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第2章「振られた翌日の、悪夢みたいな」

31.花が綺麗ってこと

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 内心疲れ果てているせいか、琉生に対して心の中で、変なツッコミをしていると、池田先生が隣の琉生を見上げて笑顔になった。
 
「清水先生って」
「はい?」
「イケメンですよね」
 
 明るい。猫なで声。……可愛いと思う人は、思うんだろうなあ。男の人は。
 ちく。と 嫌な感情が沸いてしまって、視線を外して、前を見つめる。
 
 こんな甘えるみたいな声に、惹かれたのかな。春樹は……。
 そうだよね、私は、こういうの出来ないもんな……。
 そんなことを思ってしまう。
 
 前を見つめたまま、私がひたすら黙っている中。琉生は「そうですか?」と笑った。特別、喜ぶ訳でもなく、さらっと。言われ慣れてるのかな、なんて思ったりする。
 
「そうですよー。女子生徒たち、大騒ぎだったんじゃないですか?」
「そんな事ないですよ。普通に話してましたし」
 
 琉生がうまく、スルーしてるのを聞きながら。
 早く正門にたどり着かないかなと、この長い道に少しうんざり。
 
 うんざりしてから、ふと、気づく。
 正門までの長い一直線の道は、端の花壇に植えられている花がとても綺麗で、いつもそれを見ながら歩く。
 
 高校生の時も、教員として来てからも。
 だから、この道を長いとか。うんざりとか。思ったことなかったのに。
 
 やっぱりマイナスの思考はほんと、色んな意味で良くないなと、こんな所でも思い知る。花が綺麗、そんなことすらも、思えなくなってるみたい。
 
 ダメだ。早いとこ色々吹っ切って、楽しく生きよう。
 
 ……あ。実家。咄嗟に思い浮かぶ。
 楽しくとか言う前に、そっちどうにか。連絡しないと……。
 
 お母さん達に連絡する前に、 お姉ちゃんに電話してみようかな……。
 
 まあ……。私はまだ二十六だし。たまたま姉妹が結婚が早かっただけで、別に私は、急いでしなくてもいいとは思うんだけど……。
 
 ……でも、ひとつ、ちょっと悲しくなるのは。
 おじいちゃん、おばあちゃんが楽しみにしてるってことなんだよね……。
 
 まあそんなこといっても、しょうがないんだけど。うーん……。
 何て言えば皆のダメージが少ないかな。
 あー……やっぱり、お姉ちゃんに相談しよう……。
 
「この道、花が綺麗ですよね」
「――」
 
 実家の方に意識が飛んでた私は、え?と琉生を見上げた。
 琉生が、私を見て、ふ、と笑った。
 
「花。綺麗ですよね」
「あ。花……そうですよね。用務員さんや園芸部の子達がせっせとお世話してくれてて」
「道が長いから大変そうですけど。綺麗ですよね」
 
「……花、好きなんですか?」
「そうですね……って言っても。高校生の時は、最初は目に入ってなかったんですけど」
 
 そんな風に言って、苦笑してる。
 そうだよね、男子高生が花なんて。と思ってから、ふと気付く。
 
「最初は、って?」
「途中から、見るようになって」
 
 ふ、と笑んで、琉生が花に視線を流す。
 
 意外。高校生の頃も王子様だったんだろうなーと思うのに。
 王子みたいな若い男の子が、花に興味あったんだ、と、ちょっと和んでいると。向こうから、池田先生が話し始める。
 
「清水先生は、好きな人にお花送ったりするんですか?」
「花、は……送ったこと無いですね」
 
 池田先生の質問に琉生がそう答えてから。
 
「……今度、送ろうかな」
 
 笑み交じりの声で、そんな風に答えてる。
 
 やっとの事で正門までたどり着いて、私が内側にあるボタンを押して、正門の鍵を外すと、琉生が重い門を開けてくれた。
 
「清水先生、すごい、軽々開けますね」
「そうですか?」
 
「そうですよう、この門、ほんとに重いんですから」
 
 それを聞きながら、んー? と、少し考える。
 ……か弱さアピールなのかな。琉生が頼もしいって、言いたいのかな。
 
 ……何にしても。
 男の人が喜びそうなこと。自然と言える、こういう子が、やっぱりモテるんだろうな。
 
 前もテレビで、要領の良さそうな奥さんが、固い瓶の蓋とか、ほんとは開けられるんだけど、たまにご主人に頼んで開けてもらうって言ってて。ありがとう、さすが、って褒めるとか。そういうのが、円満の秘訣、みたいな事を言ってて。
 なるほどー、そっか、そうすると、男の人は、嬉しいんだ。と、納得はしたのだけれど。でも私、出来ないなぁ、普通に自分で開けちゃう……と、思ったんだった。
 
 池田先生は、多分、そういうことをして、男の人を喜ばせられる人、なんだよね。 んー……そういうのも、必要なことな気がする。
 
 まあ。春樹にそれをしたのか知らないけど。
 ――自然と男の人をおだてて、喜ばせて。とか。きっと大事なんだよね。
 
 私はそういうの。気づけないというか。ささっと自分でやっちゃうというか。うーん……。
 
 つくづく、恋愛向いてないというか、うまくできない人な気がしてきて。
 もう、内心ちょっぴり苦笑い。
 


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