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第2章「振られた翌日の、悪夢みたいな」
24.女子の成績が。
しおりを挟む生徒の席から立ち上がり、教壇の近くまで進んで、教材を置いた。窓に寄って、開けていたのを閉じながら、琉生に視線を向けた。
「何か、聞いておきたい事、ありますか?」
「そう、ですね……中川先生は、授業のスピードと生徒の理解度と。どっちを優先しますか?」
いきなり聞くのがそれなんだ。やっぱりすごいかも。うーん。
それは私も今でもたまに悩むことだけど……。
窓の鍵を閉めてから、琉生の居る教卓の近くに歩いて、なんとなく教室を見回す。
「大体ですけど、ここまではやるっていうのを決めておきます。それは守らないと遅れてしまうので。たださっき言った、一番得意な子ですら分かっていなさそうだったら、そこは時間をかけてもう一度やったりもします。普通レベルの子たちが分かっていれば、そこはもう、進めてしまいますね」
「……ある程度、スピードも重視ですよね」
「そうですね。ほんとは全員に理解してもらって進めたいですけど……あとは宿題を出して、同じ所を家でやってきてもらうとか、次の授業の時におさらいするとか。塾で先に進んでる子もいるし、出来ない子もいるので……最終手段は、やっぱり放課後に」
「補習ですか?」
クスクス笑って、琉生が言う。
なんだか楽しそうに笑うので、私も少し顔が綻んでしまう。
「そうですね。最終手段の補習まではいかなくても、分からなかったら、いつでも聞きに来てねっていうのも、伝えてます」
「そういうのって、来るんですか?」
何か面白そうに、聞いてくる。
「清水先生、来ないと思ってますか?」
そう聞くと、琉生は口元押さえて、ふ、と笑ってる。
「数学の質問に、ほんとに来る子、居るのかなーって」
「それが、結構いるんですよ? 勉強熱心な子が多いのかなって」
「――」
返事が来ないので、琉生を見上げると。
琉生は、ふんわり笑ってて。
優しい視線に、ドキ、とする。
「――清水先生には、女子生徒が集まっちゃいそうですね」
思わず、今思ったことをそのまま伝えてしまうと。
琉生は、ふっとまた優しく笑った。
「中川先生には男子が集まっちゃいますか?」
「そんなことはないです……って、変なこと言ってすみません、なんだか、ふと思ったこと、言っちゃいました」
苦笑しながら私が言うと。
「中川先生に来ちゃう男子はオレが引き受けるんで、女子お願いします」
「来ないですよ」
「……まあ、来ちゃったらってことで」
琉生はまた、クスクス笑う。
うん。
女子生徒は絶対集まるのは決定だなあ。
私に質問来ないで、琉生の所に皆いっちゃいそう。
こんな数学の先生が居たら、女子生徒だったら、数学頑張っちゃうんじゃないかなあ。今年、女子の数学の成績、すごい上がったりして。
想像すると、何だか本当にそういうこともある気がして、少し可笑しい。
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