上 下
548 / 553
番外編

番外編【夏祭り】21 *奏斗

しおりを挟む


 空がだんだん暗くなって、花火が待ち遠しいなあ、なんて思っていたら、四ノ宮が、「あと三分だよ」と笑った。
「なんで笑うの?」
 そう聞くと、ふ、と瞳を細める。

「すごい楽しそうだから。わくわくしてるでしょ」
「――待ち遠しいなーって思ってた」
「うん。だろうね」

 クスクス笑う四ノ宮に、バレバレでちょっと恥ずかしいなと思うけど。
 向けられる視線が優しくて、なんだか嬉しい。

「花火、好きだよね、奏斗」
「大好き」
「……オレも、花火は好きなんだけど」
「人混み嫌い?」
「あたり」

 苦笑する四ノ宮に、ぽいなあ、と笑ってしまう。

「有料席とかあるけど、そこまでして見たいわけじゃなかったから」
「そっか。――今は?」
「今?」
「今の気持ちは? 人混みやだなあって思ってる?」

 くすくす笑ってしまいながら、四ノ宮を見上げてそう聞くと。

「奏斗しか見てないから、あんま関係ない」
「――うわ。はず……」

 そんな風に囁かれるとは思っていなくて、四ノ宮をまじまじと見つめてしまうと、四ノ宮はおかしそうに笑った。

「奏斗が楽しそうだから、オレも、すげー楽しい」
「――……」

 なんでこう……こんなにキラキラな笑顔で言うかな。
 なんて答えたらいいか、よく分かんないんだよね……。

「――照れるんですけど」
「っはは。慣れないねー奏斗」

 そんな風に言って笑ってから、四ノ宮は、「ていうか、オレも別に言い慣れてないよ」とにっこり笑う。

「言い慣れてるでしょ。ぽんぽんぽんぽん、出てくるじゃん」
「奏斗にしか言ってないもん。思うこと、そのまま言ってるだけだし」
「――――……」

 だから。それ、なんだけど。
 隣でニコニコ笑いながら、オレを照れさせてる四ノ宮は「あ」と空を見上げた。

「奏斗、空」
「うん」

 最初の花火が、夜空にオレンジ色の線を引きながらのぼっていく。暗い夜空をぱっと照らして、大きく弾けた。
 わっと、歓声が上がる。自然と笑顔になる。
 
「綺麗だね」
 四ノ宮の声に、うん、と頷く。次から次へと花火が続けて上がる。
 

「すっご。ここ、花火近いね」

 綺麗だなあ、と見上げていた時。四ノ宮の手が、ふ、と、オレの手に触れた。あ、と思ったけど。前の人は振り返らないし、後ろからは見えない感じだし。――何よりも。

 心臓が、とく、と弾む。
 繋いだまま、隣の四ノ宮を見上げると、四ノ宮は、なんだかすごく嬉しそうに、微笑む。なんかもう。好きだなあ、と、胸がきゅう、と締め付けられる。

 ――離せる訳、無いし。
 軽く触れる程度な四ノ宮の指を、そっと握り返すと。四ノ宮はちょっとびっくりした顔をしてオレを見つめた。
 ふ、と笑い返して、そのまままた夜空を見上げる。

「あ、ハート」
「ほんとだ」
「すごいねー可愛いな。どうやって作られてるんだろ、ハートとか……」
「あの顔もねー」
 にっこり笑顔の花火を見て、ねー、と顔を見合わせる。

 花火の光で、四ノ宮の顔が照らされて、すごく綺麗に見える。
 続けていくつもの花火が、夜空に散っていく。音がすごい。

 ――なんか。浴衣もだし。すごくドキドキ、するなぁ。繋いだ手を、きゅ、と握る。くい、と引くと、ん? と笑顔の四ノ宮が、耳を近づけてきた。
 まだ、花火、音すごいから。聞こえるかな、と思いながら、近づいて。

「好き。四ノ宮」

 こそ、と囁いたら。
 顔を不意にこっちに向けて、びっくりした顔で、オレを見つめた。


「聞こえた?」
 って、もう、その顔で、分かってるけど。
 四ノ宮は嬉しそうに笑ったけど、その後、なんだか、むぅと口をとがらせて。

「聞こえたけど。――あとでまた言って?」
「……あとで??」
「うん。あとで」
 ん、分かった。と頷いて、また花火を見つめる。

 こんな風に――四ノ宮と、手、繋いで花火見てるとか。
 不思議。……てか、幸せ。

 ふ、と笑顔になってしまう。

 
 花火が次々と散って、最後、一番大きな花火が咲き誇った。
 白い煙だけが夜空に残って、少しだけ余韻に浸っていると、花火が終わったことを知らせる音だけの花火が鳴った。
 皆が一斉に動き出したので、四ノ宮と繋いでいた手はほどいたけれど、人がすごいからか、四ノ宮の手がずっと背中に触れてる。人の流れに逆らわず、ゆっくり駅へと向かう。

 ――オレ、男だから、守ってほしいとかの気持ちはあまりない。
 ただ、四ノ宮がよく、オレに触れて、危なくない方に、とか。ドアを入る時とかも、エスコートするみたいに、支えてくれるみたいに触れる優しい手は、好きって、思う。


 あとで言ってって。
 好きって。
 ……まだシラフだと結構、恥ずかしいんだけどな。

 なんて思いながらも、ふ、と微笑んでしまう。










(2024/10/11)


花火デート、きゅんです…よね? (´∀`*)ウフ🎆

しおりを挟む
感想 327

あなたにおすすめの小説

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

泣くなといい聞かせて

mahiro
BL
付き合っている人と今日別れようと思っている。 それがきっとお前のためだと信じて。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

貢がせて、ハニー!

わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。 隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。 社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。 ※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8) ■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました! ■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。 ■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

どうせ全部、知ってるくせに。

楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】 親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。 飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。 ※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

【キスの意味なんて、知らない】

悠里
BL
大学生 同居中。 一緒に居ると穏やかで、幸せ。 友達だけど、何故か触れるだけのキスを何度もする。

処理中です...