契約結婚しない?」と言ってくる。
しかし、マーガレットはためらう。何故ならば……彼には男色家だといううわさがあったのだ。つまり、形だけの結婚になるのは目に見えている。
そう思ったものの、彼が提示してきた条件にマーガレットは飛びついた。
そして、マーガレットはクローヴィスの(契約)妻となった。
男色家疑惑のある自由気ままな公爵様×貧乏性で現金な子爵令嬢。
二人がなんやかんやありながらも両想いになる勘違い話。
◆hotランキング 10位ありがとうございます……!
――
◆掲載先→アルファポリス、ムーンライトノベルズ、エブリスタ
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる