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未来

「初めての」*奏斗

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「……うん。……ありがと」

 どうしよう。
 オレ、四ノ宮が好きでしょうがない。
 でもやっぱり、四ノ宮を好きになる人は、他にもいっぱいいるだろうし。オレより、四ノ宮を幸せにできる人は、居ると思う、し。
 
「奏斗、ごめん、引き止めて。また……ゼミで、かな」

 ふ、と微笑む四ノ宮。その言葉に気づく。
 ……そうだ。帰らないと。

「……うん」
 なんとか頷いて、帰ろうと、ドアの方を向いた。その時。

「雪谷先輩」
「――――え」

 久しぶりの呼び方に、振り返る。

「次は、そう呼ぶから」
 四ノ宮は、そう言って苦笑すると、バイバイ、と手を振った。うん、と頷いて、オレはまた、ドアの方を向いた。

 胸が痛すぎて、辛すぎるけど。
 ……でも、これで、良いんだと思う。
 だって、オレ。
 四ノ宮に幸せになってほしい。

「四ノ宮」
「うん?」
「ありがと……あの――――オレね」
「ん?」

 顔を見たら泣きそうだから。
 ドアの方を見て。二号を抱き締めながら。

「四ノ宮が……ずっと幸せでいてくれたらいいなって、思ってる」

 なんだかまともに頭が働かない、真っ白な世界の中で。二号を抱き締めたまま、思ったことをそのまま伝えた。
 うん、て言ってくれたら、帰ろうと思った。
 けど。四ノ宮、返事をしてくれない。しばらく黙ったままで。どうしようと思った時、不意に。「あーもう」と、大きなため息をつかれてしまって、咄嗟に四ノ宮を振り返った。
 少し俯いてる四ノ宮が、目に映る。

「――――つか……」

 声が震えた気がして、四ノ宮を見上げたら。
 四ノ宮は、ふ、とオレから顔を背けて、口元を抑えて、少し俯いた。

「――――はは。もう……意味わかんないな……」

 笑ってるみたい、だけど。
 声が。
 震えてる。

「四ノ宮……?」

「オレ、奏斗が居ないと、幸せじゃないけどね。……分かんない、かな……」

 は、と吐く息も、震えてて。

「奏斗と居たのは、ほんと短い間だったけど……一生居たいと思うくらい、好きだし。オレが幸せにしたいのは、奏斗だし」
「――――」

「……奏斗が居ないと、幸せじゃないのに、幸せでとか……言わないでよ」

 視線を逸らされて、そんな風に、絞り出すみたいな涙声で言われて。
 二号の端をきつく、握り締めた。

「……は。カッコわる……ごめん、奏斗。帰っていいよ」

 
 初めて見た、四ノ宮の、涙。
 ……こないだ、ここから帰った後も、思った。

 こんな顔、させたくないのに、って。

「――――」

 四ノ宮とずっと一緒にいるという、覚悟。
 どうやってもできないと思ってたのに――――。

「しのみや……」

 オレは、抱えていた二号と、おみやげの袋を玄関に置いた。 
 そのまま、四ノ宮の腕を引いて、見上げる。

 四ノ宮の驚いたみたいな、涙の潤んだ瞳を間近で見たら、我慢、できなくて。

「奏斗、どうし――」

 オレは、四ノ宮の肩に触れて顔を寄せると、四ノ宮の唇に、唇を重ねさせた。
 触れたまま、四ノ宮の少し大きくなった瞳を見つめる。

 ……あんなにたくさん、キスしてたけど。
 オレが自分から、キスしたのは、これが初めてかも。

 鼓動が、速くなる。
 四ノ宮のことが好きだって、めちゃくちゃ、思ってしまった。




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