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第2章「振られた翌日の、悪夢みたいな」

25.鈍い?

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「とりあえず一回目の授業はこれで大丈夫そうなので、終わりにしましょうか」
 
 私がそう言うと、琉生は、はい、と笑んで、片付け始めた。
 
「清水先生は、ずっと落ち着いてるので、心配いらなそうですね」
「そう思いますか?」
 
「? はい。狼狽えるとか無さそうなので、安心して見てられそうですけど」
 
 廊下に出て、歩き出しながら、隣を歩く琉生を少し見て、前に視線を戻した。
 あまり視線を合わせないのも変だし、見つめすぎるのも変な気がするし。
 ……どうしたらいいんだろうと、心の中で、私はうろたえてる。
 
 もう本当にどうしたらいいんだろう。
 本当はもう頭を抱え込んでしまいたいくらい動揺してるし。
 ……うー。ほんとこれからどうしよう。
 
「オレ、顔に出ないんですよね」
「そう、なんですか? じゃあ、さっきの授業も実は緊張してました?」
「あ。そっちは、まあなんとか」
「……?」
 
 授業は緊張してないの?
 ……そっちは平気で、どれが平気じゃないのかな。
 
「先生が近くにいるとちょっとダメですね。今、すごくドキドキしてます。オレ」
「――」
 
 ドキドキ? 思わず首を傾げて、ふと見上げると。
 琉生は、まっすぐに視線を合わせて、くす、と笑った。
 
 ドキ。――胸が、揺れる。
 ……ほんと、この人。タラシだな。
 
 ふい、と視線を外すと、琉生は苦笑を浮かべたっぽい気配で続ける。。
 
「すみません。……迫らないって言ったのに。先生見てると、つい」
 そんな台詞に、え、とまた琉生を見上げてしまう。
 
「何ですか?」
 そう聞かれて。
 
「え……あの、今のって、迫ってるんですか?」
「まあ。迫ってるって程じゃないかもしれないですけど。先生と居るとドキドキしてるって伝えてますしね。こんなこと、普通は伝えないので、そんな意味も確実にありますね」
 
 そんなことを言って、琉生は、笑う。
 もうそんな風に言われちゃうと、ただでさえ、王子様なのに困る。そう思っていると、琉生はまた苦笑いを浮かべた。
 
「もしかして、先生って……失礼ですけど、かなり、鈍いですか?」
 
 クスクス笑われて、そんな風に言われて、ちょっと言葉に詰まってしまう。
 
「鈍いって……だってそんな訳ないし……」
 
 自然と眉をひそめつつ、悩んでいると。
 琉生は、んー、と苦笑いしながら。
 
「分かりました。微妙な迫り方はやめますね……っていうか、今の微妙ですかね……」
 
 首を傾げて、うーん、と考えてる風な琉生に、私もまた眉をひそめてしまう。
 
「あの。微妙なのも違うのも―― からかわないでくださいね?」
 
 そう言ったら、琉生は「心外だなぁ」と呟いた。
 それから、ちょっと、む、とした顔をして私を見た。
 
「からかってなんかいませんけど」
「――」
「後で、よーく話しましょうね」
 
 すぐに、む、とした顔を解いて、クスッと笑いながら、琉生が言う。
 あとでよーく。
 …………あれれ、私。
 何を話すんだっけ。
 
 色々言ってる内に、どんどん分からなくなってくる。
 千里と話してた時、琉生に何を聞こうとしてたんだっけ……。
 
 質問をメモして持っていきたい気分。
 メモ見て質問するなんて、そんなことはできないけど。
 でもそうしないと、質問、全部飛んで行ってしまいそうな気もする。
 


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