1 / 6
1.βになりたい
しおりを挟む春。大学に入学したばかり。
何度目だろう、呼び出されるのは。
「――僕、αと付き合う気ないから」
αに告白された時の決まりの断り文句。中高大までのエスカレーター。
僕がαと付き合わないなんて、もう皆、知ってるはずなのに告ってくるのは、もはや、遊んでるんじゃないか思ってしまう。
「どうしても駄目?」
「うん。本当、無理。ごめんね」
じゃ、と踵を返して、中庭を離れる。
僕は首元のチョーカーに触れた。ちゃんとついてるのを確認するのが癖になってる。
かなり強固なチョーカー。そう簡単には外れない、特殊な材質で出来ている。
「詩、おかえりー」
教室に戻ると、βの親友、元木 始が声を掛けてくる。
「また告白? 知ってる奴?」
「知らない」
「そっか。大変だねぇ、モテるΩって……」
「……断るだけだし」
始は黒髪のショートヘア、少しハネてるよう自然な感じ。ちょっと眠そうに見える、優しい顔と、なんか緩い話し方が好き。しかも、βだし。ホッとする。
この世界には、男女の性の他に、α(アルファ)、Ω(オメガ)、β(ベータ)が存在する。思春期以降に、第二次性の検査を受けて、確定する。
βは、一般的な人。フェロモンには左右されない。能力的にも平均的なことが多い。
αは、リーダータイプ。支配階級に多くて、大体お金持ちで、容姿や能力に優れている。人口の数パーセント。フェロモンで、Ωを本能的に引きつける存在。
Ωは、フェロモンによってαを引き寄せる。ヒートという発情期があり、αに項を噛まれると、番となる。αよりも希少。見た目が綺麗だったり可愛い。男女ともに妊娠も出来る。
僕は、この三つの性のなかでΩ。最悪。
でも、Ωも好きじゃないけど……特に、αが、大嫌い。
僕は、上位のΩ。つまり、家柄が良い。優しい父母に可愛がられて、Ωとしてαに愛される素養を身につけさせようと、大事に育てられた。
幼い頃からパーティでたくさんのα候補たちと会わされた。子供の頃は、まだαΩβ診断は受けてなくて、未確定ではあったけど、家柄とか家族の性で、ある程度予想はつく。
運命の番に会えたらいい、会えなくても、良い花婿候補が居たら……と父母は思っていた。自分で言うのもなんだけど、僕は小さい頃から、顔が可愛かったらしくて、異様にパーティでモテモテだった。
たくさんのα候補と絡んだ。
でも、結果的に言うと、逆効果だった。
良い相手を見つけるどころか、高校生になる頃には診断も出て、めちゃくちゃαにモテるが、「αなんて皆大嫌い」というΩの僕が出来上がった。
α候補も含めて、とにかくαっぽい奴は皆、偉そう、自信家しか居ないし、絶対モテると思ってるし、人生勝ち組だと思ってる。他のβやΩを見下してる奴ばっか。
αだけで出来てる人気者グループとか、反吐が出るほど大嫌い。良い気になってる感すごい。マジで嫌。
それなのに、ヒートになると、αに引き付けられる。まあもちろん、抑制剤は飲むけれど!
わーん、どんな地獄だよ……!!
番なんかなりたくない。
その点。
βの人って、皆優しくて、イイ人が多い。
始もだし。昔パーティーで会ってたβの子も、優しかったなあ。
βには好いイメージしかないんだよね。
オレはもう突然変性でβになりたいと、本気でお祈りしながら過ごす日々。
337
お気に入りに追加
259
あなたにおすすめの小説

孕めないオメガでもいいですか?
月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから……
オメガバース作品です。

花いちもんめ
月夜野レオン
BL
樹は小さい頃から涼が好きだった。でも涼は、花いちもんめでは真っ先に指名される人気者で、自分は最後まで指名されない不人気者。
ある事件から対人恐怖症になってしまい、遠くから涼をそっと見つめるだけの日々。
大学生になりバイトを始めたカフェで夏樹はアルファの男にしつこく付きまとわれる。
涼がアメリカに婚約者と渡ると聞き、絶望しているところに男が大学にまで押しかけてくる。
「孕めないオメガでいいですか?」に続く、オメガバース第二弾です。

もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
ふしだらオメガ王子の嫁入り
金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか?
お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。

【完結】可愛いあの子は番にされて、もうオレの手は届かない
天田れおぽん
BL
劣性アルファであるオズワルドは、劣性オメガの幼馴染リアンを伴侶に娶りたいと考えていた。
ある日、仕えている王太子から名前も知らないオメガのうなじを噛んだと告白される。
運命の番と王太子の言う相手が落としていったという髪飾りに、オズワルドは見覚えがあった――――
※他サイトにも掲載中
★⌒*+*⌒★ ☆宣伝☆ ★⌒*+*⌒★
「婚約破棄された不遇令嬢ですが、イケオジ辺境伯と幸せになります!」
が、レジーナブックスさまより発売中です。
どうぞよろしくお願いいたします。m(_ _)m
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる