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6.しょせんα
しおりを挟む「詩、おかえりなさーい」
「ただいまー」
キッチンから声を掛けてくる母さんに応えて、兄さんが座ってるソファに腰かける。
「どうだった? 実行委員会の説明会」
「んー……まあまあ、だった。面白そうだったよ」
「変なα、いなかった? 迫られなかった?」
そう言われて、んー、と考えながら、手渡されたアイスをひと口。
「おいし……」
自然と顔が綻ぶと、兄さんまで、なんだか笑う。
「……んー、迫られてないよ。多分見た目からだと、委員長さんとかはαだと思う――でもなんか、色んなスポーツサークルとかみたいな感じじゃなかったよ。皆、真面目そうだった」
「そっか。じゃあ、やるの?」
「――んー。まあ……やろうかなぁ……他にサークル、入れなそうだし」
兄さんは、コーヒーをひと口飲んでから、僕を見つめた。
「別に、そういう活動をやらなきゃいけないって訳じゃないよな?」
「――まあそうなんだけど……」
「危ないことありそうなら、やめた方がいいかもしれないしね」
「……うん、まあ……そうなんだけどね」
アイスを食べながら、ふ、と今日会った貴大のことを思いだした。
「αのことが嫌いっていう、αに会ったよ」
「ん?」
「……僕がαを嫌いなの知っててたみたいでね――オレも嫌いって言ってた。βが良かった、みたいな……。少し話したけど、なんか、見た目もαっぽくない感じで……」
「ふうん……? ――変な奴、だな」
「あ、そう思う? 変わってるよね……」
「……詩、α、嫌いだもんな」
「――ん」
頷くと、兄さんがふーと息をついた。
「オレ、多分自分がαだろうって言われてたからさ。詩が嫌いなら、αじゃなくてβがいいって思ってたから」
「――」
「αって診断された時、ショックだったんだよな」
「……え、そうなの……??」
「そしたら詩、αでもお兄ちゃんだから好きだよって言ってくれてさぁ。死ぬほど可愛かったけど」
「――はは」
そうだっけ。えーと……兄さんが判定されたのは早くて、十二歳くらいだったから……僕九歳くらいかな? 知らなかった、そんなショック受けてたのか……。
「そんなの初めて聞いたよね? 何で急に?」
「――ん。なんか今のβが良かった、っていうセリフ聞いたら、思い出した」
「なるほど……」
そっかあ、と考えて、首を傾げる。
「別にさ、αだから嫌いな訳じゃないんだよ。兄さんと父さんは好きだし。ただ、αに好きな人が居なかったっていうだけ、かも……??」
言いながら、じゃあやっぱり家族以外のαは嫌いってことなのかな、と思っていると、兄さんも苦笑して、僕の頭を撫でた。
「まあ、無理すんなって。別にΩだからって、αと結ばれなきゃってこともないんだしさ」
「うん。そだよね」
頷いて、紅茶を飲みながら、んん、と考える。
「もし、今日会ったαが、ほんとにαが嫌いなら、オレ、仲良くなれるかな」
「どうだろうな……。でも、いくらαが嫌いでも、αはαだからな。あんまり仲良くしすぎると、変な事故になっても困るだろ」
「――うん。そう、だね」
確かに。αはα、か。
――――ほんと厄介。
突然ヒートが始まったり、フェロモンが漏れ始めたりしたら、自分の意志でどうにもできないし。
事故で番なんて、絶対やだもんな。
――ていうか、心配症な兄さんのもと、α嫌いなのもあって、この年まで恋のかけらもしたことがないのはどうなんだろうとは思う。
思うけどまあ……。
いつかは、大好きな人ができると信じているのだけど。
いつ会えるのかなぁ。
むー、と膨れながらアイスを食べていると。
ばしゃ、とシャッター音。
ん? と振り返ると、兄さんが「むくれてアイス食べてる詩が可愛い」とクスクス笑ってる。
「その写真、どこにも出さないでね……」
「出すわけないだろ」
……結構長く付き合ってる彼女さんが居なかったら、本当、心配になるくらいなんだけど。
良かった、兄さん、彼女居て。苦笑しつつ。
「しょせんは、α」かぁ……。
なんか今までずーっと、そう思ってきたっけ。
αだけじゃなくて、Ωも好きじゃないけど。
フェロモンごときに左右されて、薬を飲まないとヒートすらどうにもできない性質もスキじゃない。
はぁぁ。
ベータに変性できますように……。
「いいね、詩。憂い顔、可愛い」
「――……」
……僕のせいでショックだったっていうのは初めて聞いたけど
でも、いいなあ、兄さんは、αであることになんの迷いもなくて楽しそうで。
なんでなのか、その日は寝る前まで、
貴大のことを――そのセリフを、何回か、思い出してた。
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ずっと慧と颯を応援してますがこちらもタイトルが気になって追いかけ始めました🫶(あちらはずっと3位で嬉しい〜👏)
タイトル変えるかもと書かれてたのですが…趣きがあって好きです(*^^*)
どうしても、(←この句読点もいい味が💕)君と恋がしたかった
→だから、僕はあの時勇気を出してよかった
→たとえ、運命が僕たちを引き裂いたとしても
→なぜって、嘘をついてでも君を手に入れたかったから
→だって、君と初めて出会った時から僕の世界は変わったんだ
と次に来るだろう“彼”の思いを様々に想像してしまう、そしてきっと切ないお話しになるだろうと予想させる素敵な題名だなぁと思ったのでした(*´꒳`*)(全部的外れだったらごめんなさい💦)
不思議と悲恋を思わせるタイトルなのでタグを見直して来ましたが“切ない”もありましたが“ハッピーエンド”もあったので安心しつつドキドキしながら追いかけます😊
momoさま♡
颯と慧も、こちらも、ありがとうございますヾ(*´∀`*)ノ
このタイトル、見慣れてきて、ちょっと意味もいろいろあるので、このままにしようと思います🩷
わー、意味、近い感じですね♡ どれが、とはいわないでおきます~ヾ(*´∀`*)ノ🩷
途中ちょっと切ないけど、ハッピーエンドにします( *ˊᵕˋ )✨ 楽しんで頂けますように。
あっそれから、ブログの方にもありがとうございました~!!
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頑張りますヾ(*´∀`*)ノ✨