「王子と恋する物語」-婚約解消されて一夜限りと甘えた彼と、再会しました-✨奨励賞受賞✨

悠里

文字の大きさ
上 下
8 / 108
第1章「最悪な夜の、夢みたいな」

5.一人で泣くか、甘えるか。

しおりを挟む


「泣いてるのかと思って、声かけるか迷ってたんだけど。良かった、今は泣いてなくて」

 ふ、と微笑んで私を見つめる。
 私は、その端正な顔を思わずマジマジと、観察。

 ――ほんとに、キレイ。
 肌も綺麗で。眉も形が良くて。瞳は近くで見つめると、何だか艶っぽくて。睫毛も長いなあ。
 何度見てもすべてのパーツが素敵すぎて、見事に整ってて。
 うん、王子様だな……。

「何があったのか、よかったら聞くけど……?」

 この王子様は、いつまで隣に居てくれるんだろう。なんて思いながら。
 なんだかすごく素直な気持ちになってしまう。

「……婚約してた人に、振られちゃって。ついさっき」

 そう言ったら、王子様は、少し驚いた顔をして。
 眉を顰めた。

「そうなんだ」
「うん。そう」
「……それは辛いね」

 優しい声で、そう言ってくれる。
 その声と言葉に、強張ってた気持ちが少し解けた。

「うん。……辛い」

 素直に口に出してそう言ったら、王子様は、私の背中に置いてる手で、ポンポン、と叩いた。よしよししてるみたいに。

「……もう少し聞いてくれる?」
「うん。いいよ」

 くす、と笑われて。でもその笑みが優しくて。
 いつもなら、こんな事、会ったばかりの人になんか、話す訳ないのに。

 やっぱり酔ってるかな、私……。
 でも知らない人だからこそ、話せるのかも……。
 
「今週実家に挨拶に行くって言っちゃってるし。彼の新しい相手、同じ職場の人だし。……明日からどうしようかなって感じなの」
「――――」

 王子様は、無言。
 それに気づいて、ふ、と我に返る。

「あ、ごめんね、こんな愚痴で……」

 そう言ったら、王子様は、少しだけ笑んで、首を振った。

「全然いいよ。咄嗟に何て言ったらいいのか考えてただけ。ごめんね」

 ……あ、ほんとに優しいなあ。
 

「……じゃあさ、今、誰とも付き合ってないんだよね?」
「うん。だって振られたばかりだし」

 苦笑しながらそう言ったら、彼は、じっと私を見つめた。

「一人で帰ったら泣いちゃうよね?」
「……まあ……泣くけど」

 そしたら、王子様、ふ、と微笑んだ。

「――選ばせてあげるよ」
「……何を?」

 王子様の顔がなんだか、キラキラしてる。

「このまま一人で帰って泣くか。……オレに、一晩甘えるか」
「……?」

「選んで?」

 手が、頬にかかって。する、と撫でられる。
 くすぐったい。優しい、触り方。

「考える迄も、無いでしょ?」

 この王子様は――何を言ってるんだろ?

 さっきから支えてくれてるこの手は、現実な気がするけど。
 現実だとしても、王子様が、言ってることが、良く分からない。


 綺麗な瞳が、私をまっすぐに見つめている。




しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

オオカミ課長は、部下のウサギちゃんを溺愛したくてたまらない

若松だんご
恋愛
 ――俺には、将来を誓った相手がいるんです。  お昼休み。通りがかった一階ロビーで繰り広げられてた修羅場。あ~課長だあ~、大変だな~、女性の方、とっても美人だな~、ぐらいで通り過ぎようと思ってたのに。  ――この人です! この人と結婚を前提につき合ってるんです。  ほげええっ!?  ちょっ、ちょっと待ってください、課長!  あたしと課長って、ただの上司と部下ですよねっ!? いつから本人の了承もなく、そういう関係になったんですかっ!? あたし、おっそろしいオオカミ課長とそんな未来は予定しておりませんがっ!?  課長が、専務の令嬢とのおつき合いを断るネタにされてしまったあたし。それだけでも大変なのに、あたしの住むアパートの部屋が、上の住人の失態で水浸しになって引っ越しを余儀なくされて。  ――俺のところに来い。  オオカミ課長に、強引に同居させられた。  ――この方が、恋人らしいだろ。  うん。そうなんだけど。そうなんですけど。  気分は、オオカミの巣穴に連れ込まれたウサギ。  イケメンだけどおっかないオオカミ課長と、どんくさくって天然の部下ウサギ。  (仮)の恋人なのに、どうやらオオカミ課長は、ウサギをかまいたくてしかたないようで――???  すれ違いと勘違いと溺愛がすぎる二人の物語。

君色ロマンス~副社長の甘い恋の罠~

松本ユミ
恋愛
デザイン事務所で働く伊藤香澄は、ひょんなことから副社長の身の回りの世話をするように頼まれて……。 「君に好意を寄せているから付き合いたいってこと」 副社長の低く甘い声が私の鼓膜を震わせ、封じ込めたはずのあなたへの想いがあふれ出す。 真面目OLの恋の行方は?

Untangl~秘密の場所で逢いましょう~

猫田けだま
恋愛
17歳の夏の終わり。 家庭に居場所がなく、クラスでも浮いていた美緒と透吾は、偶然に使われていない弓道場を〝避難場所〟として共有することになる。 かたくなだった互いの心は、肩を寄せ合うことで少しずつやわらかに形を変えていくが……。 高校生編と社会人編の2部作です。 画像は、にじジャーニーさんで作成しています。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】私たち白い結婚だったので、離婚してください

楠結衣
恋愛
田舎の薬屋に生まれたエリサは、薬草が大好き。薬草を摘みに出掛けると、怪我をした一匹の子犬を助ける。子犬だと思っていたら、領主の息子の狼獣人ヒューゴだった。 ヒューゴとエリサは、一緒に薬草採取に出掛ける日々を送る。そんなある日、魔王復活の知らせが世界を駆け抜け、神託によりヒューゴが勇者に選ばれることに。 ヒューゴが出立の日、エリサは自身の恋心に気づいてヒューゴに告白したところ二人は即結婚することに……! 「エリサを泣かせるなんて、絶対許さない」 「エリサ、愛してる!」 ちょっぴり鈍感で薬草を愛するヒロインが、一途で愛が重たい変態風味な勇者に溺愛されるお話です。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

処理中です...