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第2章「振られた翌日の、悪夢みたいな」

10.羽目を外すと。

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 今日は新学期初日だから、やることは普段よりは少ない。

 ホームルーム、顔合わせみたいに出席をとって、それから色んな書類を配るのと教科書の配布、あとは、掃除時間。それで、午前で終わって生徒は、昼は食べずに帰っていく。
 明日明後日も、午前授業。木曜から、昼もありの通常の六時間授業になる。

 私の予定では、この三日間の午後は少し余裕を持って時間が取れるから、新任の先生の授業の練習をさせてあげるつもりで、準備もしていた。生徒が帰って昼を食べたら、教室で二人で、私が生徒役になって……と思っていた。

 その相手が……琉生とか……。
 何でこんなことに……。
 ……できる、かな。私。……いや、でも、やらないと。

 なんか頭の中、ぐるぐるする。
 もう、ほんとにこれは、何なの……?

 昨日みたいに素敵な夢じゃない。
 悪夢??
 悪夢だよね?
 なら、いますぐ覚めてほしいんだけど。

 昨日あんなに、乱れたとこ、見られて。
 婚約してた人に振られたとか、その人の次の相手が同じ学校だとか、愚痴った気がする。

 だってまさか、関係のある所に、現れるなんて、思わなかったから。
 もう二度と会わないって、思ったから。

 ていうか、さっきなんで、あの樹の下に、来たの? 

 もう、ほんとにあそこは、校舎の裏で、あそこを通る必要が何も無い場所。
 誰もあそこを通らない。あの場所を認識してる人自体、ほとんど居ないと思う。

 私は、学生時代、本当にたまたま、持っていたボールが転がった先に、あの樹を見つけて。
 あまりに人から見えない心地いい空間に、時々そこに行ってたから知ってるだけで。そこに居る時に人に会った事も、ない……。

 …………あれ。
 一回だけ、誰かに会ったような――?

 思い出しかけて、首を傾げてしまう。……いや、今はそんな事どうでもいいや。
 なんであそこに琉生が……。
 ん? あ、そうか。
 私が春樹の所から立ち去ったのを見て、ついてきた、ってことかな。
 昨夜の人だってそこで気づいたってことかな。
 きっと、相当、びっくりしたよね、琉生も。
 ……全然びっくりしたように見えないんだけど、何で?
 王子様は、いつでも冷静なのかな?

 さっきからにっこり笑って、平然としてるし。
 私の頭の中はもう、一生で初めてという位に混乱中なのに。

 おかげさまで、春樹や池田先生のことが、もう頭の遠くの方に追いやられている。 良いのか悪いのか……。

 もう全然、意味が分からない。
 何も、聞こえてこない朝礼。
 大事なことを言ってたか、あとで千里に聞こう……。

 ――普段、羽目なんか外さない人間が、
 ちょっとうっかり羽目を外すと。
 
 ほんと、ろくなことに、ならないんだなあと。
 心から思ってしまった。
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