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プロローグ
3.気になるけど。
しおりを挟む校舎についた所で、外用のサンダルから、校舎内用の上履きに履き替える。
右に行けば、保健室。左に行けば、職員室と、春樹の居る社会科準備室もある。
私の数学準備室は二階で、社会科準備室の真上。
「じゃあね、千里、また明日ね」
私がそう言うと、千里は、私を見つめてくる。
「デートもいいけど、早く帰りなね? 新学期はただでさえ疲れるのに、新人の指導もあるんだからさ」
そんな風に心配してくれる。
「そだね。もともとは今日は会うつもりなかったんだけど」
「春樹が会いたかったのか。まあ、ほどほどにね」
「うーん? もしかしたら週末の話かも。まだ全然決めてなかったから」
「そっか。――あ。噂をすれば」
社会科準備室のドアが開いて、春樹が出てきた。
「森本先生ー」
千里が春樹の事をそう呼んだ。
同期三人、普段は呼び捨てだけど。やっぱり学校で、人前で呼ぶ時は名字で「先生」付き。
春樹は、こっちを見て、私達に気付く。でもその後すぐ後ろのドアが開いて、春樹は、出てきた人を振り返った。春樹がそのまま後ろを向いて話してるのは、社会科教師の、池田 沙織先生。
「――池田先生。相変わらずミニスカートだね。新年度もあれでいくのかな」
千里が苦笑いを浮かべながら、はあ、とため息をついてる。
池田先生は、私達の一年遅れで入ってきた去年の新任の先生。
池田先生は若くて、顔が可愛くて、華奢で、ぱっと見、すごく可愛らしい。のだけれど。
先生としてはギリギリアウトかな、という服装とお化粧などなど……。先生だと思わないなら、普通に可愛いんだけど。
対して、千里は綺麗なんだけど、サバサバしてて、「女子」って感じはしない。小学生からサッカーをしてて、女子チームでキャプテンだったって聞いて、なるほど、イメージピッタリ!って思った。裏表無くて、ズバズバ言うけど、元々が優しいから傷つかない。私にとっては居心地が良くて、大好きな友達なんだけど。
タイプが正反対の千里には、池田先生のことが理解し難いらしくて、とにかく目につくらしい。別に、嫌ってるという激しいものじゃなくて、半分呆れてるというのかな。たまに教頭先生とかがやんわり注意しているのを聞くけど、あまり効果はないみたい。
保健医と社会科教師はあんまり絡まないし、まだ池田先生も担任を持ってないので、直接絡むことは少ないみたいだけど。
まあ私的には、池田先生は、去年大学を卒業したばかりのまだ「女子大生」気分が抜けない感じ。てとこ。
「男の前だと声が違う」って、千里は言うけど。でもあれくらいの子は、まあ良く居るタイプな気がする。でもって、ああいう子って、男の人には好かれるんだよねー、という感想。
春樹も、後輩の社会科教師として、可愛がってるみたいだし。……とか考えていると、春樹が池田先生と別れて、私たちのところに歩いてきた。
「お疲れ」
私と千里の前に立って、そう言う春樹。
身長は百七十センチ位。中肉中背。
すごくイケメンでカッコイイ、という訳じゃないけど。バレンタインとかには、女子生徒たちから、チョコレートを貰ってたりする。優しいし、親切だし。清潔感もあって、同僚の先生達にも評判はいい。
やっぱり、笑顔が優しいからかな、なんて思いながら、春樹を見ていると。
「ねえ、春樹、服装、少しは注意しなよ」
「え?」
千里が春樹にそう言い出した。春樹は首を傾げてる。
「服装って?」
「池田先生の。年頃の男子生徒だって居るんだからさ、ミニとかはやめさせたら? 春樹の指導担当なんだから、ちょっとは注意した方がいいよ?」
「ああ……そう、だね。今度言っとくよ」
千里の言葉に、春樹は苦笑いしてる。
――言わないだろうな。女の子に、そんな注意とかは出来なそう。
「ま、いいや。今日はデートなんでしょ?」
「ん? ああ……」
千里の言葉に、春樹が頷いた。
「私ももうちょっと片づけたら帰る。また明日ね、二人共。楽しんできてね」
千里がそう言って、バイバイ、と手を振りながら保健室の方へ歩いて行く。
二人で見送って、それから私は春樹を見上げた。
「春樹、もう帰れる?」
「ん。もう大体終わったから十分位で出れる」
「じゃあ、私も職員室を片付けて出てくるね。昇降口でね」
「ああ」
先に社会科準備室につくので、ドアを開けながら春樹が頷く。
閉める瞬間、池田先生の声が聞こえて。そのまま、ドアが閉まる。
千里みたいに、どうしてもその存在が理解しがたいという程ではないのだけれど。
自分の婚約者と、かなり密接に一緒に動く指導担当の子が、ああいうタイプっていうのは。
やっぱり少し、気になると言うか……。
――ん。でもな。
気にしてもしょうがないし。
これからデートだし。
気にしない気にしない。
私は気持ちを切り替えて、職員室へと急いだ。
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