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番外編
番外編【諦めるか否か】大翔side 22
しおりを挟む感極まって泣きそうで顔があげられないとか、そんなことが自分の人生に起こるとは思わなかった。
情けないとも思うけど――――こんなに好きになれたことが嬉しい気もする。
奏斗の肩に、額を押し付けたままでいると。
「……四ノ宮?」
小さく、呼ぶ声。可愛い。
オレを、呼んでくれるってことだけで、こんなに嬉しいとか。
「……ん?」
一応返事はするけれど、まだ感極まってて、とにかく、堪えてると。
少し、奏斗が笑った雰囲気。
「……あのさ」
「ん」
奏斗が話し始める。オレが顔を上げなくても続けるみたいなので、聞くことにした。
「オレと付き合って。……ずっと一緒に居たいって思ってくれるように……頑張るから」
「――――」
付き合ってって。
……今、オレと付き合ってって。
奏斗、今オレに、そう言った?
びっくりしたおかげで、なんか、泣きそうなのは引っ込んだ。
ぱ、と顔を上げて、オレは、奏斗をじっと見つめた。
「いまのもう一回。オレの顔見て言って?」
「え? あ、うん。分かった」
奏斗はオレの顔を見つめて、なんだかやわらかく、ふわ、と笑った。
「オレと、付き合って? ……ずっと一緒に居たいって思ってくれるように、頑張るから」
もう、マジで。
……感動してる。
「頑張んなくていいよ。そのまま、居てよ。……つか、今オレ、奏斗に、付き合ってって、言われたの?」
「……何その質問……言ったよ?」
苦笑いの奏斗。
……確かに変な質問だって、自分でも思うけど。
だって。
……奏斗が、オレに、付き合ってって言うとか。
まだなんか、現実味がなさ過ぎて。
「すげー嬉しいんだけど。付き合うに決まってるし」
現実味は感じられないけど、でもそれでも、嬉しすぎて。
そう答えると、奏斗も、ふ、と嬉しそうに微笑んだ。
可愛くて。
……愛しすぎて。
奏斗の頬に手を触れさせた。
「今からもう、オレので、いい? 奏斗は色々心配してるけど……オレ、今更無理なことなんかないと思うし。離さないよ?」
「……うん」
「オレ、嫌ってくらい側に居るよ?」
「嫌って、言わないし。オレ、四ノ宮が側にいるの、嫌って思ったこと、ないよ」
「んな可愛いこと言ってると、離さないからね」
「うん。それが、いい」
ちゃんと頷いてくれた。
まだ、信じられないような気持ちは、あるけど。
奏斗が、ちゃんとオレを見つめて、頷いてくれてる。
「後悔しないでね?」
ついつい、そんな風に言ってしまった。
「後悔って?」
「オレ、初めてだから」
「なにが?」
「こんなに、人を欲しいと思うのも、好きだって、思うのも」
そう言うと、奏斗は、オレをじっと見つめた後で、小さく首を振った。
「――しないよ。後悔なんて」
奏斗の、キラキラした、綺麗な瞳。
――――今まで、こういう話をする時はいつも、諦めたみたいなことばかり言っていた。恋なんかしないって。一人で生きるって。
オレが好きだと言っても、いつも迷うみたいな表情だったのに。
今は、なんだかすごく吹っ切れた顔をしている。
離れている間、自分で色々クリアしてた奏斗が、今、ちゃんとオレといる覚悟、してくれたんだってことが分かる感じ。
――――奏斗は、決めたら、まっすぐな人なんだと思う。
迷いがない、瞳が綺麗で―――見惚れる。
……こんな風な表情を、奏斗がしてるのが、マジで、嬉しい。
「……そっか。ん。分かった」
――――オレを見つめてる奏斗を見つめ返してから、ぎゅ、と奏斗を抱きしめる。脇に手を入れて、ひょいと抱き上げたら、「え?」と見上げられた。
「いますぐオレのにする」
オレがそう言うと、びっくりした顔の奏斗に、靴がとか鍵がとか、ワタワタ暴れられたので仕方なく一度降ろすと。鍵をかけてから、オレを振り返る。
「ん」
腕を開いて、待ってると。
奏斗が、靴を脱いでから、ちゃんとオレの腕の中に、入ってきた。
こうして開いた腕の中に、入ってくれるとか。
一気に、愛しいって感情が、あふれるみたいで。
きつく抱き締めていた。
「オレに奏斗、ちょーだい」
そう言ったら、奏斗は、照れたみたいに、ふ、と笑った。
「……四ノ宮も、くれるなら。いいよ」
そんな返事が返ってくる、なんて。
――――もう、なんか、もう。
嬉しいの極地。
全部、あげるに決まってる。
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