どうしても、君と恋がしたかった

悠里

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1.βになりたい

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 春。大学に入学したばかり。
 何度目だろう、呼び出されるのは。

「――僕、αと付き合う気ないから」

 αに告白された時の決まりの断り文句。中高大までのエスカレーター。
 僕がαと付き合わないなんて、もう皆、知ってるはずなのに告ってくるのは、もはや、遊んでるんじゃないか思ってしまう。

「どうしても駄目?」
「うん。本当、無理。ごめんね」

 じゃ、と踵を返して、中庭を離れる。
 僕は首元のチョーカーに触れた。ちゃんとついてるのを確認するのが癖になってる。
 かなり強固なチョーカー。そう簡単には外れない、特殊な材質で出来ている。

うた、おかえりー」
 教室に戻ると、βの親友、元木 始もとき はじめが声を掛けてくる。

「また告白? 知ってる奴?」
「知らない」
「そっか。大変だねぇ、モテるΩって……」
「……断るだけだし」

 始は黒髪のショートヘア、少しハネてるよう自然な感じ。ちょっと眠そうに見える、優しい顔と、なんか緩い話し方が好き。しかも、βだし。ホッとする。

 この世界には、男女の性の他に、α(アルファ)、Ω(オメガ)、β(ベータ)が存在する。思春期以降に、第二次性の検査を受けて、確定する。
 βは、一般的な人。フェロモンには左右されない。能力的にも平均的なことが多い。
 αは、リーダータイプ。支配階級に多くて、大体お金持ちで、容姿や能力に優れている。人口の数パーセント。フェロモンで、Ωを本能的に引きつける存在。
 Ωは、フェロモンによってαを引き寄せる。ヒートという発情期があり、αに項を噛まれると、番となる。αよりも希少。見た目が綺麗だったり可愛い。男女ともに妊娠も出来る。

 僕は、この三つの性のなかでΩ。最悪。
 でも、Ωも好きじゃないけど……特に、αが、大嫌い。

 僕は、上位のΩ。つまり、家柄が良い。優しい父母に可愛がられて、Ωとしてαに愛される素養を身につけさせようと、大事に育てられた。
 幼い頃からパーティでたくさんのα候補たちと会わされた。子供の頃は、まだαΩβ診断は受けてなくて、未確定ではあったけど、家柄とか家族の性で、ある程度予想はつく。

 運命の番に会えたらいい、会えなくても、良い花婿候補が居たら……と父母は思っていた。自分で言うのもなんだけど、僕は小さい頃から、顔が可愛かったらしくて、異様にパーティでモテモテだった。

 たくさんのα候補と絡んだ。
 でも、結果的に言うと、逆効果だった。

 良い相手を見つけるどころか、高校生になる頃には診断も出て、めちゃくちゃαにモテるが、「αなんて皆大嫌い」というΩの僕が出来上がった。

 α候補も含めて、とにかくαっぽい奴は皆、偉そう、自信家しか居ないし、絶対モテると思ってるし、人生勝ち組だと思ってる。他のβやΩを見下してる奴ばっか。

 αだけで出来てる人気者グループとか、反吐が出るほど大嫌い。良い気になってる感すごい。マジで嫌。

 それなのに、ヒートになると、αに引き付けられる。まあもちろん、抑制剤は飲むけれど!

 わーん、どんな地獄だよ……!! 
 番なんかなりたくない。


 その点。
 βの人って、皆優しくて、イイ人が多い。

 始もだし。昔パーティーで会ってたβの子も、優しかったなあ。
 βには好いイメージしかないんだよね。



 オレはもう突然変性でβになりたいと、本気でお祈りしながら過ごす日々。



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