上 下
8 / 105
第1章「最悪な夜の、夢みたいな」

5.一人で泣くか、甘えるか。

しおりを挟む


「泣いてるのかと思って、声かけるか迷ってたんだけど。良かった、今は泣いてなくて」

 ふ、と微笑んで私を見つめる。
 私は、その端正な顔を思わずマジマジと、観察。

 ――ほんとに、キレイ。
 肌も綺麗で。眉も形が良くて。瞳は近くで見つめると、何だか艶っぽくて。睫毛も長いなあ。
 何度見てもすべてのパーツが素敵すぎて、見事に整ってて。
 うん、王子様だな……。

「何があったのか、よかったら聞くけど……?」

 この王子様は、いつまで隣に居てくれるんだろう。なんて思いながら。
 なんだかすごく素直な気持ちになってしまう。

「……婚約してた人に、振られちゃって。ついさっき」

 そう言ったら、王子様は、少し驚いた顔をして。
 眉を顰めた。

「そうなんだ」
「うん。そう」
「……それは辛いね」

 優しい声で、そう言ってくれる。
 その声と言葉に、強張ってた気持ちが少し解けた。

「うん。……辛い」

 素直に口に出してそう言ったら、王子様は、私の背中に置いてる手で、ポンポン、と叩いた。よしよししてるみたいに。

「……もう少し聞いてくれる?」
「うん。いいよ」

 くす、と笑われて。でもその笑みが優しくて。
 いつもなら、こんな事、会ったばかりの人になんか、話す訳ないのに。

 やっぱり酔ってるかな、私……。
 でも知らない人だからこそ、話せるのかも……。
 
「今週実家に挨拶に行くって言っちゃってるし。彼の新しい相手、同じ職場の人だし。……明日からどうしようかなって感じなの」
「――――」

 王子様は、無言。
 それに気づいて、ふ、と我に返る。

「あ、ごめんね、こんな愚痴で……」

 そう言ったら、王子様は、少しだけ笑んで、首を振った。

「全然いいよ。咄嗟に何て言ったらいいのか考えてただけ。ごめんね」

 ……あ、ほんとに優しいなあ。
 

「……じゃあさ、今、誰とも付き合ってないんだよね?」
「うん。だって振られたばかりだし」

 苦笑しながらそう言ったら、彼は、じっと私を見つめた。

「一人で帰ったら泣いちゃうよね?」
「……まあ……泣くけど」

 そしたら、王子様、ふ、と微笑んだ。

「――選ばせてあげるよ」
「……何を?」

 王子様の顔がなんだか、キラキラしてる。

「このまま一人で帰って泣くか。……オレに、一晩甘えるか」
「……?」

「選んで?」

 手が、頬にかかって。する、と撫でられる。
 くすぐったい。優しい、触り方。

「考える迄も、無いでしょ?」

 この王子様は――何を言ってるんだろ?

 さっきから支えてくれてるこの手は、現実な気がするけど。
 現実だとしても、王子様が、言ってることが、良く分からない。


 綺麗な瞳が、私をまっすぐに見つめている。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

寡黙な彼は欲望を我慢している

山吹花月
恋愛
近頃態度がそっけない彼。 夜の触れ合いも淡白になった。 彼の態度の変化に浮気を疑うが、原因は真逆だったことを打ち明けられる。 「お前が可愛すぎて、抑えられないんだ」 すれ違い破局危機からの仲直りいちゃ甘らぶえっち。 ◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。

冷酷無比な国王陛下に愛されすぎっ! 絶倫すぎっ! ピンチかもしれませんっ!

仙崎ひとみ
恋愛
子爵家のひとり娘ソレイユは、三年前悪漢に襲われて以降、男性から劣情の目で見られないようにと、女らしいことを一切排除する生活を送ってきた。 18歳になったある日。デビュタントパーティに出るよう命じられる。 噂では、冷酷無悲な独裁王と称されるエルネスト国王が、結婚相手を探しているとか。 「はあ? 結婚相手? 冗談じゃない、お断り」 しかし両親に頼み込まれ、ソレイユはしぶしぶ出席する。 途中抜け出して城庭で休んでいると、酔った男に絡まれてしまった。 危機一髪のところを助けてくれたのが、何かと噂の国王エルネスト。 エルネストはソレイユを気に入り、なんとかベッドに引きずりこもうと企む。 そんなとき、三年前ソレイユを助けてくれた救世主に似た男性が現れる。 エルネストの弟、ジェレミーだ。 ジェレミーは思いやりがあり、とても優しくて、紳士の鏡みたいに高潔な男性。 心はジェレミーに引っ張られていくが、身体はエルネストが虎視眈々と狙っていて――――

婚約者の番

毛蟹葵葉
恋愛
私の婚約者は、獅子の獣人だ。 大切にされる日々を過ごして、私はある日1番恐れていた事が起こってしまった。 「彼を譲ってくれない?」 とうとう彼の番が現れてしまった。

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。

星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。 グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。 それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。 しかし。ある日。 シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。 聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。 ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。 ──……私は、ただの邪魔者だったの? 衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...