「王子と恋する物語」-婚約解消されて一夜限りと甘えた彼と、再会しました-✨奨励賞受賞✨

悠里

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第1章「最悪な夜の、夢みたいな」

6.縋りたいって。

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 一晩、甘える? それって。それってもしかして、と思うと。
 何だか急に胸がドキドキする。

「……あなた、誰?」

 今更な質問だけど。
 でも、この人、何なんだろう、と思って、聞いてみた。

「ルイだよ」
「ルイ? ……やっぱり王子様なの?」

 そう言ったら、彼は何だか不思議そうな顔をしてから。口元を抑えて、笑った。

「ルイって、王子様の名前なんだっけ? でもいいや、王子様でも」

 クスクス笑いながらそう言って、ふ、と私を見つめる。

「――オレと二人になるの、怖い?」

 何でだか、不思議と、怖くは、ない。
 首を小さく横に振ると、彼の手が、私の頬に優しく触れた。

「――」

 なんだか。
 ……めちゃくちゃ、ドキドキする。

 嫌でもなくて、振り解くこともできないし、ただ、目の前の優しい笑みを見つめていると。

「――キス、してみてもいい?」

 キス? ……キスって……。
 私と、王子様が??

 ――てことは、一晩甘えるっていうのも、やっぱり、そういう意味?

 私。会ったばかりの人と、そんな事した事ない。
 一晩甘えるとかないし。
 ていうか、春樹が初めて付き合った人で、春樹しか、知らない。

 春樹以外の人と、そんな事するの、今更ながらに、怖い、と思ってしまう。
 ……思って、しまうん、だけど。

「少しキスしてみても、良い?」
「…………」

 すり、と優しく頬をくすぐられる。ぞく、とした感覚。そんな風に、囁かれて。
 思わず。
 魔法にでもかかったみたいに。

「……うん」

 そう、言ってしまった。

 あれ。私。何、言ってるの。
 ……ここ、お店、だし。

「あ、やっぱり、だ――」

 だめ、と言おうとした唇に、彼の唇が、触れた。
 本当に、一瞬の、優しい、触れるだけのキス。
 ちゅ、と重なった、何だか夢みたいな、一瞬だけのキスが、離れる。

 そしたら、彼は。
 すごく嬉しそうに笑って、私を、見つめた。

「――可愛いね」

 さっきまで頭に回ってたアルコールが、一気に全身に回ったみたいに。
 かあっと熱くなって。心臓がドキドキしすぎて。

「琉生、店ン中ではダメ」

 前に居たマスターが、苦笑いで言った。

「……マスター、この人、知ってる人、ですか?」

 思わず聞いてしまうと。
 マスターは、ふ、と笑って、頷いた。

「かれこれ六年位、知ってます」
「……王子様??」

「王子? ……ではないですけど」

 ぷ、と笑われて。

「まあ……怪しい、悪い奴ではないですよ」

 二年通った、マスターのお墨付の王子様。
 王子じゃないみたいだけど。でも王子様みたいな人。

「嫌なことはしないって約束するから。一緒に来てくれる?」
「ルイ、さんと?」

「ルイで良いよ」

 ただ、ルイを、見上げてしまう。
 ――何で、嫌だって、言わないんだろう私。

 さっきからドキドキして。胸が痛い。

「一緒に来て?」
「――――……」

 嫌って、言えない。
 私は、頷いて、しまった。

 ――キスが、びっくりする位、全然嫌じゃなかったから。 

 その後、なんでだかすごく嬉しそうになった笑顔が。
 ……素敵すぎたから。

「先輩、今度払うから。このまま出るね」
「……りょーかい」

 ルイの言葉に、マスターは、ふ、と笑んで頷いてる。

 ドキドキしすぎて。いつも無い位に酔ってるのもあるかもしれないけど、何だか夢みたいだなと感じながら、ルイの後について店を出る。支えられるみたいに、そっと肩に触れられてはいたけれど、お店を出た所で、その手を離された。

「オレのこと怖いなら、ここで離れるけど―― 怖い?」

 優しく聞かれる。

 怖い?
 身の危険を感じるとか、怪しいと訝しむとか。
 そう言う意味かなと思うけど。

 そういう意味では、全く、恐怖は感じない。 
 むしろ優しくて、あったかい。

「……怖くない」

 そう言ったら、彼はまた、すごく嬉しそうに微笑んだ。

 この人は、何でさっきから、こんな風に嬉しそうに笑うんだろ。
 ――そんな疑問が浮かぶほど、優しく笑う。

 私の手首に軽く触れて優しく掴み、ルイがゆっくり歩きだした。

 「怖くない」って。
 私は一体何を言ってるんだろうと、少し思う。だって、それを言ったら、きっと。

 ――初めて会った人と。きっと、そうなる。
 それは分かってる。

 いくら王子様みたいだからって。
 ほんとは、そんなこと、すべきじゃないし。

 ――もしかしたら、悪い人かもとか。
 普段の慎重な私が、遠くで、やめておいた方がいいって、言ってるのは分かってる。

 でも。今夜。
 ……一人になりたくなかった。

 今の私は、誰ともつきあってなくて。誰のものでもなくて。
 ――だから、何をしても自由。
 心の中で、自分に言い聞かせるみたいに、そう思っていた。

 春樹しか見ないで、ずっと信じてきてしまった。
 もっと、色んな人、見て、関わってくればよかった。そんな風にも、思ってる、かも。

 今、私は自由なんだから。
 出会ったばかりの人と――何をしたって。 自由。

 意地のような、投げやりなような。
 そんな気持ちも少しはあるかも。

 でも。何よりも。 

 すごく優しく私を支えてくれた、彼の手に。
 今も、つないでくれてる優しい手に。

 優しく、見つめてくれる瞳に。
 縋りたいって、思ってしまったのが、一番、かも。





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