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第2章「振られた翌日の、悪夢みたいな」

8.パニック。

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 頭の中は、パニックのまま、最初に引かれた腕は、歩き始めたらすぐに離されたのだけれど。少し前を歩く、何だか後ろ姿だけでも素敵すぎる人を、意味が分からず見つめたまま、職員室に連れてこられてしまった。

「あ、清水先生。おはようございます」
「あ、はい」

 校長の声がして、琉生は呼ばれて、校長の机の所に歩いて行った。

 琉生と校長の隣に、知らない顔の、男女一人ずつ。
 計三人、入ってくると言ってたっけ。

 一人は、どこかの高校からの転任って言ってたから、ここから見る限り、もう一人の男の先生が、その人で。琉生と女の先生が、新卒の先生かな。……いや。待って、新卒って。
 フラフラと歩いて、とにかく自分の席に、座って。ただ、呆然……。
 ……ちょっと待って。
 新卒って……。
 大学新卒、って。
 二十二才だよね……四つ下? ていうか、三月まで、大学生?

 え、いいんだっけ? 大丈夫……?
 四月になってるから、一応、もう社会人のくくりだよね。じゃあ、大丈夫?
 あ、そもそも、学生でも、二十才超えてればいいのかな……?? 

 何だかもう、意味の分からない心配まで浮かんでは消えていく。
 とりあえずは、年齢的には大丈夫、てことだけは、一応自分の中で落ち着いて。
 それでも、大混乱の頭の中。
 
 あとで、説明するって、言ってた。琉生。
 説明……何を、どう説明って、何???
 ていうか。どんな説明があったとしても。私が昨日、琉生としたことは、もう、まぎれもない事実で。
 何なの、これ、もう、どう考えたらいいの。
 どうしたら――。
 もう全然、分からない。
 心臓が、嫌な感じでドキドキしすぎて、痛い。
 もう、どうしたら、いいのか。

 何だか穏やかな笑顔で、他の先生達と話してる琉生をただ、呆然と眺めてしまう。

 ふと視線を感じて、そちらを見ると、春樹で。
 その視線に、やっと現実に引き戻された。むしろ、冷めてちょっと落ち着いた。

 ふ、と視線を逸らして、机の上の教科書を、整える振り。
 ぼうっとしてるとこを見られて、振られたからとか思われたく、ない……。
 実際、今の私はそっちのせいじゃないし。もっともっと、大パニックな感じだし……。

「琴葉?」
 すぐ横で、千里の声。ぱっと顔を上げて、千里を見上げると。千里はちょっとびっくりした顔で私を見た。

「どうしたの? あの後何かあった?」

 何て言ったらいいか分からなくて、千里をただ見つめる。

「あの」
「うん?」
「あのね、千里」
 その瞬間。朝礼を始めるという教頭の声が聞こえた。

「終わったら聞くね」
 千里はそう言ってにっこり笑う。私も仕方なく頷いて、席から立ち上がると、椅子を奥まで入れる。
 職員室の壁際にぐるっと、先生達が丸くなって、前方の中心にいる、校長と教頭と、三人の新しい先生達の方を向く。

 昨日。私が、一夜を過ごした人が、見間違うことなく、確かにそこに立ってる……。
 眩暈がしそう。
 


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