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5.家族たち

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 電車を下りて徒歩五分。自宅のマンションに帰る。

「ただいまー」

 家に入るとすぐ、チョーカーを外す。触るのが癖にはなっているけど、別につけたくてつけている訳じゃない。強制的な番を防ぐためだけ。

「おかえり、詩!」

 兄さんのひびきに出迎えられて、むぎゅ、と抱き締められる。

「帰ってたんだね、兄さん……抱き付かなくていいから……」
「今日も無事で良かった」
「無事だってば」

 苦笑してしまう。
 大学四年生の兄は、いつもこんな感じ。外では、全然違うんだけど。

 αの父と、Ωの母から生まれた、兄はαで、僕はΩ。
 ――αは皆嫌いだけど、父と兄は別。二人は、αというよりは、ただの心配性な父と兄だから。まあ多分、他の人にとっても、父と兄は、優しい方のαだとは思うけれど。

 αだけど愛人とかは持たず、母を大事にしてる、というか、母が居ないと多分あの人はだめだなーと思うくらい、母のことが好きらしい。兄は、外では、超イケメンで全部カッコよくて、クールで、素敵、とか言われてる。サラサラの黒髪、深い色の黒い瞳。見つめられるだけで、息が止まるとか、伝説の大人気生徒会長だったらしく、後輩として入った高校では、さんざん話を聞いたけど。

「嫌なことなかったか? あ、ココア飲む?」
「……飲む」
「アイス食べる? 詩が好きそうなの買ってきたよ」
「……うん。ありがと」
「アイス食べるなら紅茶の方がいい?」
「あ、うん……」

 頷くと、むぎゅーと抱き締められる。

「用意しとくから、手あらっといで」
「……うん」

 ――ただの過保護すぎる、ブラコンだと、思う……。普通なら、兄が優秀すぎると嫉妬とかさ。ちょっと歪んで弟が育つとか。そんなお話とか、見たことある気がするけど、ちょっと僕は、それは当てはまらない。

 よく分かんないけど、兄さんは僕のことが可愛くてしょうがないらしい。……というか、家族皆。
 なんか、小さい頃から、可愛がられまくって育ち、自己肯定感だけはめちゃくちゃ高いのだ。

 もうなんか見た目でΩだろうと判断されて、パーティーに連れ出されてはいたけれど、確実にΩだと分かってからは、もっと過保護に大事に可愛がられて育ってきた気がする。

 それでも――それですらも、Ωっていうものが好きじゃなくて、Ωの自分が好きじゃなくて。
 番なんて絶対嫌だとか。……何でだろ、とは思うんだけど。

 父母兄は、皆好きだけど。αとΩ。僕も、Ω。
 ――複雑……。βの一家が良かったなぁ。


 父と母は、自分たちが番で幸せだから、僕にも、幸せになってもらいたかったんだと思う。
 ……できたら、運命の番と、出会えたらって、思ってるらしい。まあ二人は運命の番ではないみたいだけど。
 まあ分からなくはないよ。二人は、幸せなんだろうから。だから、

 でもさ……。
 何でアルファって、皆あんな、なんだろう。

 知り合ってすぐは、偉そうに話さない人はたまには居るのだけど。あ、この人は、少しマシかな、なんて思って、たくさん話してると――言葉の端に現れるんだよね。αが至上っていう気持ちと、Ωを自分のものにして「やる」っていう、上から目線。してやる。

 ――こっちにも選ぶ権利、あるってことは、端から全然分かってない。

 父さんと兄さんみたいなのは、珍しいと思う。まず父さんが珍しいから、それに育てられた兄さんも、珍しいのかな。

 手を洗って、タオルで拭きながら、鏡を見る。

 ――顔が……もうちょっと不細工だったら、あんなに迫られなかったと思うし。そしたらここまで嫌いになってなかったかもな……。と、人には聞かせられないようなことを、真剣に思ってしまう。
 自惚れ発言すぎて、嫌われそうだけど……。でもなあ……。

 ……なんか僕は、すごくいい匂いがするらしい。自分では分かんないし、普段は薬で押さえているけど。それでも、ふとした時に、αは察知するらしい。αのフェロモンに、左右されて漏れる時もあるらしくて、ものすごく厄介な体だ。母さんが、すごくモテるΩだったらしく……ばっちり、血を引いてしまったのか。迷惑な話……。

 だから兄さんとか、いつもすごく心配してて。
 チョーカーはめちゃくちゃ高くて、絶対外されない暗証番号付き。あれが無かったら、外に出してもらえないんじゃないかと思う……。



 うー。
 βがよかった。

 また思う。


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