上 下
3 / 105
プロローグ

3.気になるけど。

しおりを挟む


 校舎についた所で、外用のサンダルから、校舎内用の上履きに履き替える。

 右に行けば、保健室。左に行けば、職員室と、春樹の居る社会科準備室もある。
 私の数学準備室は二階で、社会科準備室の真上。

「じゃあね、千里、また明日ね」
 私がそう言うと、千里は、私を見つめてくる。

「デートもいいけど、早く帰りなね? 新学期はただでさえ疲れるのに、新人の指導もあるんだからさ」
 そんな風に心配してくれる。

「そだね。もともとは今日は会うつもりなかったんだけど」
「春樹が会いたかったのか。まあ、ほどほどにね」
「うーん? もしかしたら週末の話かも。まだ全然決めてなかったから」
「そっか。――あ。噂をすれば」
 
 社会科準備室のドアが開いて、春樹が出てきた。

森本もりもと先生ー」

 千里が春樹の事をそう呼んだ。
 同期三人、普段は呼び捨てだけど。やっぱり学校で、人前で呼ぶ時は名字で「先生」付き。
 春樹は、こっちを見て、私達に気付く。でもその後すぐ後ろのドアが開いて、春樹は、出てきた人を振り返った。春樹がそのまま後ろを向いて話してるのは、社会科教師の、池田 沙織いけだ さおり先生。

「――池田先生。相変わらずミニスカートだね。新年度もあれでいくのかな」

 千里が苦笑いを浮かべながら、はあ、とため息をついてる。
 池田先生は、私達の一年遅れで入ってきた去年の新任の先生。
 池田先生は若くて、顔が可愛くて、華奢で、ぱっと見、すごく可愛らしい。のだけれど。

 先生としてはギリギリアウトかな、という服装とお化粧などなど……。先生だと思わないなら、普通に可愛いんだけど。
 対して、千里は綺麗なんだけど、サバサバしてて、「女子」って感じはしない。小学生からサッカーをしてて、女子チームでキャプテンだったって聞いて、なるほど、イメージピッタリ!って思った。裏表無くて、ズバズバ言うけど、元々が優しいから傷つかない。私にとっては居心地が良くて、大好きな友達なんだけど。

 タイプが正反対の千里には、池田先生のことが理解し難いらしくて、とにかく目につくらしい。別に、嫌ってるという激しいものじゃなくて、半分呆れてるというのかな。たまに教頭先生とかがやんわり注意しているのを聞くけど、あまり効果はないみたい。
 保健医と社会科教師はあんまり絡まないし、まだ池田先生も担任を持ってないので、直接絡むことは少ないみたいだけど。
 まあ私的には、池田先生は、去年大学を卒業したばかりのまだ「女子大生」気分が抜けない感じ。てとこ。
 「男の前だと声が違う」って、千里は言うけど。でもあれくらいの子は、まあ良く居るタイプな気がする。でもって、ああいう子って、男の人には好かれるんだよねー、という感想。
 春樹も、後輩の社会科教師として、可愛がってるみたいだし。……とか考えていると、春樹が池田先生と別れて、私たちのところに歩いてきた。

「お疲れ」
 私と千里の前に立って、そう言う春樹。

 身長は百七十センチ位。中肉中背。
 すごくイケメンでカッコイイ、という訳じゃないけど。バレンタインとかには、女子生徒たちから、チョコレートを貰ってたりする。優しいし、親切だし。清潔感もあって、同僚の先生達にも評判はいい。
 やっぱり、笑顔が優しいからかな、なんて思いながら、春樹を見ていると。

「ねえ、春樹、服装、少しは注意しなよ」
「え?」
 千里が春樹にそう言い出した。春樹は首を傾げてる。

「服装って?」
「池田先生の。年頃の男子生徒だって居るんだからさ、ミニとかはやめさせたら? 春樹の指導担当なんだから、ちょっとは注意した方がいいよ?」
「ああ……そう、だね。今度言っとくよ」

 千里の言葉に、春樹は苦笑いしてる。
 ――言わないだろうな。女の子に、そんな注意とかは出来なそう。

「ま、いいや。今日はデートなんでしょ?」
「ん? ああ……」
 千里の言葉に、春樹が頷いた。

「私ももうちょっと片づけたら帰る。また明日ね、二人共。楽しんできてね」

 千里がそう言って、バイバイ、と手を振りながら保健室の方へ歩いて行く。
 二人で見送って、それから私は春樹を見上げた。

「春樹、もう帰れる?」
「ん。もう大体終わったから十分位で出れる」
「じゃあ、私も職員室を片付けて出てくるね。昇降口でね」
「ああ」

 先に社会科準備室につくので、ドアを開けながら春樹が頷く。
 閉める瞬間、池田先生の声が聞こえて。そのまま、ドアが閉まる。

 千里みたいに、どうしてもその存在が理解しがたいという程ではないのだけれど。
 自分の婚約者と、かなり密接に一緒に動く指導担当の子が、ああいうタイプっていうのは。
 やっぱり少し、気になると言うか……。

 ――ん。でもな。
 気にしてもしょうがないし。

 これからデートだし。
 気にしない気にしない。
 私は気持ちを切り替えて、職員室へと急いだ。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

妻のち愛人。

ひろか
恋愛
五つ下のエンリは、幼馴染から夫になった。 「ねーねー、ロナぁー」 甘えん坊なエンリは子供の頃から私の後をついてまわり、結婚してからも後をついてまわり、無いはずの尻尾をブンブン振るワンコのような夫。 そんな結婚生活が四ヶ月たった私の誕生日、目の前に突きつけられたのは離縁書だった。

【完結】やさしい嘘のその先に

鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。 妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。 ※30,000字程度で完結します。 (執筆期間:2022/05/03〜05/24) ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ 2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます! ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ --------------------- ○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。  (作品シェア以外での無断転載など固くお断りします) ○雪さま (Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21 (pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274 ---------------------

寡黙な彼は欲望を我慢している

山吹花月
恋愛
近頃態度がそっけない彼。 夜の触れ合いも淡白になった。 彼の態度の変化に浮気を疑うが、原因は真逆だったことを打ち明けられる。 「お前が可愛すぎて、抑えられないんだ」 すれ違い破局危機からの仲直りいちゃ甘らぶえっち。 ◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。

処理中です...