どうしても、君と恋がしたかった

悠里

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4.αなのにな。

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「これで説明会を終わります。興味があったら、また来週、ここで集まるので、その時、用紙についてる入会届を出してください」

 そんな説明がされて、説明会が終わった。資料を片付けた人から、部屋を出ていく。
 僕も、資料を鞄に入れて、ボールペンを筆箱に片付けた。

「詩は――どうする?」

 少し遠慮がちに呼ばれた、詩という名前。
 やっぱり、αっぽくないな、と思いながら「貴大は、入る?」と聞き返した。

「どうしようかな。楽しそうだとは思ったけど」
「そうだね」
 帰る支度を終えて、立ち上がると、何となく一緒に教室を出た。階段を下りながら、僕は、貴大に視線を向ける。

 背はすごく高いな。見上げる感じ。茶髪はセットはしてない、無造作な感じの前髪が少し目にかかってて、少し暗めの印象。αにしたら、めちゃくちゃ控えめ。服装もラフな感じだし。肩幅とか体格は良い気がするけど、サイズが緩いのをわざと着てる、ような。
 眼鏡も地味な感じ。ていうか、眼鏡のせいで、余計に大人しく見える。鼻筋とか唇は、綺麗な気がするけど。

 なんか、喋り方とか声も穏やかだし、あんまり目立ちたくないのかなって感じがする。

「僕は――とりあえず、入ってみようかなって思ってる。サークルとかは入らないから」
「そうなんだね。そっか……」

 一緒に階段を下りながら、のんびりした会話を交わす。

「――オレも入ってみようかな」

 静かな声でそう言うので、僕はふと、貴大を見上げた。

「貴大は、サークルとか、入らないの? テニスとかさ。人気なとこ」

 αの人達って、そういう人気サークルで、モテまくりな生活を送ってるイメージがあるけど。と思いながら、聞いてみると。

「そういうのは入らなくてもいいかなって思ってる。まあ別にテニス、そんな好きでもないし」

 クスクス笑ってそんな風に言う。

「詩は、もうこのまま駅まで行くの?」
「うん」
「じゃあ、一緒に帰ってもいい?」
「……うん。いいよ」
 ふ、と微笑まれて、そう返した。駅までくらいなら。いいかな、と思った。――α相手に、珍しいけど。

「……あのさ、ちょっと、聞いても、いい?」
「うん。いいよ?」
「貴大ってさ――αなのに、なんで、αが好きじゃないの?」

 気になっていたことを、ずばり聞いてみる。これはほんと――好奇心、だと思う。

 だって、αって、自分がαってことに優越感がある人が多い。世の中の人も、αはすごい人達だって認識だし。αの人が、αを好きじゃないなんて、初めて聞いたもん。

「――まあオレもαだからさ。知り合いにαは多いんだよね」
「うん」

 そうだろな。αって、αで固まるもんね。

「――ただαに生まれたってだけで、偉そうになるのは、違うかなって、思ってて」
「――――……」

 ついつい、貴大をマジマジと、見てしまう。

 ――こんな風に、思うαもいるんだ。
 何も返さず、じっと見つめていると、貴大が僕を見つめ返して、くすっと笑った。

「穴があきそうなんだけど……」
「あ。ごめん……って、あかないって」
 笑いながら反論すると。

「いや……そんなでっかい瞳でそんな見られると、ほんとあきそう」

 ふふ、と笑って、口元に手をあてる。
 そんな話をしていたら、駅まであっという間だった。
 乗る電車が違ったので、そこで、別れた。とくに連絡先も、交換もせず。


 ――変なα。


 αなのに、穏やかだし。
 αなのに、話しやすいし。



 変なの。


 まあでも――今までの経験上だと。
 ……所詮、α、だとは思うんだけど。




 ふと、首のチョーカーに、触れた。





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