43 / 106
第2章「振られた翌日の、悪夢みたいな」
31.花が綺麗ってこと
しおりを挟む内心疲れ果てているせいか、琉生に対して心の中で、変なツッコミをしていると、池田先生が隣の琉生を見上げて笑顔になった。
「清水先生って」
「はい?」
「イケメンですよね」
明るい。猫なで声。……可愛いと思う人は、思うんだろうなあ。男の人は。
ちく。と 嫌な感情が沸いてしまって、視線を外して、前を見つめる。
こんな甘えるみたいな声に、惹かれたのかな。春樹は……。
そうだよね、私は、こういうの出来ないもんな……。
そんなことを思ってしまう。
前を見つめたまま、私がひたすら黙っている中。琉生は「そうですか?」と笑った。特別、喜ぶ訳でもなく、さらっと。言われ慣れてるのかな、なんて思ったりする。
「そうですよー。女子生徒たち、大騒ぎだったんじゃないですか?」
「そんな事ないですよ。普通に話してましたし」
琉生がうまく、スルーしてるのを聞きながら。
早く正門にたどり着かないかなと、この長い道に少しうんざり。
うんざりしてから、ふと、気づく。
正門までの長い一直線の道は、端の花壇に植えられている花がとても綺麗で、いつもそれを見ながら歩く。
高校生の時も、教員として来てからも。
だから、この道を長いとか。うんざりとか。思ったことなかったのに。
やっぱりマイナスの思考はほんと、色んな意味で良くないなと、こんな所でも思い知る。花が綺麗、そんなことすらも、思えなくなってるみたい。
ダメだ。早いとこ色々吹っ切って、楽しく生きよう。
……あ。実家。咄嗟に思い浮かぶ。
楽しくとか言う前に、そっちどうにか。連絡しないと……。
お母さん達に連絡する前に、 お姉ちゃんに電話してみようかな……。
まあ……。私はまだ二十六だし。たまたま姉妹が結婚が早かっただけで、別に私は、急いでしなくてもいいとは思うんだけど……。
……でも、ひとつ、ちょっと悲しくなるのは。
おじいちゃん、おばあちゃんが楽しみにしてるってことなんだよね……。
まあそんなこといっても、しょうがないんだけど。うーん……。
何て言えば皆のダメージが少ないかな。
あー……やっぱり、お姉ちゃんに相談しよう……。
「この道、花が綺麗ですよね」
「――」
実家の方に意識が飛んでた私は、え?と琉生を見上げた。
琉生が、私を見て、ふ、と笑った。
「花。綺麗ですよね」
「あ。花……そうですよね。用務員さんや園芸部の子達がせっせとお世話してくれてて」
「道が長いから大変そうですけど。綺麗ですよね」
「……花、好きなんですか?」
「そうですね……って言っても。高校生の時は、最初は目に入ってなかったんですけど」
そんな風に言って、苦笑してる。
そうだよね、男子高生が花なんて。と思ってから、ふと気付く。
「最初は、って?」
「途中から、見るようになって」
ふ、と笑んで、琉生が花に視線を流す。
意外。高校生の頃も王子様だったんだろうなーと思うのに。
王子みたいな若い男の子が、花に興味あったんだ、と、ちょっと和んでいると。向こうから、池田先生が話し始める。
「清水先生は、好きな人にお花送ったりするんですか?」
「花、は……送ったこと無いですね」
池田先生の質問に琉生がそう答えてから。
「……今度、送ろうかな」
笑み交じりの声で、そんな風に答えてる。
やっとの事で正門までたどり着いて、私が内側にあるボタンを押して、正門の鍵を外すと、琉生が重い門を開けてくれた。
「清水先生、すごい、軽々開けますね」
「そうですか?」
「そうですよう、この門、ほんとに重いんですから」
それを聞きながら、んー? と、少し考える。
……か弱さアピールなのかな。琉生が頼もしいって、言いたいのかな。
……何にしても。
男の人が喜びそうなこと。自然と言える、こういう子が、やっぱりモテるんだろうな。
前もテレビで、要領の良さそうな奥さんが、固い瓶の蓋とか、ほんとは開けられるんだけど、たまにご主人に頼んで開けてもらうって言ってて。ありがとう、さすが、って褒めるとか。そういうのが、円満の秘訣、みたいな事を言ってて。
なるほどー、そっか、そうすると、男の人は、嬉しいんだ。と、納得はしたのだけれど。でも私、出来ないなぁ、普通に自分で開けちゃう……と、思ったんだった。
池田先生は、多分、そういうことをして、男の人を喜ばせられる人、なんだよね。 んー……そういうのも、必要なことな気がする。
まあ。春樹にそれをしたのか知らないけど。
――自然と男の人をおだてて、喜ばせて。とか。きっと大事なんだよね。
私はそういうの。気づけないというか。ささっと自分でやっちゃうというか。うーん……。
つくづく、恋愛向いてないというか、うまくできない人な気がしてきて。
もう、内心ちょっぴり苦笑い。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
562
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる