上 下
39 / 105
第2章「振られた翌日の、悪夢みたいな」

27.自意識過剰

しおりを挟む


 ちょっと怯えてる私に、千里は、ふふ、と笑った。

「琴葉、今おもいっきり、ドキドキするとか言っちゃってるからさ」
「え」

 えーと。私、今、何て言ったっけ……。

 話しててドキドキとか。見られるだけでドキドキとか。
 ……確かに言ったなー。うーーーーん……。

「あ、でも、言ったけど、昨日のことがあるから、だし」
「うんうん」

「……もともと、王子様とか、思っちゃったルックスの人、だし……」
「うんうん」

 千里はすごく楽しそう。

 私は、深い息を吐いてから、んー、と困りながら千里を見つめ返した。

「千里、私ね、無理な恋愛したくないんだよー……その気になったら困るから、からかわないで?」
「だからさ、何で無理って決めるの?」

「だって、すごい年下だし。相手山ほど居そうだし」
「――うーん」

 今度は苦笑いを浮かべつつ。千里はじゃあ、と私をじっと見つめた。

「分かった、私もちょっと王子と話してみたいし。三人で飲みに行こうって誘っといてよ」
「え???」

「琴葉の予定は? 私、今週はいつでも大丈夫。明日でも明後日でもいいからって、王子に聞いてみて?」
「え、私と、千里と、清水先生と??」
「そう! じゃあそう言う事で。 今日は二人で楽しんでおいでー」

 えええ。冗談だよね??
 確かめる間もなく、背中を押されて、保健室の外へ。

「じゃあね、琴葉、とりあえず明日報告待ってるから!」

 有無を言わさない感じで、明るい笑顔でバイバイを言われ、何も言えないまま、小さく頷いた。

 なんかまた新たなミッションを与えられてしまったような……。
 ちさとー……。
 何だかフラフラしてる気分になりながら、数学準備室にたどり着いて、ドアを開ける。

「あ、中川先生」

 琉生が、ぱ、と私を振り返って、なんだかとっても嬉しそうに笑う。
 ……イケメンすぎる王子様みたいな人が、そういう風に異性に笑いかけるのは、もはや罪なんじゃないだろうかと、そんなことを思ってしまう。

「おかえりなさい。中川先生、すみません、日誌書いてみたんでけど……見てもらって良いですか?」
「あ、はい」

 もう書いたんだ。早い。
 新人の日誌、結構面倒くさいのに……。

 ざっと目を通して。
 思わず感心して、すごいなぁと、笑顔になってしまう。

「良いと思います。清水先生、何だか本当に教えることがない感じですね」

 私が新任だった時とは、ずいぶん違う気がする。
 日誌を返しながらそう言うと、そんなことないです、と言った琉生が、私をじっと見た。

「……というか、そんなこと言わず、色々教えてくださいね?」

 何だか意味深な視線で、そんな風に言う琉生。いや、違うかな。これを意味深って感じるのは私がいけないのかも……? うーん、と考え始めた所で、目の前の席に座っていた、板倉いたくら先生が笑った。

「清水先生は、高校の時から優秀だったから。中川先生、楽ですよ、きっと」

 四十代の奥さんあり、娘さん二人のパパさん。
 優しい良い先生。
 私たちの会話が聞こえていて、この反応ってことは、今の琉生の発言は何の意味も無いものみたい。少なくとも板倉先生は何も感じてないんだよね……。てことは、やっぱり、私がいけないんだ。

 うーん……自意識過剰なのかも……。
 なんか色々気になるセリフとかも、頭に昨日のことがなければ、そんな意識せずにさらっと流せるようなもの、なのかも。

 婚約を解消されたことが、結構な具合に吹っ切れてしまう程に、衝撃的なことをしたわけで。私にとっては、春樹以外で初めて、体を重ねた人で。しかも初めて会ってすぐに。そんなの、意識しないようになんて、とってもまだ難しいのだけど。

 でも、慣れるしかないよね。この人と、接することに。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

裏切りの代償

志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。 家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。 連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。 しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。 他サイトでも掲載しています。 R15を保険で追加しました。 表紙は写真AC様よりダウンロードしました。

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

『別れても好きな人』 

設樂理沙
ライト文芸
 大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。  夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。  ほんとうは別れたくなどなかった。  この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には  どうしようもないことがあるのだ。  自分で選択できないことがある。  悲しいけれど……。   ―――――――――――――――――――――――――――――――――  登場人物紹介 戸田貴理子   40才 戸田正義    44才 青木誠二    28才 嘉島優子    33才  小田聖也    35才 2024.4.11 ―― プロット作成日 💛イラストはAI生成自作画像

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

妻のち愛人。

ひろか
恋愛
五つ下のエンリは、幼馴染から夫になった。 「ねーねー、ロナぁー」 甘えん坊なエンリは子供の頃から私の後をついてまわり、結婚してからも後をついてまわり、無いはずの尻尾をブンブン振るワンコのような夫。 そんな結婚生活が四ヶ月たった私の誕生日、目の前に突きつけられたのは離縁書だった。

寡黙な彼は欲望を我慢している

山吹花月
恋愛
近頃態度がそっけない彼。 夜の触れ合いも淡白になった。 彼の態度の変化に浮気を疑うが、原因は真逆だったことを打ち明けられる。 「お前が可愛すぎて、抑えられないんだ」 すれ違い破局危機からの仲直りいちゃ甘らぶえっち。 ◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

処理中です...