38 / 108
第2章「振られた翌日の、悪夢みたいな」
26.浮気って。
しおりを挟む「あ、琴葉!」
数学準備室に向かうまでの間の廊下で、千里と会った。
「ちょっと、中川先生借りますねっ」
そんな風に琉生に言う千里に、腕を組まれた瞬間。
「あ、中川先生、荷物、机の上に置いておきますよ」
「あ。うん……ありがとう」
私の荷物を全部琉生が受け取ってくれて、にこ、と笑う。
「オレ、日誌書いてます」
「うん。ごめんね」
すぐに千里が私の腕を引いて、そのまま、保健室に連れ込まれた。
「千里、どうしたの??」
「さっき、春樹に会って。少し話したのよ」
「あ、そう、なんだ」
私を抜きにしても、千里と春樹は同期で、同僚で、普通の友達同士。
だから、話すのとかは、当たり前。なんだけど。
「付き合ってはないみたいだった」
「え?」
「池田先生とはまだ付き合ってないって」
「そうなんだ」
「二股とかでは、なかったみたい。それはとりあえず良かったかな」
「うーん……」
まあでも、それにしても。
天秤にかけられて、捨てられた事には変わらないけど。
浮気って……よくどこからが浮気って言われるけど。
つまり気持ちが浮いて、他の人に向かったらもう浮気って言えると思うんだよね……。だって、きっともうそこからは、どんどんそっちに、行ってしまうもん。
付き合うとか、そういうことする、とか。
……それは、気持ちが移った後の話だし。
まあでも……そういう事実が、ないのは、それでもよかった、かな。
まだ、マシ、というレベルだけど。
「ありがとね、千里」
「それでさ。琴葉を今ここに連れてきたのはね。んー、何かね、春樹が気にしてたのよね、王子のこと」
「え? どういうこと?」
気にしてた?
「何か琴葉と話そうとすると来るんだけど、みたいなこと言ってて」
「……んん?? でもそれは偶然かな、ていうか、一回目は掃除中だったし、二回目はもともと授業の練習してる時でね。そこに、池田先生だって居たからね」
「うん。まあ学校だからねって、すっとぼけといたけど」
「――ていうか、ほっとけばいいのにね、私のことなんて」
「そうだけど……まあなんか、池田先生にそそのかされて、別れを告げてみたけど、気になってしょうがない。て感じかなあ、あれ……バカだよねえ、春樹ってば」
千里はやれやれ、とため息をついている。
まあ……こんなことになって庇うつもりはないけど。
春樹は気持ちが優しいから。きっと、それなりに色々考えて、悩んで、決めたんだろうけど。それでも私のこと、大丈夫かなとか考えてしまうんだろうな。
でも、そこで私を気にして声をかけるのは、本当は優しさではないんだけど。春樹は、そこが分かってないんだと思う。もう決めて別れを選択したなら、むしろ捨てておいてくれないといけないと思うのよね。
「もしまた話す時があったら、私のことはもう気にしないでって言っといて? ……今更だもん。もう一度、結婚を前提にとかは思えないしさ。もう放っておいてほしい」
「まあそうだよね。うん、今度話したら、言っとく」
「うん。ごめんね」
そう言って千里を見ると、千里はクスクス笑う。
「琴葉は、新しい恋に生きてね」
「うん、そうだよね」
「清水先生でも、他の誰でも良いけどさ」
「うん……清水先生はないけどね」
「何で?」
「今日少し一緒に居たけど……話してても、ほんとにすごくモテそうでね。絶対私じゃ無理だと思う」
「まあモテるっていうのはそうかもしれないけどね」
ふむ、と千里が頷いている。
「なんか話してて、会話がね、ドキドキさせられちゃうっていうか? 翻弄される子もいっぱい居そう。あんなモテそうな人、無理、私」
「なるほどー……ん? ていうか、ドキドキするの? 琴葉」
「だって、なんか、視線っていうか……見られるだけでも、ドキドキするよ? 昨日の記憶もまだ消えてないし…… 早く薄れてくれないと、心臓がもたない……」
「へーー?」
「……?」
何だか、千里は、すごく楽しそうだけど。
なになに? …………ちょっと、怖い。
12
お気に入りに追加
590
あなたにおすすめの小説
オオカミ課長は、部下のウサギちゃんを溺愛したくてたまらない
若松だんご
恋愛
――俺には、将来を誓った相手がいるんです。
お昼休み。通りがかった一階ロビーで繰り広げられてた修羅場。あ~課長だあ~、大変だな~、女性の方、とっても美人だな~、ぐらいで通り過ぎようと思ってたのに。
――この人です! この人と結婚を前提につき合ってるんです。
ほげええっ!?
ちょっ、ちょっと待ってください、課長!
あたしと課長って、ただの上司と部下ですよねっ!? いつから本人の了承もなく、そういう関係になったんですかっ!? あたし、おっそろしいオオカミ課長とそんな未来は予定しておりませんがっ!?
課長が、専務の令嬢とのおつき合いを断るネタにされてしまったあたし。それだけでも大変なのに、あたしの住むアパートの部屋が、上の住人の失態で水浸しになって引っ越しを余儀なくされて。
――俺のところに来い。
オオカミ課長に、強引に同居させられた。
――この方が、恋人らしいだろ。
うん。そうなんだけど。そうなんですけど。
気分は、オオカミの巣穴に連れ込まれたウサギ。
イケメンだけどおっかないオオカミ課長と、どんくさくって天然の部下ウサギ。
(仮)の恋人なのに、どうやらオオカミ課長は、ウサギをかまいたくてしかたないようで――???
すれ違いと勘違いと溺愛がすぎる二人の物語。
契約結婚のはずが、幼馴染の御曹司は溺愛婚をお望みです
紬 祥子(まつやちかこ)
恋愛
旧題:幼なじみと契約結婚しましたが、いつの間にか溺愛婚になっています。
夢破れて帰ってきた故郷で、再会した彼との契約婚の日々。
★第17回恋愛小説大賞(2024年)にて、奨励賞を受賞いたしました!★
☆改題&加筆修正ののち、単行本として刊行されることになりました!☆
※作品のレンタル開始に伴い、旧題で掲載していた本文は2025年2月13日に非公開となりました。
お楽しみくださっていた方々には申し訳ありませんが、何卒ご了承くださいませ。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

初恋をこじらせた騎士軍師は、愛妻を偏愛する ~有能な頭脳が愛妻には働きません!~
如月あこ
恋愛
宮廷使用人のメリアは男好きのする体型のせいで、日頃から貴族男性に絡まれることが多く、自分の身体を嫌っていた。
ある夜、悪辣で有名な貴族の男に王城の庭園へ追い込まれて、絶体絶命のピンチに陥る。
懸命に守ってきた純潔がついに散らされてしまう! と、恐怖に駆られるメリアを助けたのは『騎士軍師』という特別な階級を与えられている、策士として有名な男ゲオルグだった。
メリアはゲオルグの提案で、大切な人たちを守るために、彼と契約結婚をすることになるが――。
騎士軍師(40歳)×宮廷使用人(22歳)
ひたすら不器用で素直な二人の、両片想いむずむずストーリー。
※ヒロインは、むちっとした体型(太っているわけではないが、本人は太っていると思い込んでいる)

忘れたとは言わせない。〜エリートドクターと再会したら、溺愛が始まりました〜
青花美来
恋愛
「……三年前、一緒に寝た間柄だろ?」
三年前のあの一夜のことは、もう過去のことのはずなのに。
一夜の過ちとして、もう忘れたはずなのに。
「忘れたとは言わせねぇぞ?」
偶然再会したら、心も身体も翻弄されてしまって。
「……今度こそ、逃がすつもりも離すつもりもねぇから」
その溺愛からは、もう逃れられない。
*第16回恋愛小説大賞奨励賞受賞しました*
お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜
Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。
渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!?
合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡――
だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。
「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき……
《エブリスタ、ムーン、ベリカフェにも投稿しています》

離宮に隠されるお妃様
agapē【アガペー】
恋愛
私の妃にならないか?
侯爵令嬢であるローゼリアには、婚約者がいた。第一王子のライモンド。ある日、呼び出しを受け向かった先には、女性を膝に乗せ、仲睦まじい様子のライモンドがいた。
「何故呼ばれたか・・・わかるな?」
「何故・・・理由は存じませんが」
「毎日勉強ばかりしているのに頭が悪いのだな」
ローゼリアはライモンドから婚約破棄を言い渡される。
『私の妃にならないか?妻としての役割は求めない。少しばかり政務を手伝ってくれると助かるが、後は離宮でゆっくり過ごしてくれればいい』
愛し愛される関係。そんな幸せは夢物語と諦め、ローゼリアは離宮に隠されるお妃様となった。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる