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第3話「一度でもいい、なんて思ってしまった」
しおりを挟むインターホンを鳴らすと、少しして、涼真が出てきた。
と、こういう訳だから。
涼真が待っていたのは翼であって、オレのことじゃない、んだけど。
顔と体だけは翼なので、涼真は、オレを普通に迎え入れる。
「入れよ」
涼真が言う。オレは「お邪魔します」と中に入る。すると涼真がクスッと笑った。
「何それ。珍しい事言って。翔の真似?」
「――――」
……翼、お邪魔しますとか、言わないのか。一言目から怪しまれてる。
翔の真似?って。結構的を得てる。真似じゃなくて、中にオレが居るからな。……なんか、さすがだな、涼真。……鋭い。
「今日翔は? 家に居るのか?」
「居るよ」
「今日はデートじゃねえの?」
「そう、みたいだよ」
ていうかオレ、こないだまた、別れちゃったけど……。
――――オレの話なんか。翼と、するんだ。
少し、複雑な気分。
「翼、水飲む?」
「ううん。いらない」
ぁ。翼なら、「いらねー」かな。
思った瞬間。
「……何、翼。さっきから何で翔の真似してんの?」
じ、と見つめられる。
なんか。久しぶりに会ったけど。
すごい背が伸びて。体も、筋肉ついてるし。
イイ男に拍車がかかってる気がする。
「……まーいいや。部屋いこ」
涼真が言って、先に階段を上り始める。
「おばさんたちは?」
「……親父遅いし、母さんも夜勤。だから来てんだろ。お前今日、変だな」
……やめようもう、質問するのも。
言葉遣いは「じゃねー」とか「おう」とか。少し柄悪くを心がけよう。
部屋に入りかけて、思わず足を止める。
中学二年の夏。ここに、最後に泊った日を境に。
涼真は、オレから離れていった。
遊びに誘ってこないし、オレから誘っても、断られて。
あの日以来の、涼真の部屋。
……懐かしいな。
「どうした? ドア閉めて」
オレを振り返る涼真。オレは仕方なく、部屋に足を踏み入れてドアを閉めた。こんな風な形で、ここに入るなんて。
涼真は、窓をしめると、エアコンをつけた。
「窓あけといていいのに。風涼しいし」
そう言ったら、涼真は嫌そうにオレを見た。
「……お前の声、翔に聞こえたらどーすんだよ」
「……別にオ……翔に聞こえたっていいんじゃ……ねえの?」
やばい。オレっていうとこだった。
ねえの、は、途中で気づいて、翼っぽく言ってみた。
「は?……お前、ほんと、どーした? 良い訳ないだろ」
なんでイイわけないんだろ。でも、なんだかすごい圧を感じるので、オレは、涼真から少し離れて、スマホの入った鞄を涼真の机の上に置いた。
……きっと、電話の向こうで翼、呆れてるんだろうな。
早く帰って来いって、思ってるかもな……。
っていうか、マジで帰った方が良い気がする。ばれそう。
翼がばらすならいいけど。
オレが、実は翔ですとかばらしたら…… 避けられて離れてったままのオレが、翼の顔でここに居るとかばらしたら、きっと、涼真、すげえ混乱するだろうし。
……やっぱり、ばれない内に、帰ろう。
「涼真、オレ、今日頭が」
痛いから帰ると言おうとした瞬間、部屋の電気がぱちん、と消えた。
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