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番外編
【全部って】真斗side 6 終
しおりを挟む少し考えてたカナが、オレを見て、あ、と口を開いた。
「もしかして、四ノ宮にも聞いた?」
カナはオレに聞いたのだけど、四ノ宮さんが、クスクス笑って代わりに応えた。
「うん。聞かれたから、話したよ」
「……変なこと言ってない?」
「後で教えてあげる」
からかうようにニヤニヤ笑う四ノ宮さんに、カナは、むむ、と眉を顰めながらも。ふ、と笑った。
「どこが、かぁ」
んーと考えた後、あ、と楽しそうな顔をしたカナが笑顔で言ったのは。
「ご飯、美味しいとこ」
「え」
カナがニコニコしながら言ったのは、それだった。
「それが一番?」
「ん? あ、うん。そうかな」
四ノ宮さん、気を悪くしないのかな、と思ったけど、四ノ宮さんは、ちら、とカナを見て、ふ、と微笑む。
「オレもトイレ行ってくる」
笑みを含んだ声で、そんな風に言いながら、四ノ宮さんは立ち上がって歩いていってしまった。
「つか、ご飯が一番って。四ノ宮さん怒んない?」
「うん、多分そんなのでは怒んないかな」
ふふ、と笑いながら「……ていうか、ご飯ていうかね」と言って、カナはオレを見つめる。
「なんか、美味しくしようとか、綺麗に飾ろうとか、頑張って作ってくれる感じがしてね。料理ができるのはそうなんだろうけど……気遣ってくれる感じがすごくするっていうか」
「――――……」
「そういう風な四ノ宮がすごく良いな、と思ってて、つい出ちゃったんだけど。でも」
はは、と笑ってから、カナはオレを見つめる。
「真斗にこんなの言うのは、恥ずかしいんだけどさ……」
「何? ていうかもう今更って感じ。はっきり言っていいよ」
オレがそう言うと、すごく照れた顔をしたカナが。
「全部」
「ん?」
「……今は、もう、全部、好き」
「――――」
カナも、全部って言った。
全部好きって、そんなことマジで答える人、本当にいるんだなあ。ていうか、今実際二回も聞いてしまったけど。
「嫌いなとこ、ないの? 嫌なとことか」
「んー……今思いつかない、かな」
しばらく考えてたカナがちょっと困ったみたいに、そう言った。
本気で思い当たらないらしい。
その表情を見ていたら「分かった。もう、十分」と、笑ってしまった。
「あ、でも色々言ってる時もあるから、そん時は何かあるのかも。なんか四ノ宮ってオレのこと、からかうの好きみたいな気がするし。だから、なんか、文句言ってる時もあるけど」
「ああ。なんとなく分かる……」
「あ、分かる?」
「うん」
さっきも、からかうみたいな顔、してた気がするし。
……まあでも……カナのことが可愛いんだろうなって感じだった。
「でもなんか、今、嫌なとこ、とか考えても出てこないかなって感じ」
「じゃあいいんじゃねーの?」
クスクス笑ってそう言ったら、カナも、ん、と微笑んで頷く。とそこへ。
「話、終わった?」
笑いながら四ノ宮さんが戻ってきた。
「うん。なんとなく」
カナが四ノ宮さんを見上げて、ニコッと笑う。
……嬉しそうに。
そんなに全部好きってなってて、もしまた別れたりした時、カナは平気かなあ……と、一瞬心配がよぎってしまうのは、前の時に、やばかったカナを見てたからなんだけど。
「奏斗こそ、変なこと、言わなかった?」
クスクス笑いながら、四ノ宮さんがカナの隣に腰かけて、カナを見つめた。
「全然。言ってないよ」
「ほんとに?」
「うん。……多分」
「多分って」
四ノ宮さんの苦笑に、ふふ、と笑い返すカナ。
目の前でやたら仲良しな二人についつい。
「――――どっちも、結局、全部好きだって」
そう言ってやると。
二人は、え、と顔を見合わせて。それから、カナはぱっと視線を外して、明らかに照れてるし。
四ノ宮さんは分かりにくいけど、多分照れてるみたいで、前髪を掻き上げながらカナから視線を外した。
……まあ、当分は、大丈夫そうな気がする。
恋人いらない、を、どうやって乗り越えたのか分かんねーけど。
ひたすら大事にしてるっぽい、四ノ宮さん。この感じで、どーにかしてくれたんじゃないのかなと、予想。
カズくんの時とは違うのは、カナが、隠そうとしていないところ。少なくともオレに、四ノ宮さんの全部が好きとか、言えてるし。
四ノ宮さんも、別にバレても、カナが幸せならいいって言いそう。
……良かったな。
二人を見てなんだか安心して、店の前で別れた。
なんとなく、オレが見送る感じで。少し離れて振り向いて、バイバイしてくるカナに、小さく手を振り返す。
――――……。
オレも、「全部好き」とか言える相手。
真面目に探してみようかな。
なんて、ちょっと柄にもないことを、考えた。
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