483 / 551
番外編
【全部って】真斗side 2
しおりを挟むカナはたぶん、四ノ宮さんの前では聞かれたくないと思うけど。
聞いてみようかなぁ。……心配してたんだし、オレ。
「カナ?」
「ん?」
「一回断ったのに、どうして付き合うことになったの?」
「ん。あ、うん」
オレがそんなこと聞くとは思わなかったんだろうな。少し驚いた顔をしてから、んーと、と考えている。
「……あの日、実家から帰る時さ、ゼミの集まりに行くって言ったでしよ」
「ああ、そだね」
「……そこに四ノ宮も来たんだ」
「うん」
「それで、会って」
「うん」
えーと……と、すっごい色々考えている顔をしている。
これはきっと何かやらかしたんだろうなーと、すぐ分かる顔。
まあカナが何かやらかして、四ノ宮さんと二人んなって、話した結果、て感じかな。
困った顔で、四ノ宮さんをちらっと見るカナ。無意識なんだろうけど、助け求められても四ノ宮さんも困るだろうに、とちょっと可笑しくなってきて、もうこの質問打ち切りにしようかな、と思った時。
苦笑しながら、四ノ宮さんが、オレを見た。
「オレが一回思い切り振られたっていうのは知ってるんだよね?」
「あ、はい」
思い切り振られたって。
クス、と笑ってしまうと、四ノ宮さんも笑いながら。
「オレが未練ありすぎて、旅行のおみやげを口実に自分ちに来てもらって、それで、色々話した……て感じかな」
カナがやらかしたことは、入ってないな。
四ノ宮さんの顔を見ながらその言葉を聞いて、オレはカナに視線を移した。
カナは、オレを見て、んーと、とまた考えてる。
「……なんか今ものすごく色々、省略してくれたけど」
カナはそう言って、四ノ宮さんを見上げて。
目が合うと、ぷ、と吹き出して、クスクス笑った。
――――……おー。……なんか。カナ。
……変わった気がする。
オレの内心の驚きには気づかず、カナはオレを見ながら話し始める。
「ゼミの飲み会でね、オレ、ジュースと間違って、似てるお酒飲んじゃって」
「は? カナ、何してんの」
オレが一瞬でツッコむと、「だよな、何してんのって感じ。ほんとたまに、えっ?てことするんだよね」と、四ノ宮さんが笑う。
「隣同士って分かった頃も、ベランダで布団干そうとして転がって、しかも割ったプランターで怪我したりしてさ」
「わー、言わなくてもいいじゃんか、それ」
カナがそんな風に言ってむくれたところに、店員が飲み物を運んできた。
少しだけ無言になってるけど、カナは、むー、と四ノ宮さんを見つめてて、四ノ宮さんは、楽しそうにクスクス笑ってる。
で、結局、店員が居なくなる頃には、カナも、そんなこともあったね、とか言って笑ってるし。
「それ、怪我してどうしたの?」
「その時は、ベランダでその様子聞いてた四ノ宮が話しかけてくれて、手当しに来てくれた」
苦笑いのカナに、四ノ宮さんも、だってあまりにドジすぎて……と笑ってる。
「あ、その話はおいといて……そう、間違えて飲んじゃったらちょっと酔っちゃって、四ノ宮に連れて帰ってもらって……あ、ゼミの先生が、家近いの知ってるから、連れて帰ってあげてって四ノ宮に言ったから、なんだけど」
「うん」
「それで二人になって、色々話したんだ」
カナは、そう言って、オレをまっすぐ見つめる。
――色々細かく聞くのは、二人ん時でいいや。
四ノ宮さんの前でこれ話すのは、すごく照れそうだし、カナ。
そう思って、オレはこの話題はしめることにした。
「話したら、やっぱり、付き合いたいってなったんだ?」
そう言うと、カナは、じっとオレを見つめてから。
ん、と頷いた。ふわ、と、微笑んで。
「――――……」
あ、やっぱり、と内心、すごく驚く。
こんなに、幸せそうに笑うカナ。
……いつぶりだろ。
なんかちょっと感動。……するかも。
いや、泣いたりはしねーけど。
付き合うようになったのがあの日なら、まだそんなに日は経ってない。
この短期間に、あのカナが、こんな風に笑うようになるとか。
……すげーな、この人。と、四ノ宮さんを見てしまう。
オレみたいな、アマノジャクというか、全然素直に人に頼るとか無いような奴が、ほとんど会ってない段階で、なぜかカナをよろしくなんて言ってしまった、四ノ宮さん。
なんか、謎に信頼感、あったんだよな。
カナのこと、任せられそうって。
四ノ宮さん推しとか言ってしまってたけど。
当たってたかも。謎の勘。
132
お気に入りに追加
1,602
あなたにおすすめの小説
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
『別れても好きな人』
設樂理沙
ライト文芸
大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。
夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。
ほんとうは別れたくなどなかった。
この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には
どうしようもないことがあるのだ。
自分で選択できないことがある。
悲しいけれど……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
登場人物紹介
戸田貴理子 40才
戸田正義 44才
青木誠二 28才
嘉島優子 33才
小田聖也 35才
2024.4.11 ―― プロット作成日
💛イラストはAI生成自作画像
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
初夜の翌朝失踪する受けの話
春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…?
タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。
歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる