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第2章「振られた翌日の、悪夢みたいな」

32.コロコロコロ…

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 そうした方が彼が喜ぶし、絶対いいって聞いて、そうだなあと思ってることも、どうして出来ないのかな。うーん。……もうこれは、あれだよね、もともとの性質が、男の人に対して可愛い女の子ではいられない感じなんだろうなぁ。
どうやって甘えたりしたらいいか分からないというか。そう思っていた時。池田先生が、今日はここで、と言い出した。
 
「また明日。お疲れ様でした」
 
 まっすぐ琉生の方を見ながら言ってる。私の方はちらっと視線を流しただけ。
 琉生と二人で挨拶を返して、池田先生から離れて歩き出した。池田先生は、正門から少しの所で立ち止まった。
 
 少しして琉生が。
 
「中川先生も、あの扉、重いですか?」
 そんなことを聞いてきた。何だか少し、笑ってしまう。
 
「重いかどうかでいったら重いですけど」
「けど?」
「私、結構、力持ちなので、全然問題ないですね」
 
 そう言うと。琉生が、面白そうな顔で私を見て、それからクスクス笑った。
 
「オレは意外と非力なので。じゃあ、中川先生に開けてもらおうかなー」
「あ、いいですよ、全然。開けてあげますよ」
 
 そう言うと。
 琉生はまた、面白そうに笑った。
 
「嘘ですよ。というか、たとえ死ぬほど重い扉で、内心死にそうになってても、中川先生の前では、涼しい顔で開ける努力をします」
「……? それって、どういう意味ですか?」
 
 またよく分からないことを言ってる。……涼しい顔で開ける努力?
 思わず首を傾げながら、意味を聞いたら琉生は苦笑い。
 
「中川先生の前では、良い格好したいなってことですけど。聞かないでくださいよ」
「――」
 
 分かるような、分からないような。
 首を傾げながら、クスクス笑う琉生を見上げると。ふ、と優しい瞳で見つめられる。
 
 ドキ。として。そのまま、鼓動が速い。
 
 昨日振られたばかりなのに、なんか今日また別の人にもうドキドキしてるとか。
 なんか私って、どうなの?? 別の人にドキドキとかって、もっと時間が経ってからじゃないの、普通……なんて、咄嗟に思ってしまう。
  とは言っても、昨日みたいなこと普通はしないし、あんなことした人と一緒に仕事なんて普通ありえないから、もはや普通が当てはまってくれない状況ではあるのだけど。
 
「……あの、清水先生」
「はい」
 「ほんと……そういうの、やめた方がいいかと」
「そういうの?」
 
「勘違い、されますよ?」
  そう言うと、琉生は、ぷ、と笑った。
 
「勘違いされたくない人には、言いません」
  絶対、怪訝な顔になった私を見て、琉生はクスクス笑ってる。
 
 この人、絶対、今までこうやって、女の子をコロコロ手のひらで転がしながら生きてきたんだろうなぁ。そして、女の子は絶対皆、喜んでコロコロ転がされてたに違いない。

 コロコロコロコロ……。
 謎の効果音が、頭の中で巡ってる……。


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