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3.楽ちんなα
しおりを挟む説明会がある大きな教室に近づくと、入口のところで、実行委員の腕章をつけてる人に、「好きなとこに座っててください」と言われた。同じく腕章をつけた先輩達が教室の前の方で10人くらい、ウロウロしていて、多分一年が席に座ってる。三十人くらい、居るかな。知ってる顔はとりあえず見えなかったので、僕は、窓際の明るい席に腰かけた。まだ説明会の開始時間までは少しある。
春の風がふわふわと入ってきて、すごく心地いい。
夕日も綺麗だし、いいなあ。と、ぼんやりと、開始時間を待っていた。
「――ここ、座ってもいい?」
何だかやわらかい声が、聞こえた。ふ、と隣を見上げる。
黒髪さらさらした、爽やかな男。細めの眼鏡の奥で、その瞳が優しく笑った。
「――いい、けど」
……そこら中、空いてるけどなぁ、と思いながら、でも別に絶対だめって断るのもどうかなあと思って、頷いた。ナンパ目的のαだったら見た瞬間にお断りなんだけど、全然そんな感じじゃなくて。嫌な感じは全くしない。
教室に目を向けるとやっぱり席は空いてて、どう見ても知り合い同士で喋ってる人以外は、一人で座ってる人ばかりだけど、と思ってると、隣に座った人が、くす、と笑った。
――ん?
視線を向けると、口元を隠して、ごめんね、と。でも、なんか笑ってる。
「――君、αが嫌いなんでしょ?」
「え」
「有名だから……」
「……そんなに有名なの?」
「うん。まあ、そうだね」
確かにαは嫌いだって、ずーーっと言ってきてる。じゃないと迫られまくるから。予防線でもあるんだけど。
高校が別の、関係なさそうな人にまで伝わんなくてもいいんだけど、と思っていると。
「オレも、α、嫌いだからさ」
「――え」
ぱっと顔を見ると、なんだか優しい感じで、ふわ、と笑う。
「そうなの?」
「うん――あ、でも」
「?」
「オレは、αなんだけどね――ほんとは、βになりたかったんだ」
「――――」
言われた言葉を、何も返事をせずに、頭の中で繰り返す。
この人は、α。でも、αが嫌いで。でもって、βになりたかった……??
「……あの」
「ん?」
僕は、唐突に自分の中に浮かんだセリフを不思議に思いながらも、それを、口にしてみた。
「――良かったら、友達に、なる?」
気づいたら、そう言葉が出ていた。
そしたら――そのαはなんだかびっくりしたような顔で、僕を見つめた。
「――?」
そんなびっくりするようなことだったかな? 変だった……?
ちょっと焦る。
「僕はΩなんだけど――Ωも嫌いで……でもαはもっと嫌いで……僕もβになりたいって、思ってて」
「――」
「だから、なんか似てるなーって思って」
そう言ったら今度は、ちょっと首を傾げて、ふ、と微笑む。
「Ωも嫌いなのは知らなかった。そうなの?」
「……だって、α、嫌いなのに、ヒートとか……」
最後まで言わなかったけれど、あぁ、と納得してくれて、なるほど、と言ってくれる
……ほんとにαなのかな? と思うくらい、なんだか、優しい雰囲気。
見た目から言ったら、βっぽいけど……でも、とにかく、声はなんか、いいな。
優しくて。聞き心地が良い気がする。
「オレ、一之森 貴大。オレこそ、友達になってほしい。よろしくね」
「僕は目黒 詩。何て呼んだらいい?」
「貴大がいい」
「じゃあ……僕も詩がいい」
ふふ、と二人で見つめ合う。
なんだろ。この感覚。――一言でいうなら、楽ちん、この人。
ちょっと前まで知らなかった人と、急に友達になるとか。
しかもαとなんて。ちょっと僕的には、かなり珍しいのだけど。
でもなんかフィーリングっていうのかなあ?
この人は、楽に話せそうっていうの。
しかも、「αが嫌い」っていう、最大の共通点。しかも、αなのに。なんか面白い。
大体さ、世の人は、αを羨望のまなざしで見つめすぎなんだよね。
偉そうでも、「αだから」とかで済ませるの、やめてほしい。それどころか、αだからリーダーシップがあっていいとか、良い風にとるし。そうかぁ? 自分勝手な奴、めちゃくちゃ多いよー?? って、いっつも思ってた。
「じゃあ時間になったから説明会、始めます」
先輩が言って、資料が配られる。
目を通しながら――なんか、隣の存在が、ちょっと、不思議で、なんか、楽しかった。
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