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第1章「最悪な夜の、夢みたいな」
5.一人で泣くか、甘えるか。
しおりを挟む「泣いてるのかと思って、声かけるか迷ってたんだけど。良かった、今は泣いてなくて」
ふ、と微笑んで私を見つめる。
私は、その端正な顔を思わずマジマジと、観察。
――ほんとに、キレイ。
肌も綺麗で。眉も形が良くて。瞳は近くで見つめると、何だか艶っぽくて。睫毛も長いなあ。
何度見てもすべてのパーツが素敵すぎて、見事に整ってて。
うん、王子様だな……。
「何があったのか、よかったら聞くけど……?」
この王子様は、いつまで隣に居てくれるんだろう。なんて思いながら。
なんだかすごく素直な気持ちになってしまう。
「……婚約してた人に、振られちゃって。ついさっき」
そう言ったら、王子様は、少し驚いた顔をして。
眉を顰めた。
「そうなんだ」
「うん。そう」
「……それは辛いね」
優しい声で、そう言ってくれる。
その声と言葉に、強張ってた気持ちが少し解けた。
「うん。……辛い」
素直に口に出してそう言ったら、王子様は、私の背中に置いてる手で、ポンポン、と叩いた。よしよししてるみたいに。
「……もう少し聞いてくれる?」
「うん。いいよ」
くす、と笑われて。でもその笑みが優しくて。
いつもなら、こんな事、会ったばかりの人になんか、話す訳ないのに。
やっぱり酔ってるかな、私……。
でも知らない人だからこそ、話せるのかも……。
「今週実家に挨拶に行くって言っちゃってるし。彼の新しい相手、同じ職場の人だし。……明日からどうしようかなって感じなの」
「――――」
王子様は、無言。
それに気づいて、ふ、と我に返る。
「あ、ごめんね、こんな愚痴で……」
そう言ったら、王子様は、少しだけ笑んで、首を振った。
「全然いいよ。咄嗟に何て言ったらいいのか考えてただけ。ごめんね」
……あ、ほんとに優しいなあ。
「……じゃあさ、今、誰とも付き合ってないんだよね?」
「うん。だって振られたばかりだし」
苦笑しながらそう言ったら、彼は、じっと私を見つめた。
「一人で帰ったら泣いちゃうよね?」
「……まあ……泣くけど」
そしたら、王子様、ふ、と微笑んだ。
「――選ばせてあげるよ」
「……何を?」
王子様の顔がなんだか、キラキラしてる。
「このまま一人で帰って泣くか。……オレに、一晩甘えるか」
「……?」
「選んで?」
手が、頬にかかって。する、と撫でられる。
くすぐったい。優しい、触り方。
「考える迄も、無いでしょ?」
この王子様は――何を言ってるんだろ?
さっきから支えてくれてるこの手は、現実な気がするけど。
現実だとしても、王子様が、言ってることが、良く分からない。
綺麗な瞳が、私をまっすぐに見つめている。
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