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番外編

番外編【諦めるか否か】大翔side 13

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 なるべく感情を出さないように、静かな声で話す。

「最初はオレはゲイじゃないと思ってたし、手を出したりしちゃだめだって思っててさ。奏斗が薬を飲まされて連れてったホテルだって、結構長いこと我慢してたんだよ。我慢しないと、ヤバかったし」

 あの時のことを思い出すと、奏斗が危ない目に合わなくて本当に良かったと心底思う。もう絶対、そんなとこに行かせられないって、多分その気持ちもあったから。ずっと抑えてた、奏斗を誰にも抱かせたくないって気持ちが――――あの時、「オレが抱く」になったんだよな。

 こんなに奏斗を好きだと思えたのは、あれがあったから。
 そう思うと、あの日がオレにとっては、やっぱり特別な日かも。

「言っとくけど、こうなったの、そのせいじゃないからね。きっかけだったかもしれないけど、オレが奏斗を抱くって決めた時は、もうずっと居るって決めてたし。それだけの気持ちはあったから」

 あの時、ずっと居るって。決めてたって。

 自分で言ってて……なんか本当に、胸が痛い。

 そのせいじゃない、どころじゃなくて。
 あれがあったおかげで、奏斗に向き合えて……で、結局、奏斗を好きだって、認められたのだと思うし。奏斗はもしかしたら、「あのせいでこんなことになった」って思ってるのかもしれないけど。


「恋人が出来たら引くって線を引いたのは、奏斗が、誰ともそうならないって言ってたってからだしさ。……あの時、好きだから抱くなんて言ったら、奏斗、断固拒否したでしょ? それに、オレの好きも、はっきり自覚したのは結構後だったし……――――だからね。偶然とか勘違いとかじゃなくてさ。オレは、奏斗が思ってるよりずっと、奏斗のことばっか考えて、ここまできたんだよ。たまたまが重なったとか、勢いで抱いて勘違いしたとかじゃ、ないよ」


 ――――でも。
 そんな線を引かず、最初からもっとちゃんと考えて、もっと早く、好きだからって言ってたら。もっと、違ってたかな、と思う自分も居る。

 少し下がって来てる奏斗にふと気付いて、オレが奏斗を背負いなおすと、「あ。重い、よね……降りるよ」と、久しぶりに奏斗が声を出した。 

「平気。さっきふらふらしてたし、マンションまで行く――――でもごめん、もうちょっと、前に腕まわしてくれる? その方が楽」

 そう言ったら、奏斗は、素直にオレの前で腕を組んだ。抱き付かれてるみたいで、鼓動が速まる。……やむなく、抱き付いてるだけだとしても。

 ……奏斗と出会ってからの話をずっと、奏斗にしてきて、初めて言ったことが、結構ある。

 もともとオレを胡散臭いと思っていた人に、オレは、大事なことは隠して、ずっと、居たような気がする。
 こんな状態で、受け入れてもらうとか――無理だったかもな。

 答えない奏斗に、オレの気持ちばかり話して、押し付けても。
 奏斗は辛くなるかな……。

「――――……」

 こんな風に、奏斗が思ってたこととは全部違うんだって言って……こんなの、だから考え直してって言ってるみたいだと、全部言ってから、気づく。

 これだと、奏斗は、オレに、自分の思ってること、言えないかもしれない。
 少し考えて、オレは、ふ、と静かに息を吐いた。


「……でもオレ、奏斗のこと、ちゃんと、諦めなきゃって思ってる」
 
 ……家族と話すまでは、そう思ってた。というか、今も、そう思う自分も居る。本当のことをちゃんと話しても、奏斗の気持ちが変わらないなら、そうしなきゃいけないと思ってる。マンションも出て、ちゃんと奏斗と離れないと。そこまで思って、オレは一度、唇を噛んでから。


「――――奏斗、和希と、より戻した?」

 なるべく静かに、その質問を口にした。


 奏斗と別れてから、ずっと聞きたかったこと。
 すると、後ろで奏斗が、ぇ、と小さく声を漏らした。

 その反応に、違うのかな? と、なんとなく思ったけど。
 ――――でも付き合ってないからって、オレと付き合うとは限らない。

「和希に会ったって日に急に、オレに無理って言ってきたからさ。――よりを戻すつもりか、戻さなくても、やっぱり好きだって思ったのかなって。だからオレ、諦めなきゃって、思ったんだけど」

 そう言ったら、しばらくして奏斗が、話し始めた。

「……あのさ」
「ん?」
「和希とのこと……話してもいい?」
「話していいよ。つか何で聞くの? 話してダメなんてこと、ないよ」

 そう言うと、奏斗は、また少し黙ってから、また続けた。

「あの後、和希と会ってちゃんと話せた。謝ってもくれたし、辛かったってことも、もう平気ってことも、ちゃんと言えて……。その後、部活の皆にも会って、連絡取れなくてごめんって言ってきた。これからまた、皆と会えると思う」

 聞きながら、驚く。
 和希と話せそうとは言ってたけど……その後、部活の皆にも会えたんだ。
 そっか……。

 つか――――……ああ、なんか。

 離れてる間も。
 奏斗は一人でちゃんと考えて、ちゃんと頑張ってたんだな。

 トラウマも。
 友達に会えなくて辛かったのも、吹っ切ったのか。

 良かった、と思うけど。


 その時側に居て、すぐに話を聞きたかった。抱き締めて、頑張ったねって、言いたかった、とも、すごく想う。







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