上 下
543 / 551
番外編

番外編【夏祭り】16 *奏斗

しおりを挟む


 真剣な瞳。いつもほんわかしてる潤くんの瞳は、獲物を狙うみたいに、ちょっと凛々しくなってて。……というか、狙ってるのか。
 ふふ、と笑ってしまう。真剣なのが、可愛くて。

 今度は、金魚すくい。家で金魚を飼いたいらしくて、潤くんは、この上なく真剣な顔をしてる。オレは先にチャレンジして、一匹、小さくて可愛い金魚をゲットした。で、四ノ宮は潤くんに言われた、黒い出目金をちゃんとゲットしてる。
 潤くんは、どうしても、オレとおんなじ赤いちっちゃい金魚をいっぱい欲しいらしい。オレ達がやるのを、最後までずっと見てて、今が潤くんの番なんだけど。真剣すぎて、まだ、すくう網を水中には入れてない。

「取れなくても一匹はくれるみたいだけど……絶対とれるまでやり続けそうな顔してる」

 瑠美さんは、潤くんを見て、クスクス笑う。
 四ノ宮が出目金を取ったまま、潤くんのとなりに座って、楽しそうに見守ってる。

 なんか微笑ましすぎる。捕れるといいなあ。潤くんの手元が見えるところから、潤くんを見つめていると。思い切ってやったのが良かったのか、上手に網にのって、左手のお椀にうまく入った。やったーと拍手してしまうと、潤くんはめちゃくちゃ嬉しそう。「潤まだ、いけるよ」と四ノ宮が言って、潤くんがもう一度金魚に目を向けた。
 で、結局、二匹ゲット。「すごいね、僕」と金魚すくいのおじさんにも褒められて、潤くんはご機嫌。オレと四ノ宮の金魚も、潤くんに上げることになってたので、瑠美さんに渡した。すると、めちゃくちゃ笑顔で、瑠美さんの腕の中で、金魚を見つめている。
 ほんと、楽しそうで、のびのびしてて、良い笑顔。可愛いなあ。

「潤くんて素直だよね」
 瑠美さんと潤くんが前を行くのを後ろから見つめながら、オレはそう言って、四ノ宮を見上げた。

「そうかも、素直すぎなくらいだよね?」
「四ノ宮もそうだった?」
「まだあの頃はそうだったんじゃないかなぁ……?」

 うーん、と考えながら、四ノ宮がオレを見つめて、苦笑を浮かべた。

「素直じゃなかったと思ってるんでしょ」
「んー。どうだったのかなあって」

 四ノ宮が少し考えてる顔をしてるので、じっと見つめていると。

「結構小さい頃から、好かれる方法を知ってて、実践してたかも」
「……そうなんだ」

 ふ、と笑ってしまう。

「でもさ。四ノ宮は、今、毎日素直だよ」
「――――」

「こっちが恥ずかしくなるくらい。素直なんじゃないかなあ」

 クスクス笑いながら、思ったことを言ってしまうと、四ノ宮も、楽しそうに、オレを見つめた。


「まあ、それはね。大好きな人と、毎日居ますから」
「……ほんと、恥ずかしい」
「でもそれ言ったら、奏斗も、結構素直になったと思うけど」
「オレはもともと素直だし」
「へー」

 二人で、顔を見合わせて、笑った時。すれ違った人ごみに押されて、四ノ宮の手と触れ合った。あ。と、引こうとした時。

「はぐれそうだから」

 四ノ宮がオレの手を掴んで、そう言って微笑んだ。
 ――――ますます増えた人込みの中なので、誰も、見えないと思うし。

 
 いつもさんざん触れ合ってるのとは、すこし違う。
 軽く触れ合う、四ノ宮の温度が、嬉しくて。すごく、ドキドキする。







(2024/9/6)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

浮気な彼氏

月夜の晩に
BL
同棲する年下彼氏が別の女に気持ちが行ってるみたい…。それでも健気に奮闘する受け。なのに攻めが裏切って…?

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

R18禁BLゲームの主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成りました⁉

あおい夜
BL
昨日、自分の部屋で眠ったあと目を覚ましたらR18禁BLゲーム“極道は、非情で温かく”の主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成っていた! 弟は兄に溺愛されている為、嫉妬の対象に成るはずが?

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません

柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。 父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。 あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない? 前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。 そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。 「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」 今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。 「おはようミーシャ、今日も元気だね」 あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない? 義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け 9/2以降不定期更新

処理中です...