「王子と恋する物語」-婚約解消されて一夜限りと甘えた彼と、再会しました-✨奨励賞受賞✨

悠里

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第1章「最悪な夜の、夢みたいな」

7.心臓が。

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 バーから近い、普通のホテルにチェックインした。
 一緒に入った部屋は綺麗で、少し落ち着く。
 ラブホテルとかでなくて、なんとなく、良かった。逃げ出したくなってたかも、しれない。

 彼は、「シャワー浴びてくるから、お水飲んで、酔いを冷ましてて?」とペットボトルを渡してくれた。
 お水を飲んで、窓から外を眺めながら、ドキドキしながら部屋を振り返る。

 ――今この空間が不思議でならない。

 だって、さっき、春樹に振られて。 
 春樹と別れて、ほんの数時間。別の人とホテルに居る。

 これ、私を知ってる人、誰に話してもきっと、なかなか信じてもらえないだろうな。
 ていうか、自分でも信じられない。嘘みたいなこと、してる。

 良いとか悪いとかじゃなくて、こういうこと、したいと思っても、いつもなら、こんなことに飛び込めない。

 今、少し酔いが冷めて来て。
 シャワーの音が、現実のものとは、思えない位なんだけど。

 でも、帰ろうって気持ちに、全然ならない。
 それが不思議。

 ひたすらお水を飲んでみる、酔いを冷ましてしまいたい。

 酔ってるから、じゃなくて。 
 ――自分の意志で、が良い。

 バスローブ姿で出てきた彼は、髪を拭きながら、窓際の椅子に座ってた私を見て、ふ、と笑った。

「良かった」
「……?」

「帰りたくなってるかもと思って。急いで出て来た」

 自分の言葉に、クスクス笑う、彼は。
 スーツを脱いで、濡れた髪だと、大分若く見える。

 あれ、可愛いかも。
 なんて、思って、ふ、と気持が緩んだ。

「あの、私……こんな風なこと、初めてで……」
「うん」

「すごく戸惑ってるけど……帰りたくは、ない」
「――ん。よかった」

 にっこり笑ったルイに手を取られて、ゆっくり立ち上がると、頬に触れた手が首筋に降りた。すり、と触れられると。くすぐったい。

「シャワー、浴びて来て?」
「あ、うん」

 頷くと、ふ、と笑って。

「浴びなくてもいいけど。どうする?」
「……浴びる。絶対浴びてくる」

 絶対やだ。
 そう思って言うと、琉生はなんだかすごく優しく笑んだ。
 私は、その優しい手から離れた。

「待ってるね」
「――うん」

 微笑んでそう言われて、私も、わずかに笑顔で、頷いてしまった。
 バスルームで服を脱いで、少しでもと時間稼ぎをしながら、とても丁寧に、畳んでみる。
 
 バーの外に出て、風を浴びて歩いて、お水を飲んで。少し酔いは冷めた。
 それでもまだ、もやがかかったみたいに、ぼんやりはしている。

 落ち着いて見てみたら、王子様、ではなくて、
 王子様ぽい、すごいイケメンの男の人。

 もしかしたら、年下かなあ…。
 スーツ着て、髪形きめてた時は、大人っぽく見えたけど。

 髪が下りてると、何だか可愛い。
 話し方も、笑い方も、少し可愛いなと思ってしまう感じ。

 若く見えるだけかもしれないけど。

 ――――……はぁ。
 こんな事分析してるけど。
 内心。もう、うろたえまくりで。
 どうしよう。
 私、ほんとに春樹しか、知らないし。

 王子様みたいな人を喜ばせることなんて、絶対できないけど。
 いいのかな。

 すごい、ドキドキというか、ヒヤヒヤというか。
 とにかく、何だか、心臓がバクバクしてる。



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