上 下
473 / 551
未来

「愛しい」*奏斗

しおりを挟む




「ありがと……」
 
 その言葉を言ってくれる、四ノ宮のことは、好きだと思う。
 でも。

「でもね、その、怖かったのは……あの時のオレで……」
「……ん」

「……今、考えると、少し違う風に思えてる、かも」
「うん」

「付き合ったら、別れることはあるかもしれないけど……でも別れてもオレ、前みたいにはならないと思う。怖がって一人でいるより、離れようってならないように……大事にしたいって、思う」

 オレは、四ノ宮を見上げて、右手で、その頬に触れた。
 
「四ノ宮のこと、今……オレが、幸せにしたいって――――思っちゃってるんだけど……いい?」

 最後の方は、少し……いや、かなり、勢いが落ちながら、言ったら。
 ふ、と四ノ宮が笑った。

「いいに決まってるし。――――言ったよね。オレ、奏斗が笑っててくれれば、幸せだって」

 嬉しそうに笑う四ノ宮。
 久しぶりに見た気がする、全開の笑顔に、胸がきゅ、と締め付けられる。

「奏斗」
 四ノ宮はオレを腕の中に引き入れて、抱き締めた。

「奏斗がオレを、幸せにしてくれるの?」

 触れてしまいそうなくらい至近距離で、じっと、見つめられる。

「――――……」

 これに頷いたら。今までの、離れる決意とか、馬鹿みたいに無駄になるし。
 四ノ宮の、「普通の幸せ」は、やっぱり叶えてあげられないし。
 オレだって、あんな、世界の違うところに入ってくには、相当、覚悟がいるわけだし。 

 ……でも。
 さっきの泣き顔とは打って変わって、すごく嬉しそうに、オレを見つめて笑う四ノ宮の顔。 

 愛しいって、思ってしまう。
 ……ていうか、いつからかずっと、そう思ってたのかもしれない。気持ちに、気付かないように、してきただけで。

 ドキッてしたり。可愛いって思ったり。
 ずっと。愛しかったのかも。

「うん。する。……幸せに、したい」

 言った瞬間、重なってきた唇。
 何度か触れては離れて。
 見つめ合ったまま。

 鼓動がどんどん速くなって。
 体温が、あがってく感じ。

「……っふ……」

 柔らかいキスでしかないのに、少し震えて声が漏れた。きゅ、と瞳を閉じると。

「奏斗」

 笑みまじりの声で、四ノ宮に呼ばれる。瞳を開けると、まっすぐ見つめてくる瞳が、優しく緩んで。

「……奏斗」

 嬉しそうに呼ばれて。胸がきゅう、となった瞬間、ゆっくりキスされる。
 舌がオレの舌に触れると、いきなり深く絡んできて、また、ぎゅ、と瞳を閉じる。

「……っん、ふ……」

 ――――……四ノ宮のキス、だ。

 嬉しくて。
 涙が、滲む。


「……奏斗」

 は、と熱い息が漏れる、その唇の間で、四ノ宮がオレの名前を囁く。

「……っ、ん……」

 見上げて、視線が絡むと。
 胸が。苦しい。

 ――――しばらくキスされて、それから、ゆっくりと唇が離れた。

「奏斗……」

 四ノ宮の手が、オレの頬にかかる。至近距離で、まっすぐ見つめられる。

「他の難しいことは全部どうにかするから。家がとか、この先がとか、全部なしで……今、オレのこと、好き?」

 そんな風に聞かれて、何度か瞬きをして、四ノ宮を見つめる。


「うん。――――……大好き」

 ……やっと、言えた、言葉。

 胸が詰まって、自分で言った言葉に、なんか苦しい。

 見つめ合って数秒。四ノ宮は、ぎゅっと瞳を閉じた。と思ったら、そのまま、四ノ宮の頭が、オレの肩にぽふっと沈む。

「……超、嬉しいんだけど」
「――――」

「……嬉しくて死にそうとか……ほんとに思うんだね」

 ……ていうか、オレは、そんなことを言う四ノ宮が可愛くて。愛しくて。

 もうなんだか、胸が痛くて。


 でも、幸せで。
 ――――……オレも、死にそう。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『別れても好きな人』 

設樂理沙
ライト文芸
 大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。  夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。  ほんとうは別れたくなどなかった。  この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には  どうしようもないことがあるのだ。  自分で選択できないことがある。  悲しいけれど……。   ―――――――――――――――――――――――――――――――――  登場人物紹介 戸田貴理子   40才 戸田正義    44才 青木誠二    28才 嘉島優子    33才  小田聖也    35才 2024.4.11 ―― プロット作成日 💛イラストはAI生成自作画像

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

強制結婚させられた相手がすきすぎる

よる
BL
ご感想をいただけたらめちゃくちゃ喜びます! ※妊娠表現、性行為の描写を含みます。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...