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第2章「振られた翌日の、悪夢みたいな」
16.「本当に」?
しおりを挟む頭の中が、実家の家族の顔でいっぱいになっていた時。
「四時間目って何するんですか?」
琉生の言葉で、ふと現実に引き戻された。
「あ。えっと……自己紹介をしてもらうので、生徒達が何を言うか一応メモっておいてもらえますか? 最初に本人が言いたいことだから。割と大事なことを言う子も居るので」
「分かりました」
頷いてから、琉生はクスクス笑った。
「……なんですか?」
「中川先生は、本当に良い先生ですね」
なんかすごく素敵な笑顔でそんな事を言われたのだけれど。
「――?」
これは、トキメクとかそんなのよりも、不思議で思考が止まる。
「本当に」って?
瞬きが増えてしまう。琉生を、見上げたまま、何も答えられない。
ていうか。良い先生っていうのは嬉しいけど。本当にって、なんだろう。
先生として絡み出して少しの時間しか経ってないのに、言う単語じゃない気がする。
……ん?
会った事があるとか?
咄嗟に浮かぶのは、教育実習とか。
あれれ、えーと私が教育実習でここに来た時、琉生って何年だろう。ぱっと浮かばない。考えようとしたけど。
いや、私のクラスに、こんな目立つ子は居なかった。
髪型とか多少変わってたって、琉生なんて名前の子、居なかったし。
じゃあそこが違うとしたら、やっぱり会ってないよね。
「あの、本当にって――」
「中川先生―!」
聞こうと思った瞬間、教室の中から、さっきの女子達に呼ばれた。
「中川先生、高いとこ全部清水先生にやってもらっちゃいましたよー」
「あ、うん、聞いたよ」
生徒達の方に近付きながら、少し後ろに居る琉生が気になるけど。
これもそれも、全部、後で、だなぁ。
モヤモヤして話したいこと、聞きたいことが、どんどんたまっていくけど。なんだか話すのが怖いような。色んな意味で、ドキドキする。
やっと、四時間目が終わって、生徒を帰した。琉生は同期の先生達と売店に行くことになったので、十三時半に数学準備室で、という約束をして別れた。
私は普段はお弁当だけど、今日はとても作る気がしなくて途中のコンビニで買って来たのでそれを手に、もう、超早足で、保健室に向かった。
コンコン、とノックすると、どうぞーと千里の声。
ガラッと開けて、椅子から立ち上がった千里に近付いて。
「あ、琴葉、いらっ――」
「千里――!!」
「おっと……? ど、どうした??」
ぎゅううううっと抱き付く。
千里はびっくりしてるけど、離れられない。
「っ王子様が」
「ああ、うん。王子が? って、琴葉、王子王子って、面白いんだけど」
クスクス笑われるけど、それどころじゃない。
「清水先生が、王子様なの!」
一番、的確に伝えたと思うんだけど。
千里が、しばらく無言で固まって。
「え? ――ちょ、と、琴葉、顔見せて」
腕を解かれて、顔を覗き込まれる。
「王子様って、昨日のお相手だよね?」
「うんっ」
「その王子、清水先生だったの?」
「……うんっ」
「マジで?」
私が、うんうんうんうん、と何度も無言で頷いていると。
千里はクッと笑い出した。
「ああ、それでさっきの朝礼かー。琴葉、どうしたんだろうって思ってたんだよね」
めちゃくちゃ楽しそうに面白そうに笑って、涙まで浮かべてる。
「笑わないでよう……」
何だか半泣きで言うと、私の様子に気付いた千里が、なんとか笑いを収めてくれた。
「まあ、確かに、王子様って感じ。見れて良かったー」
千里はすごく楽しそう。
「座んなよ、琴葉。ご飯食べながら聞くから」
クスクス笑いながら言われて、ため息つきつき、コンビニの袋をテーブルに置いてから、水道で手を洗う。
「清水先生とその話はしたの?」
「ううん。学校だし、聞かれたらマズイし…… 夜、飲みに行こうって事になった」
「ああ、そこで話すの?」
「そうしましょうって、清水先生が……」
手を拭きながら、椅子に腰かけると、千里が隣に座った。
何だかカラカラの喉をうるおそうと、お茶を口に入れた瞬間。
「清水先生かー……あのルックスで、エッチもうまいとか、最高だね」
「――ご、ほっ……!!」
死ぬほど、ムセた。
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