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第7話

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「んー。……どーだった? 涼真とすんの」

 軽い口調でいうのが、信じられない。

「……っつ……翼のバカ!!!!」

 どうしていいのかわからず、バカな自分への自己嫌悪もあって、叫んでしまった。

「うるさいって、翔。……母さん、もうすぐ帰ってくるし、静かに話そうよ」

 そんな風に言われたって、落ち着いてなんて話せない。

「……っ涼真と、つきあって、るの?」
「付き合ってないよ。言ってただろ、涼真。好きな奴の名前をいつも呼んでるって」
「――っ意味、分かんないんだけど……!」

 もうすぐ、熱いものが、溢れ落ちそう。視界が滲む。
 オレの顔を見て、翼は、ふー、と息をついた。

「オレ、翔が最後まで許すとは思わなかった」
「――――っ……」

「すげえ喘いでたじゃん、翔」
「……っお前の体……だからだろ」
「ああ。まあそうかもね。オレの体、男にされんの気持ち良くなってるからね。中身変わっても、体の感覚は引き継ぐんだなあ。新発見だな」
「……翼!!」

「大丈夫だよ。全部は聞いてないから。本格的に始まってからは、電話も切ったし」
「……っ」

 そんなこと言いたいんじゃ、ない。
 聞きたいのは……。

 何が聞きたいのかも、分からない。

「――――良かったでしょ、涼真とすんの」
「……っ」

「翔、オレほんとのことだけ話すから。ちゃんと聞いてて」

 珍しく真面目な顔をする翼に、オレは唇を噛みしめた。

「オレは、涼真じゃなくて別の男が好きなの。で、涼真も、オレじゃない別の男が好きでさ」
「――――」

「オレ達は――――慰め合ってた訳」
「………………っ……」

「翔には分からないかも、だけど……。オレは、叶わない恋が辛くて、SNSで知り合った奴とホテルに行こうとしてたの。二か月位前。そこを涼真に見つかって、咎められて……」
「――――」

「……オレは、涼真が好きな奴のことも知ってたから。お互い、慰め合う?って誘った。オレも知らない奴とやんのはやっぱ腰がひけてたし、涼真がいいならって」

 そんなの。全部、全然何も、知らなかった。

「涼真は、ほんとは、辛かったろうけどね」
「――――つ……つばさだって……辛かったんじゃないの?」

 全然、気付かなかった。ずっと一緒にいたのに。
 ……双子の神秘なんて信じてなかったくせに、全部知ってるみたいな気でいて……。
 全然……。

 
「――――……っ」

 感極まって、大粒の涙がボタボタ溢れてきた。
 すると、翼が苦笑した。

「こんな時に、よくオレの心配とか、するよね……ほんと、翔は……」
「――――っ」
「兄貴だよなー、ほんと……」

 ……翼の体で、涼真に抱かれるとか、ほんと意味わかんないし。
 全然兄貴なんかじゃない。……ほんと、バカだ、オレは。
 
「オレはほら……知らない奴とヤるよりは、マシだったから。でも涼真は……どんなに似てても、結局本命とは違うからね。辛かったと思うけど」

 その言葉が指す意味。

「……涼真の……好きな、奴って……」
「もう、分かるだろ?」

 ……さっき。
 何度も……翔って、呼ばれた。
 それが、いまつながった気がする。

 でも、それをどう受け止めたらいいのか、分からない。

 だったら何で。オレから離れたんだよ。
 ――――だからオレは、女の子と、付き合ったり、して……。

「さっきさ、涼真にキスされたんでしょ?」
「…………」

 何でキスのことなんて……と思いながら、頷くと。
 翼は、はは、と笑った。

「オレと涼真はキスしてないんだよ。オレ達二人共、体はいーけど、キスはやめとこっていう、よく分かんない倫理感が合致してさ」
「――――」

 もうなんか……良く分かんない。
 オレ達は、さっき……すごく、キス、した。

「なあ、何で今日、キスしたの? 翔っぽいって思った?」
「――翼……?」

 誰に話してんの? そう思った瞬間。翼の手に、スマホがある事に気付いた。
 そして、それが、通話中な事も。翼がスピーカーにした瞬間。

「二人共、うちに来て」

 涼真の声が、した。

「分かった。今行くから待ってて」

 翼が、涼真にそう言って、スマホを切った。





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