【初恋よりも甘い恋なんて】本編完結・番外編中💖

悠里

文字の大きさ
上 下
518 / 555
番外編

番外編【諦めるか否か】大翔side 20

しおりを挟む




 何て答えたらいいのか分からなくて、奏斗と見つめ合う。
 もう見られなくなると思っていた瞳が、急にまっすぐにオレを見つめてくるだけで、胸の中に良く分からない感情で溢れてて、何も言葉が出てこない。
 そうしていると、奏斗がオレを見つめたまま話し出した。

「オレとじゃ、普通の幸せは無理だと思う。結婚して、子供とか、そういうの。……潤くん、すごい可愛くて……四ノ宮に似てて――――オレじゃ、そういう幸せはあげられないんだけど……」

 ……潤? ……オレに似てて、可愛くて?
 結婚とか、オレの子供のこととかも、考えてたのか。
 オレが誰かと結婚して、オレに似た可愛い子供、作った方がいいって……。
 それの方が幸せだって、決めてたのか。

「……それでも、いい? ……ってよくはない、と思うんだけど……」

 続けてそんな風に聞いてから、でも、すごく困った顔をしてる奏斗。
 そんなことに、そんな風に、迷ってたのかと思うと……。

「それはさ、奏斗」

 オレは、奏斗の腕を掴んで、まっすぐに視線を合わせた。困ったように、揺れる瞳が――――ああ、なんか……家族と話してる時も出てきてたけど、本当にこういうので、奏斗は、オレを断ったのかと、不意に腑に落ちた。

「それは、オレだってそうだよ。オレと付き合ったら、そういうのはしてあげられない」
「でも、四ノ宮は、もともとは」
「もともとどうとか関係ない。オレ達、お互い、それはあげられないってのは分かってる」

 はっきりそう言ったら、奏斗は、言おうとしていた言葉を飲み込んだ。

「それでも、オレは、奏斗に好きって言ってる。奏斗と居たい」

 分かってもらいたくて、まっすぐに見つめる。

 奏斗と離れてから色々考えた。
 ――――奏斗以外の男にいく気はおきそうにないから、誰かと結婚して、家族を作っていくのか、とか。無理矢理そう思おうともした。けど。

 奏斗は、静かに俯いて、少し唇を噛んだ。
 少し待っていると、またオレと視線を合わせて、ゆっくりと唇を解いた。

「……オレ、四ノ宮と住む世界が違うとか色々思うし……四ノ宮は、オレと離れた方が幸せかもって、思う気持ちもあるし……言ってたこと全部に、嘘は、ないんだけど……」

 そう言って、また少し黙る。
 オレは、そっと、奏斗の頬に触れた。

 何を言ってもいいよ、と思って。
 ……本当に、何でも。

 オレと奏斗が、別れるための言葉じゃないなら。
 なんでも聞けるし、なんでも、どうにかできる気がする。


「でも……オレ、まだ、トラウマも、あったんだと思う」

 もう一度、少しだけ唇を噛んで、オレを、なんだか一生懸命な感じで見つめてくる。

「……いつかまた、男じゃ無理って……四ノ宮にも言われるのが怖いって気持ちがあったのかも」
「――――」
「それで、離れようって言った、のかも……って……今、なんか急にそう思った……」

 ……そうだったのか。と、ただ普通に思う。
 和希に言われたことが、奥の奥に残ってて、オレがそれを言うかもって、心のどこかで、思ってたってことか。
 ――――なんだか色々、腑に落ちていく。その都度、それを話してくれている奏斗が、どんどん愛しくなっていくような気がする。

「……ごめん、四ノ宮」

 じっと見つめてくる奏斗。
 数秒見つめ合って。……可愛くて、ふと気持ちが緩んだ。

「ごめんって何? ……何で謝るの?」
「いつか、無理ってお前に言われるの怖くて、逃げたんだと思う、から……ごめん」

 オレがいつか、男じゃ無理だと言って奏斗から逃げる。そんなことがあるか、考えてみる。

 奏斗に限って男が大丈夫なのは、もう分かってる。……ていうか、男とか女とか関係なく、奏斗が愛しい。
 ……いつか、奏斗じゃ無理って、オレが言うなんてあるかな。

 少し考えながら、まっすぐに、大きな瞳を、見つめていたけれど。
 ふ、と心の中に、暖かいものが浮かんだ。

「……大丈夫だよ」
「……?」

 こんな風に欲しいなんて思ったのは、奏斗だけだった。
 男でも。面倒くさくても。好きな奴がいても。奏斗がオレのことを嫌いだとしても。
 オレは、奏斗に幸せでいてほしいって、思ってた。

 オレが、この手で、幸せにできるなら。
 ……離すわけ、ない。


「オレと居れば、そのトラウマ、絶対なくなるから」

 そう言ったら、奏斗は、「ありがと」とだけ言ってから、またオレを見上げてくる。


「でもね、その、怖かったのは……あの時のオレで……」
「……ん」
「……今、考えると、少し違う風に思えてる、かも」
「うん」

「付き合ったら、別れることはあるかもしれないけど……でも別れてもオレ、前みたいにはならないと思う。怖がって一人でいるより、離れようってならないように……大事にしたいって、思う」

 奏斗はオレをまたまっすぐに見つめると、その右手で、オレの頬に触れてきた。


「四ノ宮のこと、今……オレが、幸せにしたいって――――思っちゃってるんだけど……いい?」


 最後の方は、少し自信なさそうに、トーンが落ちて。
 言うと同時に少し、首を傾げる奏斗。

 可愛すぎる。嬉しすぎる。
 ――――……その感情で溢れて、なんか、息が止まりそう。


「いいに決まってるし。――――言ったよね。オレ、奏斗が笑っててくれれば、幸せだって」

 さっきまで泣いてくせに。――――天地ほど違う感情に、少し戸惑うけれど、それよりも。
 オレがそう言った瞬間に、奏斗が嬉しそうに、ふわっと表情が緩んだのが可愛くて、なんだか自然と笑みが浮かんだ。


「奏斗」


 引き寄せて、抱き締める。


 奏斗と呼べることも。
 触れることも。
 抱き締められることも。


 こんなに、嬉しくてどうしようもないなんて。


「奏斗がオレを、幸せにしてくれるの?」


 腕の中に引き寄せた奏斗を、触れてしまいそうな至近距離で見下ろす。


「――――……」


 またオレを、じいっと見つめて、数秒。


「うん。する。……幸せに、したい」


 ふわ、と笑った奏斗に、我慢なんかできる訳も無くて。
 唇を重ねた。







(2024/4/24)

しおりを挟む
🧡💛💚💙💜💚🩷🩵
お読みいただき、ありがとうございます♡
🩵🩷💚💜💙💚💛🧡

感想やリアクションが、色々な意味で、作品への後押しになります。
なにげないひとつの「ぽちっ」が、私のやる気も後押ししくれています(´∀`*)ウフフ
いつもありがとうございます🩷

投稿サイトが増えてきて全部でお知らせとかが大変なので、
Xでまとめてすることが多いです。

Xノベルとか、短いBL創作とか、これから色々していこう~と思っているので、
フォロー&応援お願いします🩷 
🩵「悠里のX」こちら✨です🩵

感想 331

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

あの頃の僕らは、

のあ
BL
親友から逃げるように上京した健人は、幼馴染と親友が結婚したことを知り、大学時代の歪な関係に向き合う決意をするー。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

処理中です...