465 / 554
未来
「好きだって」*奏斗
しおりを挟むその後、椿先生も近くに来てくれてオレの様子を見ると、四ノ宮に「ユキくん、連れて帰ってあげてくれる? 近いんでしょ?」と言った。
「来たばっかじゃん、四ノ宮」とか、「ユキ、寝かせてあげた方がいいんじゃないかな?」とか、皆の声が色々したけど。
「皆の顔も見れたしお土産も渡せたので。とりあえず、今日は先輩、連れて帰ります」
四ノ宮の声がして、先生が、よろしく、と笑うと、皆の声は収まった。タクシー呼ぶ? と聞く先生に、歩いて帰れる距離なんで、と四ノ宮が言う。
すっかりおんぶされた状態で皆と別れて、四ノ宮が歩き始める。
全部やりとり聞こえてたけど――――ほんとは拒否しないといけないところだと思うんだけど。
……四ノ宮の背中に、今だけ甘えようと、思ってしまった。
今だけ。
これで、本当に、最後にするから。なんて。……バカみたいだけど。
それにしても椿先生、何で四ノ宮に頼むんだろ。皆の前で、近いって言ってたけど。もう少し店に転がしといてもいいだろうし、その後タクシーに乗せちゃえばいいような気もするし。近いってだけじゃない気がする。
絶対何か、悟られている気がする。まあでも、この先離れてたら、そっちも悟ってくれそうだから、もう、いいかな。
……にしても。ほんと、全部お見通しみたいで、ちょっと怖い……。
「もーほんと。何してンのかなあ……」
色々考えていたら、四ノ宮のゆっくりな声が、聞こえる。「ごめんね」と小さく答えると。
「ストロー入ってない飲み物を一気飲みしてるの見えてさ。あれ、アルコールじゃないのかなって、思ったんだよね……」
「ストロー……」
「あの店、ジュースには入ってて、アルコールには入ってないんだよ。今まで気づかず飲んでた?」
「……気にしてなかった」
「そっか」
四ノ宮は、クスクス笑って、少し黙ってから。
「ジンジャーエールの酒って……デジャヴュかよって感じ……」
苦笑してるのが、分かる。
次会った時、どんな声で話してくれるかなと……思っていたよりも、すごく優しい声に、なんだかまた、喉の奥が痛い。
こんな声で、話してくれるんだ。
あんな風に、断ったのに。
四ノ宮と、先輩後輩で、普通に話せるようになったらいいなんて、都合のいい考えがふっとよぎったけど。
ああ、でも……オレの恋愛感情、なくさないと、むり、か……。
「でっかい月。前にもこんなの、一緒に見たよね」
クスクス笑いながら、四ノ宮は優しく言った。
――――四ノ宮が今思い出してるのは、こないだオレも思い出してた時のことかな。また少し、胸が痛い。
「奏斗、気持ち悪くない? 平気?」
聞かれて、小さく頷く。
「話しててもいい?」
続けてそう聞かれて、また頷いた。
「返事しなくていいからね」
四ノ宮はそう前置きしてから、ゆっくりした口調で話し始めた。
「長期休みの家族での海外旅行って強制参加でさ。ほとんど子育てとかしてない人達なのに、そこだけは家族で楽しく過ごそうって、夏と冬は絶対旅行に連れていかれるんだよ。ほんとは学生の間だけの筈なんだけど、今回は姉貴と潤も一緒だったよ。……奏斗とあんな風に別れて、全然行きたくなかったけど、それに行かないと、学費とか全部ストップするとか脅されててさ」
クスクス笑って、四ノ宮が言う。
「向こうで時間あったし、家族と色々話した。親父が言ったことも聞いた。本気なら認めるって言ったんだってね。……元々好きでもない時に、本気だとかそんなの言われたって奏斗も困っただろうなーと思ってさ。……ごめんね」
ふ、と苦笑いする四ノ宮。
――――そんなの謝らなくていいのに。と思いながら、ぼんやりと聞き続ける。
「ゼミの連絡が来て参加する人を聞いたら奏斗も居て、そしたら顔が見たくなっちゃってさ。オレが行くって言ったら来ないかもしれないから、参加するとは言わずに急いで帰ってきたんだよね。……迷惑だったかもしれないけど」
呟いてる四ノ宮が、クスッと笑う。
「でも、こんなんになるなら、来て良かった」
優しい声。
ああ、オレ、四ノ宮がやっぱり好きだな……。
――――もし、明日死ぬと決まってるなら、オレ。
今、好きだって、言えるのに。
未来があるから、言えないとか……。
真斗の、めんどくさいねって声が聞こえるような気がする。
(2023/11/7)
105
お気に入りに追加
1,662
あなたにおすすめの小説
信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……
鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。
そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。
これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。
「俺はずっと、ミルのことが好きだった」
そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。
お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ!
※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。
【完結】捨ててください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。
でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。
分かっている。
貴方は私の事を愛していない。
私は貴方の側にいるだけで良かったのに。
貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。
もういいの。
ありがとう貴方。
もう私の事は、、、
捨ててください。
続編投稿しました。
初回完結6月25日
第2回目完結7月18日
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる