「王子と恋する物語」-婚約解消されて一夜限りと甘えた彼と、再会しました-✨奨励賞受賞✨

悠里

文字の大きさ
上 下
12 / 105
第1章「最悪な夜の、夢みたいな」

9.大丈夫、かも。

しおりを挟む


 ふ、と、目が覚めた。

 見慣れない天井と壁と、いつもと違う肌触りの布団。
 昨日のことを思い出しながら、瞳を開けると。

 ――隣に、キレイな人が寝ていた。

 昨日のことは夢じゃなかったんだと知って。
 自分の乱れ方を思い出して、かあっと顔が熱くなる。 

 やばい。
 いくら――少しお酒入ってたからってあんな……。
 やばいよね……。

 だめ、ちょっとこの裸のままで、顔を合わせられる気がしない。
 うわー、恥ずかしすぎるよ、どうしよう……。
 
 バスローブが落ちていたので、それを身に着けて、そっとベッドを出た。
 昨日バスルームで脱いで、畳んでおいた服を身に着けて、身支度を整える。

 時間はまだ五時半。

 家に帰って、シャワーを浴びて、用意して。
 大丈夫、学校には間に合う。そう思ったら、少し落ち着いた。

 出る準備を終えて。ホテル代とか昨日の飲み代とかも含めて1万円札。足りる、よね? と考えつつ。とりあえずテーブルに置いて、そのテーブルにメモ帳と一緒に置いてあったボールペンをお札の上に重しにした。

 気づいて受け取ってくれるよね……。
 よし。もう出れる、かなと思いながら、静かに寝てるルイに視線を向ける。

 こういう時、行きずりの人達って、一緒にホテル……出ないよね??
 一瞬、そのまま出て行こうかと、思ったのだけれど。

 うーん、でも。
 彼の今日の都合も知らないし。
 私が起こさなかったせいで、仕事とか、遅刻になっても、困ると思って。

「あの――――……ルイ……?」

 ベッドに近づいて、小さな声で、呼んでみたら。 

「……ん?」
 彼が気が付いて、ゆっくり動いて、私を見た。

「あれ……おはよ――――……もう服着ちゃったの?」

 優しい声。
 朝イチから、甘いなぁ……。

 と。
 ……ときめいてる場合じゃない。

「今ね、五時半なの。私、帰って準備して仕事行くから、もう出るけど……ルイは、時間大丈夫?」
「五時半……? 早いね。……うん、大丈夫。ありがと」

 ルイは、くす、と笑って、そう言いながら、ゆっくりと体を起こした。

 王子様は、寝起きでも王子様だ。
 昨日も、思ったけど。本当に、キレイな、体。
 相当鍛えないと、こんな風にはならないと思う。
 王子様は努力もあって、出来上がってるんだろうなと、好ましく思ってしまう。

「あの……昨日、ありがとう」
「……うん?」

「一人で帰ったら、絶対泣いてたから」
「――――」

「多分、私、今日も、明日も、そんなに泣かないで居られると思う」

 そう言ったら、彼は、ふ、と優しく笑って頷いた。

「初めて会った人となんて、多分、最初で最後だと思うけど……」
「――――」

「ほんとに、ありがとう」

 少し、躊躇ったけど。
 でも、あれだけ乱れたんだから、今更だよね。……そう思って。

 感謝の意味を込めて。
 彼の頬に、ちゅ、とキスした。

「――――」

 昨日あんなに、色んな事してきたくせに、彼は少し驚いたような顔をして。
 それから、照れたように笑う。

 また、ちょっと可愛い。胸が、きゅん、と揺れてしまう。

 ――――昨夜抱いてくれている時は、あんなに大人びて見えたのに。
 
 さすが王子様だなあ。大人っぽさも可愛さも持ち合わせてるとか。

「そういえば……ルイって、どんな漢字? それだけ教えて?」
「ああ……気になる?」
「うん。なんかずっと、気になりそうだから」

 ふふ、と笑って答えると。

「左が王で、右が、流れるの右側」
「王で……流れるの右……」
「琉球王国の琉と、生きる、で琉生だよ」
「……あ、分かった」

 「琉生」
 漢字で考えると、王子様の名前ではないかも。

「漢字、素敵」
 そう言ったら、琉生は、何だかすごく面白そうな顔で私を見た。

「ん?」
 思わず首を傾げると、少しだけ首を振って、私を見上げる。

「ありがと」
 また優しく笑った。

「じゃ行くね。……ありがとう、王子様」

 最後、少し、冗談ぽく言って。離れた。

「まだ言ってる……琉生、だよ」

 琉生は、クスクス笑いながら、ベッドの上で、小さく手を振った。
 自然と、私も、ふふ、と笑って。

 バイバイ、と手を振って、部屋を出た。

 ホテルの廊下を、エレベーターに向かって歩きながら。
 何だか私――――……昨日、婚約解消されて、振られたのに。

 不思議な位、心が軽やか。

 一晩限りなんて、初めてだったけど。
 琉生が相手で、良かった。

 あんなに気持ち良かったの、初めて。

 ――春樹とは、あんなに乱れたことはなかった。

 良かったのかも。
 私、彼しか知らなかったから、そういうものだと思ってた。

 付き合うってことも、体を重ねるってことも、全部、そういうものだと思ってたけど……違うんだって、知った。

 彼だけに固執するのも、違うんだって、思えた。

 どうして、とか。
 何で、とか。
 心変わりを責めたって、どうしようもないし。

 もう、そういうものだったんだ。

 彼にとって、私が一番ではなかった。
 それだけの事で……しょうがないんだ。

 週末、婚約者を連れて帰るって言ってる実家の方、どうしよう。とか。
 今日から、学校で、彼や、池田先生と会う時、どうしよう、やだなー……とか。ああ、千里にも説明しないと、とか。

 そういう風に思う、細かいことは、色々あるけど。

 一番大事な、「心」とか「気持ち」の部分は。
 結構、大丈夫な、気がする。


 ほんとに、ありがと、王子様。

 何だか晴れやかな気持ちで。
 まだ人のまばらな電車に、乗り込んだ。


しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

後宮の棘

香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。 ☆完結しました☆ スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。 第13回ファンタジー大賞特別賞受賞! ありがとうございました!!

【完結】巫女見習いの私、悪魔に溺愛されたら何故か聖女になってしまいました。

五城楼スケ(デコスケ)
ファンタジー
※本編、番外編共に完結しました。 孤児院で育ったサラは、巫女見習いとして司祭不在の神殿と孤児院を一人で切り盛りしていた。 そんな孤児院の経営は厳しく、このままでは冬を越せないと考えたサラは王都にある神殿本部へ孤児院の援助を頼みに行く。 しかし神殿本部の司教に無碍無く援助を断られ、困り果てていたサラの前に、黒い髪の美しい悪魔が現れて──? 巫女見習いでありながら悪魔に協力する事になったサラが、それをきっかけに聖女になって幸せになる勘違い系恋愛ファンタジーです。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

働かなくていいなんて最高!貴族夫人の自由気ままな生活

ゆる
恋愛
前世では、仕事に追われる日々を送り、恋愛とは無縁のまま亡くなった私。 「今度こそ、のんびり優雅に暮らしたい!」 そう願って転生した先は、なんと貴族令嬢! そして迎えた結婚式――そこで前世の記憶が蘇る。 「ちょっと待って、前世で恋人もできなかった私が結婚!?!??」 しかも相手は名門貴族の旦那様。 「君は何もしなくていい。すべて自由に過ごせばいい」と言われ、夢の“働かなくていい貴族夫人ライフ”を満喫するつもりだったのに――。 ◆メイドの待遇改善を提案したら、旦那様が即採用! ◆夫の仕事を手伝ったら、持ち前の簿記と珠算スキルで屋敷の経理が超効率化! ◆商人たちに簿記を教えていたら、商業界で話題になりギルドの顧問に!? 「あれ? なんで私、働いてるの!?!??」 そんな中、旦那様から突然の告白―― 「実は、君を妻にしたのは政略結婚のためではない。ずっと、君を想い続けていた」 えっ、旦那様、まさかの溺愛系でした!? 「自由を与えることでそばにいてもらう」つもりだった旦那様と、 「働かない貴族夫人」になりたかったはずの私。 お互いの本当の気持ちに気づいたとき、 気づけば 最強夫婦 になっていました――! のんびり暮らすつもりが、商業界のキーパーソンになってしまった貴族夫人の、成長と溺愛の物語!

初恋の呪縛

泉南佳那
恋愛
久保朱利(くぼ あかり)27歳 アパレルメーカーのプランナー × 都築 匡(つづき きょう)27歳 デザイナー ふたりは同じ専門学校の出身。 現在も同じアパレルメーカーで働いている。 朱利と都築は男女を超えた親友同士。 回りだけでなく、本人たちもそう思っていた。 いや、思いこもうとしていた。 互いに本心を隠して。

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない

ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。 既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。 未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。 後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。 欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。 * 作り話です * そんなに長くしない予定です

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...